ミレニアムの色んな生徒やアリスとわちゃわちゃする39号ちゃんの小話集.text
【丸投げアドバイザー】
[エンジニア部 部室]
ウタハ「できたよ、39号。かねてより制作を続けていた逆ミキサー、『戻すんですDX アルティメットエディション』だ」
ミク「……名前、逆ミキサーだけじゃなかったんですね?」
4号「使い方はとても簡単です!混ぜられたものを中に入れるだけ!」
コトリ「事前にこちらが登録している物質を検知した場合、混ぜる前の物質に分離して戻すことができます!」
二人はそう言い、リンゴを砕いたジュースをミキサーに入れる。すると───元通りのリンゴと砂糖がそれぞれ出てきた。
アリス「え!?元通りだ、すごーい!」
ミク「調味料も分離するんですね……どういう仕組みなんですか……」
ウタハ「もちろん自爆機能もバッチリさ!」
ミク「結局取り付けたんですね!?」
コトリと4号の解説を丁寧に聞き終えた後、本題に入る。
アリス「それで、私たちを呼んだ理由って?確か製品の開発協力って話だったけど」
ヒビキ「うん。それこそまさに、この逆ミキサーについてだよ」
ミク「……ふむ?」
確かに、画期的な発明に見えるが───いや待て、とミクは思い悩む。
仮にこれが商品に売られていたとして。使いたくなるときって、あるか?「混ざっているもの」といっても、手に入れた時点で混ざっているものが欲しいときじゃないか?
ウタハ「……どうやら、私たちと同じ疑問に至ったようだね?」
アリス「え、まさか……」
コトリ「はい、39号にお願いしたいのはアドバイザー───逆ミキサーの効果的な活用方法を模索してほしいのです!」
ミク「……え?丸投げ……!?」
4号「あ、もちろん私たちも協力しますよ!?」
発明としては画期的だが、道具としてはあまりにも微妙。
ミク(なんというか、どうしてこういう絶妙なモノを開発できてしまうのだろうか……)
アリス「……ロマン、だろうね」
ウタハ「うん、ロマンだね」
ミク「心を読まれた……」
現在も『戻すんですDX アルティメットエディション』の是非については協議中である。
【2人目の鬼】
[ミレニアムサイエンススクール 廊下]
アリス「いやー、いつ見てもハイテクだねー!」
ミク「他の校区に行けば行くほど、此処が最先端であることを思い知らされますね───ん?あれは───」
量産型アリス「うおおー!これが我が逃走経路です!」
別の量産型アリス「待ちなさーい!」
ミク「廊下を全速力で走りぬけてる……」
アリス「フツーに危ないね……」
???「待てー!!───わわっ!?」ツルッ。
39号「「……!」」シュバッ!
一緒に追っていて───こけかけた生徒に、素早く駆けつけて支える。
ミク「大丈夫ですか?」
???「は、はい……ありがとうございます!」
量産型アリス「コユキ、大丈夫ですか!?───って、あなたは!?」
髪飾りのクローバーから39号は察した。
アリス「ユウカさんから話は聞いてるよ!3500号とコユキさんだね?」
3500号「は、はい!お会いできて光栄です!」
コユキ「噂のイレギュラーさんですね!」
セミナー所属の生徒黒崎コユキと、ペアを組んで活動している量産型アリス3500号である。
ミク「それにしても、どうしてそんなに走ってたんですか?」
コユキ「……はっ!そうでした!みこっちゃん、12326号は!?」
3500号「あっ……!?うわーん、逃げられました!」
ミク(さっきの走っていたアリスを追っていたんですね……)
???「大丈夫ですか、二人とも───あら?」
そこにもう1人、人影がやってくる。
コユキ「あっ、ノア先輩!」
ノア「あなたは確か、39号ですね?ユウカちゃんから話は伺っています」
ミク「ノアさん、ですね。初めまして」
おっとりしつつも風格のある佇まい。セミナー書記の生塩ノアだ。
アリス「えっと、セミナーのみなさんがどうして?」
ノア「財団のお手伝い、といったところでしょうか。今は問題行動を起こしてしまったとみられるアリスを確保しに行っている最中です」
ミク「何をやったんですか……」
ノア「アリスたちのお菓子の独占未遂、一部独占です。奉仕作業に当たらせた後に釈放したのですが、再犯疑惑が出てしまって。問い詰めようとしたところ、逃走を……」
アリス「ふーん、なるほど……」
ミク「………成程」
コユキ「あ、あの、ノア先輩。それが……」
3500号「見失っちゃいました……」
ノア「ふふっ、大丈夫ですよ。ここで待っていればそろそろ───」
タッタッタッ。
12326号「ここまで来れば───えっ、どうして!?」
ノア「あなたの行動パターンは分析させてもらいました。一周してここに戻ってくることも織り込み済みです。
───さて、何があったか教えていただけますか……?」ゴゴゴゴ……
3500号「ひえっ……ホンキのときの雰囲気です……」
コユキ「最近は見てませんでしたけど、やっぱり怖い……」
12326号「……に、逃げ───」
ミク「ダメですよ、12326号。正直に話さないと」
後ろから笑顔で優しく───後ろから?
