メタファイト、フラーレンに出会う

メタファイト、フラーレンに出会う


 ドラゴナイトハンターZのバグスター、グラファイト…つまり俺は、宿主である百瀬小姫の記憶を持っている。彼女に感染し分離した五年前までの記憶。恋人のブレイブと出会い、惹かれ、交際を始めて数ヶ月のところまでだ。

 俺の心にはブレイブと出会ったばかりの頃の、ラヴリカ曰く『ときめき』がずっとある。だがブレイブは小姫の彼氏だ。俺が自分の心で『ときめき』を培養させてしまってもそれは変わらない。


「小姫」

「ち、違う。俺は小姫じゃない」

「何を言っている? 君は……君が小姫だ」


 見覚えのないベッドで目を覚ました俺は隣にいた男によって押し倒された。その男は声も姿も俺の知るブレイブで、だけど絶対にブレイブじゃないとバグスターらしからぬ直感が叫ぶ。


「確かに俺は百瀬小姫の記憶を持っているが、俺自身はグラファイトだ。小姫は別にいるだろう」

「そうだ。君は百瀬小姫だ」

「だ、だから、完全体として分離したバグスターはそれまでの宿主の記憶を持っているんだ! ゲーム病に関わるなら基礎知識じゃないか! 宿主とバグスターは別人だ!」

「……訳がわからない。小姫はここにいる。君が百瀬小姫で、俺は君の恋人の」

「違う! 違うっ! 違う〜ッ!」


 それ以上聞きたくなくてブレイブの口へ手のひらを押し付ける。音にこそならないが伝わる動きは『ブレイブ』でも『鏡飛彩』でもない気がした。

「泣かないでくれ、小姫」

 目尻を拭った指はそのまま俺の髪を梳く。キスもたくさんされる。ブレイブがそうしていいのは小姫だけなのに。

 このまま身を任せたらきっと俺は、知っちゃダメなことをたくさん刻み込まれてしまう。予感が体を恐怖に震えさせる。バグスターでも怖くて泣くことはあるのだ。


「小姫、震えているな……俺が暖めてやる……」

「やだ、ブレイブ、だめ……」


 殴ってでも逃げなかったのは俺の裏切りだ。ブレイブの温度を、唇が重ねられたのを嬉しいと思ってしまった。

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