ミレニアム編序章

ミレニアム編序章


「本当にごめんなさい!」


ミレニアムサイエンススクール。


その部室の一つ。


「んー……」


“アル……大丈夫?”


ゲーム開発部と言われるその部室には、現在六人が存在していた。


一人は先生。

このキヴォトスにおいて各学園に対して超法規的措置を行える特権を持つシャーレの顧問。

今謝っているのはユウカ。

ミレニアムにおいて生徒会に所属している一人。


その後に隠れて震えながら抱き合っているゲーム部の少女たち。


そして、最後の一人……ゲーム開発部の少女が投げたプライプレーションから先生を守ろうとして頭に当たったのが陸八魔アルであった。


「お願いします、この子たちも悪気があったわけじゃないんです!」


ユウカは、必死になって二人に謝っている。

それはもちろん、ミレニアムとシャーレにおいての外交関係……では、決してなかった。


陸八魔アル。

彼女の存在は、既にミレニアムの上層部においても話題となっていた。

現キヴォトスにおいて、七囚人を上回るほどに危険視されている悪人。


既に、ゲヘナ、トリニティは事実上彼女のハーレムの一部となって久しく、少し前には砂漠地帯の学校も彼女のための都市へと変わった。

……その際に、ミレニアムの人員が何人も彼女の都市開発に関わって帰ってきていないという話はユウカの記憶にも新しかった。


そんな危険人物ではあるが、現状、彼女が捕まっていないのは偏に戦力と、先生、いや、シャーレの権限によるものが大きい。


ユウカは、下げていた頭を上げ、彼女を見上げる。


ユウカの背丈は156㎝。

キヴォトスにおいても、平均的といっていい背丈だが、そうであっても、彼女との身長差は30センチ。

正面を向いていれば、彼女の視界にはアルの顔は入らず、彼女の大きな胸にしか視線がいかない。


足も長いのか、腰の高さもまるで違う。


体格差だけであっても恐怖を覚えるが、その力。

聞いた話ではあったが、ゲヘナの風紀委員を銃を抜かず力でねじ伏せた。

そんな話が流れ、ゲヘナの治安が一週間乱れたという話もある。


その、乱れた治安もまた、彼女の武力のみによって鎮圧されたことも。


だからこそ、ユウカは恐怖していた。

……もしも、彼女が、その力を行使すれば、ミレニアムはどうなってしまうのか。


少なくとも、自分では勝ち目はないと、本能が訴えかけてくる。


故に、彼女が選んだ選択肢は……もはや、無様とさえ言っていいほどの懇願。


「なん、でも、しますから……」


ただ、弱弱しく、手をついて、頭を下げて彼女たちを守るためだけに涙を流す。

それだけが、今の彼女にできる最善手。


今、目の前の怪物を相手に、ユウカに、あるいは、C&Cを用いてすら……。


彼女は、ユウカの計算上、ミレニアムを更地にするのに十分な力を持っている。


もはや、できることは、抵抗ではなく、彼女の同情を買うことだけ。


「……そう。じゃあ、いいのね?」


ユウカを見下ろしていたアルは、そんな風に声をかける


こくん、とうなずいて、アルについていこうとするユウカの姿を見て、この騒動のきっかけになったモモイは飛び出そうとした。

ミドリも、ユウカを守るために銃を持とうと、した。

ユズでさえも、僅かな勇気を振り絞って立ち上がろうとした。


けれど、……駄目だった。


ただ、そこにいるだけでアルはこの場を支配していた。


「大丈夫。皆は心配しないで?」


「じゃ、先生。……ゲーム部の相談。しっかり受けてあげてね?」


“うん、任せて”


そういうと、部室に入る先生と、二人で部室から出ていくユウカとアル。


彼女たちが相談できる状態になったのは一時間の後。

アルに支えられながら帰ってきたユウカの無事を確認した後のことであった。

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