12326号「お、お姉様……!?初めまして……というかいつの間に後ろに───」
ミク「貴女が何もしていないなら、ちゃんと言ってください。ちゃんと信じますから。でももしそうでないなら……」ゴゴ……
アリス「───み、ミクちゃん……?」
アリス(すごい優しい笑顔と声なのに、なぜか震えが……)
ミク「今言えば、ノアさんもきっと配慮にしてくれるでしょうから。大人しく話してください、ね?」ゴゴゴゴ……
ノア「ふふふ……そうですよ。だからそろそろ、観念しましょうね?」ゴゴゴゴ……
12326号「お、終わった……ゲームオーバーです……」
コユキ「ヒィッ!ノア先輩と同じ空気が……」
3500号「鬼が……二人に……!」
39号を怒らせてはいけない。以降のアリスネットワークには、そんな噂がまことしやかに囁かれるようになる。
【レッツ、サイクリング!】
[ミレニアムサイエンススクール フィットネスセンター]
ミク「すごく整っている施設ですね」
12058号「でしょう?最先端技術はデスクワークに留まることはないということを体現していますよね!」
39号は通りすがりに会った12058号の提案により、校舎外のトレーニング施設を見学していた。
アリス「わぁ……裏社会でもこんなに整った設備は無かったよ!」
ミク(逆に裏社会にはどんな設備が……?)
そんな彼女たちに、ある人が声をかける。
???「おや、コバチさん?こんにちは」
12058号「あっスミレさん!こんにちは!」
トレーニング部のリーダー、乙花スミレである。
スミレ「そちらの方は…?」
12058号「39号お姉ちゃんです!ミクお姉ちゃんとアリスお姉ちゃんの二人の人格を持ってます!」
ミク(その説明でいけるのか……?)
39号「「初めまして!」」
スミレ「はい、初めまして。…………」
スミレは彼女たちをじっと見つめる。
39号「「………?」」
そして尋ねる。
スミレ「すみません、お二人とも。何かトレーニングはしていますか?」
アリス「え、っと……トレーニング?」
ミク「まあ、百花繚乱で鍛錬は積んでいますかね…?」
そう言うと彼女は、感動したかのように声を震わせて話す。
スミレ「……!素晴らしいです…!『機械がトレーニングをする必要などない』と幾度も言われてきましたが……やはりそうではなかったようです。
運動をすることで、量産型アリスも貴女たちのように筋肉をつけ、身長を伸ばし、体を成長させることができる……運動はやはり素晴らしいです!」
ミク「ちょ、ちょっとそれは……」
アリス「流石に、違うかも……」
私たちがイレギュラーすぎる故であって───いや、イレギュラーが存在しているからこそ否定できないのが一番の問題か、と彼女たちは思い直す。
だが、39号がそんなことを考えている間も、スミレはスミレであった。
スミレ「すみません、お時間いただきますね……あ、コバチさん。この方々を借りていきますね」ガシッ。
ミク「え、ちょ、スミレさん?」
スミレ「貴女方と運動をすることで、今後のトレーニングの参考にさせていただければと思いまして。機械の身でありながら運動を究める貴女方なら、きっと参考になります!それに今日は、他の校区からトレーニングに来る方がいる日なのでタイミングもよく───」
ダッ。タッタッタッ。
ミク「ダメだこの人、止まらない!?」
アリス(……面白そうだから、このまま連れて行かれよーっと……)
12058号「あー、えっと……スミレさんは悪い人ではありませんから、頑張ってくださいお姉ちゃん!」
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ミク(結局、連れてこられてしまった……)
アリス(道具や服まで丁寧に用意してもらっちゃったし……まー、折角の機会と思って楽しもうよ!)
