ムーンライト・ルナトーン
「月ってさぁ、太陽の光を反射してるだけだから自分で輝いてるわけじゃないんだよね」
通りすがりの塾帰りと思しき少年が、得意げな顔で歳の頃が同じくらいの少女に話しているのを見た。
今日びスクールでも習う知識だ。私だってそんな事とっくに知ってはいたけど、何せタイミングが悪かった。
心のどこかの、今ひどく脆くなっている部位に突き刺さってしまった気がする。
私はポケモンコーディネーターだ。
しかし、最近スランプに陥っている。
悩みは山のように尽きないけど、その中で一番大きなものは、古くから付き合いのあるパートナーのルナトーンを活躍させてあげられない事だった。
沢山の技を覚えて貰って、沢山組み合わせを試して
沢山の練習して、沢山の大会で披露したけどダメだった。
いつも予選落ちし、個別に渡される審査備考表に「技は派手だがルナトーン自身がそれに負けてしまっている、技の印象しか残らない」と書かれてしまう。
ポロックの研究をして、ルナトーン自身のコンディションを高めようと奮闘した事もある。
遠いシンオウのポフィンというお菓子も調べた。
けど、どれだけコンディションを高めても、与えられる言葉はほぼ同じだった。
申し訳なさそうにするルナトーンを見るたびに自分の力不足を恥じた。
そんな日々を過ごして、私はすっかり自信を無くしていた。
今までずっと頑張ってきたけど、これが私の限界なんだろうか?
私ではルナトーンの力を引き出す事はできないんだろうか?
コーディネーター引退、という考えが初めて浮かんだ。
一緒に頑張ってきたルナトーンや他の手持ちの仲間たちには申し訳ないが、私はコンテストを引退して、この子達の去就を考えて…
そう思った瞬間、ボールからルナトーンが飛び出してきた。
ルナトーンはふんわり浮かぶとふんわりと柔らかい光を放つ。"つきのひかり"だった。
続けて星型の光を次々と放ち、それを自在に操る。"スピードスター"に"サイコキネシス"
全て私と共に覚えた技だった。
ルナトーンは最後にもう一度"つきのひかり"を放つ。
瞬く無数の星々の中で、間違いなくルナトーンが1番に輝いていた。
ルナトーンは得意げに私を見た。
私にだけ与えてくれた月と星の世界で、子供の頃憧れた輝くステージを思い出す。
グランドフェスティバルの中継を、当時友達になったばかりだったルナトーンと釘付けになって見ていたあの日を。
サイコパワーを持つルナトーンにとってはボール越しでも私の考えを読むなんてのは簡単な事だ。
引退まで考えた私の考えを改めさせるためにルナトーンは出てきてくれたのだ。
私もルナトーンに負けていられない。
他でもないポケモンがこんなにやる気なのだから私も頑張れる。
そうして私の力でルナトーンやポケモン達を輝かせるのだ。
いつしか空には月が昇っていた。
そうして私は、月光に照らされた夜道を、ルナトーンと一緒に踊るようなステップで辿り、帰って行ったのだった。
自分で出来ないことがあっても、誰かの力を借りる事はできる
世界は案外そういう支え合いでできているのかもしれない。