メカぐるみ─機械の星のアダムとイブ─

メカぐるみ─機械の星のアダムとイブ─





 時は西暦××××年。一隻の避難船が宇宙を彷徨っていました。母星に居られなくなったその船は、たくさんの人間の遺伝子と一部の科学者、それらを守るロボットを大量に乗せています。

 彼らは生きることができる安全な星を求めて彷徨いました。しかし船が故障し、とある星に不時着しました。

 その星は最低限の生命維持が可能な大気こそありますが、とても安全とは言えない危険な星でした。

 案の定、一人、また一人と生身の人間である科学者は倒れて行きます。

 とうとう数人にまで減ってしまうと、彼らはある目的を持ってロボットを改造し始めました。

 ───この星では生身の人間は生きられない。脱出することも難しい。ならば人間の方を作り変えよう。

 そうして元々船に配備されていた各ロボットは、一人ずつ人間の遺伝情報を組み込まれ、この星に適した『ロボットと人が融合した存在』を生み出すことが出来る母体ロボットとなりました。

 彼らはゆりかごのように登録された一人一人の遺伝子を守りつつ、その情報を使ってこの星の環境で生きられる新たな生命を誕生させます。

 人間とロボットの融合体。科学者たちはこの過酷な星に適応した彼らを『メカぐるみ』と名付けました。

 生み出された初代メカぐるみは殆どロボットの肉体でしたが、時代が下るごとに母体のAIが学習し、科学者たちが息を引き取ってから数百年後には、生身の部分が一部露出するほどに生物的な特徴が多く見られるようになっていました。

 各AIの最終的な目標は、自然交配による遺伝子の多様性の確保です。母体となっている機体は永遠に無事でいられる訳ではありませんので、それは必須のことでした。

 彼らはメカぐるみを誕生させる為に必要な物資を補給するため、星の各地に散らばっていました。物資の枯渇を避けるためです。

 交配が可能になるまで他のメカぐるみとはあまり交流しないようにプログラムを組み、それぞれの地域でメカぐるみを進化させていきます。

 続々と生まれて来る各地のメカぐるみによって、星のあちこちに自然と縄張りが形成されて行きました。


 さて、最新の世代である『ファラクト型エラン・ケレス4号』は、生まれてすぐに母体から離れて掌握地域を広げるべく旅をしていました。必要な物資が確保できる拠点を見つけられれば、自分の後継機がたくさん量産できるかもしれません。

 彼にとっての未知の領域を冒険していると、一人のメカぐるみに出会います。彼女は自分を『エアリアル型スレッタ・マーキュリー』と名乗りました。

 彼女はどうやら酷く憔悴しているようで、ぐったりとしています。基本的にメカぐるみは縄張り意識が強いのですが、彼女はよそ者である4号に助けを求めてきました。

 その様子に言いようのない『何か』を感じながら、4号はスレッタを助けるべく行動することにしたのでした。

 4号がスレッタに必要そうな物資を補給して戻ると、なんと彼女は他のメカぐるみに襲われています。

 見た事がない『デミトレーナー型♂』です。母体となっているデミトレーナーは元々の宇宙船で一番数が多く、それぞれの人間の遺伝子を備えている為、単純に種類が豊富でした。要は同じデミトレーナー型でも、生身の部分はまったく別の特徴を備えていたのです。

 初見のメカぐるみはスレッタの装甲を剥がそうとしています。本来守るべき有機物の部分が外気に晒され、一気に活動限界を迎えてしまうかもしれません。

 4号は何だかムカムカとして、そのメカぐるみを追い払いました。そしてスレッタに補給してきた物資を分け与えました。

 回復した彼女はいたく感激した様子で、お礼がしたいと言い出します。

 4号は戸惑いましたが悪い気はしません。拠点となるような所はあるだろうかと聞くと「自分も来たばかりだから分かりません、一緒に探しましょう!」と言ってスレッタも付いてくることになりました。

 こうして別種のメカぐるみの二人は一緒に行動することになったのです。

 しかしスレッタはトラブルを呼び込みます。何故か彼女は♂型のメカぐるみから狙われやすく、その度に4号は彼女を守る為に奔走しました。

 自分のせいで無駄な戦闘が起こっていると分かったスレッタは離れようとしますが、4号は首を横に振ります。彼女を一人にすればたちまち他の♂型に襲われてしまうと分かっていたからです。

