ミユ 再起SS
「237」
射撃。再装填。照準。
「238」
射撃。再装填。照準。
「239」
射撃。再装填。……手が止まる。
気づけば、ミユが自分で一杯にして持ってきていたアモ缶が空っぽになっていた。
「お疲れ、ミユ」
「ひゃっ!? せ、せ、先輩……」
「うん、先輩。まあ撃ったねえ、百発百中だ」
うつ伏せになって、ひたすら狙撃を続けていたミユ。
その真横で邪魔にならないよう気配を消し、同じ姿勢を取っていたオトギが笑う。
指揮所の狙撃ポイントで黙々と撃ち続ける姿は、普段の彼女からは想像もできないほどに鬼気迫るものだった。
「い、いつ、から……」
「撃ち始めて少しした頃かな。声かけても傍に行っても、全然反応しないから」
「え、えっと、あの……」
引き金に指をかけていた時のすました顔はどこへ行ったのか、途端にあたふたとし始める。
そんな姿を眺めながら、オトギは腰を下ろす形に座り直し、ミユの頭を撫で始めた。
「普段なら、ゴミ箱に隠れてじっとしてるのにね」
「うぅ……」
「もっと何かできたんじゃないかって思ってる?」
「……はい」
挫折と落胆は、ミユにとっていつもそばにある友人と同じだった。
狙撃の才を見出され、SRTに入学して、その狙撃の腕だけがミユにとって唯一人並に誇れるものだった。たった一つ、決して損なわれずに持ち続けられるものだった。
その才であっても切り抜けられない事態を前にした時、味わった挫折は今までとはまるで違う。
いつものように、ただ空気のように消えてしまいたいと思った。
それ以上に、胸の中にやり場のない何かが溜まって、それをぶちまけるためにこうして誰にも見られない場所からひたすら引き金を引き続けている。
「そっか。やっと、ミユにもプライドって奴が出来てきたんだねぇ」
「え……?」
「自分じゃダメだ、他の人ならもっとうまく、自分がかかわったから。ミユはずっと、そうやって自分のことを低く見ていたでしょ」
「それは、だって事実、です……」
「私はそうは思わない。ミユの才能は確かなものだし、SRTに入ってからずっと努力を続けてきた。だけどそれが通じなくて、自分でもどうすればいいかわからなくなった。違う?」
うぐ、とミユが言葉に詰まる。
「今まで味わったことないような感覚かもしれない。だけど、それをどうにかする方法は一つしかないんだよ」
「……どうしたら、いいんですか? あんなことになって、もう、私は……」
「それを、もう一度。今度は成功させること」
「……無理、無理です、できません……」
「出来る。もう一度任務に挑戦して、それを成功させることでしか、その苦しみは取り除けない。大丈夫、ミユにそれが出来ることは、ミユ以外の皆が知ってるよ」
変わらず頭を撫で続けながら、オトギが続ける。
「もう少しだけ、あと一回だけ頑張ってみない?」
「うぅ……。せ、先輩が、そう言うなら……。もう一回だけ、頑張ります……」
「うん、今度は私たちもいるから。大丈夫、ミユなら出来るよ」
手を差し伸べて、ミユを引き起こして立ち上がらせる。
手のかかる後輩だが、その才覚は確かなものだ。
人とは少し違った個性の持ち主でも、オトギにとってはそこも可愛いところだった。
まして、今まで味わったことのない苦しみを乗り越えようとしているのなら、手を貸さないわけにはいかない。
「あ、あの、先輩……」
「うん?」
「あ、ありがとう、ございます……。気にかけて、くれて……」
「なんのなんの、気にしないで。後輩を助けるのが、先輩の務めだからねぇ」
手癖でミユの頭をぽんと撫でれば、彼女はくすぐったそうにささやかに笑う。
それからライフルと空になったアモ缶を持ち上げれば、二人は連れ立って中へと戻っていった。