ミク(まあ、そうですね……)
ミク「ええと、この人たちは……」
スミレ「私たちと共にトレーニングに励む、今日のメンバーです!今日はサイクリングを行う予定です」
レイ「……まさか、こんなハードスケジュールを組まされるなんて……慣れてきてる自分が怖いけど」
89号「ファイトですよ、レイ先輩!───あっ、初めまして、お姉様!ミレニアムの野球部のマネージャーとして活動している89号です!よろしくお願いします!」
アリス「もしかして、89号ちゃんも走るの?」
89号「はい!並走しつつ、レイ先輩のサポートを行います!」
ミク「そこまでするものなんですか……?」
レイ「私もそこまでしなくていい、って言ってるんですけど聞かなくて…でも無理はさせないつもりです」
89号「はい!89号も安全第一を意識してサポートします!」
アリス「それで、そっちは───」
シロコ「ん、アビドス高等学校2年生、砂狼シロコ。あの人とはちょっとした縁があって、たまに施設をサイクリングに使わせてもらってる。よろしく」
クロコ「そして私が、強い方の砂狼シロコ。最近やっとサイズが合うジャージを手に入れたから、一緒に参加させてもらう。よろしくね」
シロコ「……違う。強いのは私の方。訂正して、でかシロコ」ググッ。
クロコ「よわシロコは黙ってて。そもそも今日が命運の日。今日こそ決着をつける」ググッ。
ミク(……なんだ、この人たちは…?)
ミク「…あ、こんにちは。貴女もアリスですね?」
46号「はい、アビドス高等学校に所属している46号です。シロコ先輩たちの付き添いとして参加します!よろしくお願いします!」
アリス(割と量産型アリスも運動する世の中になってるのかな……)
46号「自転車を上手く使えるようになれば、移動手段が充実して……最終的にはシロコ先輩と銀行をおそ───」
シロコ「ストップ、46。それはアビドスに戻ってから話そう」
39号((銀行を……なんだって?))
スミレ「それでは、早速参りましょう!」
アリス「よーし!ゴーゴー!」
ミク(なーんか心配だなぁ……)
───この後、わりとサイクリングを楽しんでしまった39号が、定期的に同じメンバーでサイクリングに行くようになることを、スミレ以外は知る由もない。
逆になぜスミレは分かったのか、それは誰も知る由がない。
【追憶の象徴、勝利の象徴】
[ミレニアムサイエンススクール 廊下]
ミレニアムサイエンススクール。最先端の技術を取り扱う生徒が集い、常日頃から活動を続けている。それは夜でも例外ではない。
ミク「夜でも人通りがほぼ変わりませんね……」
アリス「むしろ増えてるような……生活が心配になりそうだね」
今日は泊まる予定だし何かお手伝いでもしようか、と思った矢先───彼女たちに向かってくる声が聞こえた。
???「おーいお前───いや、『お前ら』か。39号だよな?」
振り向くとそこには───
ミク「───!?『勝利の象徴』!?」
ミレニアムサイエンススクール、C&C(Cleaning & Clearing)所属。コールサイン00の美甘ネル。彼女の姿を見て、ミクは咄嗟にそう声をあげた。
ネル「あン?───まさか、『覚えてる』のか?」
ミク「……え、あ、ごめんなさい…?なぜか咄嗟に出てしまいました。すみません、ネルさん……」
ネル「───あぁ、そうか…いや、大丈夫だ。今のあたしの言ったことも忘れてくれ」
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[?????]