 4号は彼女を守らなければいけないと強く思っていました。それは彼にとって拠点を探す事よりも優先されることでした。


 やがて二人は拠点となりそうな物資が豊富な場所を見つけましたが、そこには見た事のない母体ロボットが鎮座していました。

 詳しく調べてみると、その母体はもうすでに新しい生命を生み出す機能が無くなっているようです。

 ならば自分たちで拠点を使っても大丈夫だろう。そう判断して4号の母体ロボット『ファラクト』の元へ戻ろうと話していると、別のメカぐるみに襲撃を受けました。

 不意打ちの攻撃を受けて4号の装甲は大破。スレッタは連れ去られてしまいます。

 このままでは活動停止してしまう。そう判断した4号は、正体不明の母体ロボットの元へ這っていきます。

 一か八か、この母体ロボットで自らの装甲を修復できるか賭けに出たのです。


 一方その頃、攫われたスレッタの奮闘が始まっていました。

 襲撃を掛けて来た相手は『ダリルバルデ型グエル・ジェターク』。赤く頑丈そうな装甲を持った、とても強い♂型でした。

 スレッタは4号のことを心配して彼の元に戻ろうと暴れます。同時にどうしてこんな事をしたのか、とグエルを糾弾します。

 グエルは戸惑った様子で弁明しました。どうも彼はスレッタを見た途端に、『確保しなければいけない』と強く思ったらしく、自分の行動に疑問を持っているようでした。同時に他の♂型に渡してはいけない、とも思うらしく、4号の元に戻る気はないようです。

 その言葉を聞いて、スレッタは決意します。自分で戦い、4号を助けに戻るのです。

 VSダリルバルデ戦が始まりました。

 スレッタは補給をきっちり行っていた上、特に激しい戦闘にも関わっていなかったので万全の状態を維持していました。持てる限りの力を使い、全力でグエルと相対します。

 グエルは戦いに慣れているようでしたが、機体性能そのものはスレッタの方が上のようです。

 4号の戦いを見ている内に自然と闘い方を心得ていたスレッタは、死に物狂いで戦います。彼女の記憶回路には地に伏せる4号の姿がありました。

 そんなスレッタの姿を見て、グエルは本気を出せないでいました。自分の衝動がどこから来るのか分からない上に、必死な彼女の姿を見ていると胸の部品がズキズキと痛むのです。これでいいのか?という迷いがありました。

 気迫十分のスレッタと精彩を欠いたグエルの勝負は当たり前の結果をもたらしました。ひどく消耗しましたが、なんとかスレッタはグエルを無力化することが出来たのです。

 スレッタは地に伏したグエルを見て少し心配になりましたが、優先順位は間違えません。今すぐ4号の元に帰ろうと、くたびれた体に鞭を打って元来た道を引き返そうとします。

 しかしそんなスレッタに襲い掛かる者たちがいました。それは複数の『デミトレーナー型♂』です。4号に追い払われていた彼らが、徒党を組んでスレッタを襲いに来たのです。

 多勢に無勢。スレッタはたちまち劣勢に追い込まれます。グエルもスレッタを守ろうと立ち上がりますが、数の力にはどうしようもありません。

 多数の腕に捕まり、装甲が剥がされようとします。スレッタが悲鳴を上げた時、遠くからの攻撃が『デミトレーナー型♂』を吹き飛ばしました。

 スレッタは上を見上げ、目を見開きます。

 そこには黒い装甲の所々を白い装甲で覆った4号が、大きな武器をもってこちらに飛んで来る姿がありました。


 4号は賭けに勝ちました。見つけた母体ロボットで装甲を修復し、新たに『ファラクト・キャリバーン:(ハイブリット型)』のメカぐるみとして新生したのです。

 今まで以上の機動力で空を飛び、今まで以上の出力で攻撃を加えていきます。

 一定の距離まで近づくと、4号は地を這うような飛行に切り替えました。『デミトレーナー型♂』が苦し紛れで放った攻撃をその場で回転して躱し、同時に放った攻撃で的確に相手を落としていきます。

 敵わないと思ったメカぐるみ達が逃げて行きました。4号はその姿を無表情で見届けると、すぐさまスレッタのそばに降り立ちます。もう誰にもこの場所を明け渡すつもりはありません。

 スレッタは涙を流して4号に抱き着きます。少しばかり姿が変わっていたとしても構いません。彼は自分をずっと守って来たメカぐるみであり、彼女にとって唯一の存在です。もう彼と離れたくはありませんでした。

 4号はこの場所から移動すると言いました。ここは複数のメカぐるみ♂の縄張りが交差する危険な場所のようなので、スレッタも頷いて了承しました。

 最後にスレッタは自分を助けてくれようとしたグエルにぺこりと頭を下げます。襲撃してきた相手ですが、それはそれです。

 4号がぎゅっと力を込めてきましたが、スレッタは微笑みながら受け入れます。

 一度引き離された衝撃からか、4号とスレッタはお互いの目的が更新されていました。次に拠点を見つけても報告しに戻ろうとは思いません。何故なら二人で一緒にいることが至上の命題となったからです。

 グエルが敗北を認めて静かに見守る中、二人は一緒に暮らせる場所を求めてどこかへ去って行きました。


 数年後。その星では見たことも無い新種のメカぐるみが姿を現すようになったようです。







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