ネル「へー、こいつが量産中とか言われてるチビの量産型か。5号のやつしか見てなかったから新鮮に……感じねぇな、チビと同じにしか見えねぇ」
5号「ですね、ほんとにそっくりです!」
39号「……なんか癪に障る言い方だな。そのチビっての何とかなんねぇのか?『勝利の象徴』さんよ」
5号「!?」
ネル「……中身は全く違うみてーだ」
カリン「ちょっと部長に似てるかも……」
39号「口が悪い、ってか?そういう体なんだから仕方ないだろうが。※★◯△するぞ、おい。」
ネル「は?」
アカネ「え、えっと、39号?」
カリン「訂正。部長よりずっとクレイジーだった…」
ネル「てめぇ、本当にできると思ってんのか?あたしたちがどんな奴らなのかは知ってんだろ?」
39号「やってみなきゃ分かんねぇだろ、そんなの。それともあれか?私みたいな△✕※◇は眼中にもないってか?ナメんなよ、◯★◎✕野郎!」
ネル「……ハッ。気に入ったぜ、お前。銃は持てるんだな?やろうぜ、チビ」ジャラッ。
39号「───上等だ、『勝利の象徴』」ジャキッ。
5号「普通にダメです!無謀ですよ!」
アカネ「カリン、救援要請を。至急急いで」
カリン「了解、アスナ先輩とトキにも連絡する」
ワーワー!ガヤガヤ……
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ネル(───いや、昔の話か)
アリス「ところで、ネルさんは何を?」
ネル「あぁ、あたしか?色々あって表のイベントのガイドを任されてな。それの準備と片付けだ。あんまり性に合わないんだが……
そこで、話題になってるアリスの姿を見かけたもんだからな。話しかけちまった」
ミク「お疲れ様です。お手伝いしましょうか?」
ネル「……いや、いい。色々複雑だからな───ところで」
39号「「?」」
ネル「お前ら、相当強いな…?どうだ、今度ウチのやつら───特に5号のやつと、戦闘訓練でもしてみねぇか?」
ミク「え、えぇ…!?」
アリス「おお、おもしろそーう!」
ミク「いや、C&Cですよ……?あまりにも恐れ多いというか……」
ネル「そうか?いい線行くと思うんだが……」
ミク「それでも、『勝利の象徴』とだなんて……身の丈に合っているとは思いません」
ネル(……まあ、そうか。そりゃそうだよな)
ネル「まあ、思いつきで言っただけだ。自信がないなら大丈夫だ」
ミク「…………!」
───その言葉は、ネルの最大限の気遣いのつもりだった。が。それは彼女の心を確かに揺さぶった。
ミク「……いえ、気が変わりました。今度そちらにお邪魔しますね」
ネル「え……?」
アリス「……?ミクちゃん?」
ミク「こういう言い方はあまりにも失礼なのですが……ネルさんにそう言われるのは、なんとなく腹が立ちます」
アリス「おー……そこまで言っちゃうなんて珍しいね、ミクちゃん」
ネル「……ははっ。ははははっ!」
笑いがこみあがってきた。それは懐古の念……というよりは、安堵から来るものだった。
ネル(なんだよ、やっぱり『覚えてる』んじゃねえか。まあ、あたしはそうだろうってずっと思ってたけどな)
ミク「……ネルさん?」
ネル「ああ、ありがとな。楽しみにしとくぜ」
ミク「こ、こちらこそありがとうございます……?」
アリス「よし、そうと決まれば百花繚乱でしゅぎょーだね、しゅぎょー!」
ザッ、ザーッ。
ネル「───っと、わりぃ、連絡だ」
ピッ。
???「───こちら、百合園セイア。ゲーム開発部のブースへの侵入者と接触した」
ネル「そうか、無事か?」
セイア「ああ、だが事情が───」
ネル「?───あー……そういうことか。分かった、すぐにぶん殴りに行く」
ネル「悪い、二人とも。急用ができちまった、もう行かねぇと」
ミク「分かりました。それではまた」
アリス「次来るときはお土産持っていくね!」
ネル「おう、またな!」
セイア「───親しい人とでも話していたのかい?声が上調子のようだったが」
ネル「ん?まあ、そうだな───」
少し考えて、改めて言う。
ネル「その通りだ。それも懐かしいやつと、な」
特別編 ─完─