ミヤコ 再起SS
「弾丸よし、マガジンよし。火器の調整よし、防弾ベストよし。……何をしているんでしょうね、私は」
「ここにいたか、ミヤコ」
「……ユキノ先輩」
「随分としょぼくれた顔をしているな。いつもの優等生はどこへ行った?」
肩が竦んだ。
いつもと変わらない、鋭い視線と張りのある声。
それが自分を責めているような声音に思えて、ひどく惨めな気持ちがぶり返す。
「……上手くできる自信があったんです」
何を目的にしているかもわからないまま、装備の点検と整備を黙々と続けていた。
何かをしていないとおかしくなりそうで、手癖のようになった行為を繰り返して。
「たとえ障害があっても、いつも通りにこなせると思っていました」
私の言葉を、ユキノ先輩はただ聞いている。
その視線が自分を苛んでいるように思えて、視線を俯かせたまましゃべり続ける。
「でも駄目だった。私たちは結局任務に失敗して、守らなければいけない人を傷つけてしまった」
「そうだな」
「……私は、隊長としての任すら果たせなかった。最後まで立っていることもできず、守るどころか仲間に守られて! こんな無様がありますか!?」
「それで?」
「……わかりません。私は、どうしたら……」
「頑張れとでも、言ってほしいのか? それとも転んで泣きわめく幼児にするように、優しく抱きしめてあやしてほしいのか? お前は悪くない、よくやった、もう心配ないと」
責めるような言葉は、けれど不思議と穏やかだった。
私が手にしていた整備したての拳銃を横から取り上げると、ユキノ先輩は表情を変えないままスライドを引き、薬室を覗き込む。
綺麗に清掃し、メンテナンスを終えたもの。今の私とは違い、いつでも仕事を果たせるように準備が整っている。
「……我々はSRTだ。そして、私も、お前も、一つの小隊を預かる小隊長でもある」
「……」
「お前が隊員なら、慰めもしただろう。だがお前は小隊長だ、慰めも励ましも、お前は受け取るべき立場にない」
だから、とユキノ先輩が続ける。
スライドを戻して、外されていた装填済みのマガジンを入れた。
セーフティをかけ、私の手に戻される。
「任務の失敗は任務で取り戻せ。お前が、私が、負債を清算するやり方はそれしかない」
「……自信がなくても、ですか。次は、今度こそ先生の命が危ぶまれるかもしれない。私たちが、未熟だから」
「甘ったれるなよ。自分が未熟だと言い張れば、目の前の現実が変わるとでも?」
その通りだった。
私は、私たちは、この任務を拒否することも出来た。まだ一年生で、実戦経験が十分とは言えない。合同での手入れやバックアップの整った作戦ではないこの事態に首を突っ込んだのは、他でもない自分たちで決めたことだ。
だから、何の言い訳もできない。ただ自分たちが幼いことを叩きつけられただけのようで。
「現実は待ってはくれない。何があろうと、目的を果たすために弛まず歩き続けるしかない。そしてお前は小隊長だ、その歩みを先導し、誰よりも先に立ち続ける権利と、義務がある」
いつしか、ユキノ先輩の視線が私の視線とぶつかっていた。
目を逸らそうとしても、体は私の弱音を聞かずに固まったまま。
「わかっているはずだ、ミヤコ。なぜ装備の手入れをしていた? わからないなら、逃げ出したいなら、そんなことはしていない。お前の本音はこの装備そのものだ」
整備され、次の舞台を待ち望む自身の装備を見る。
手慰みに、ただの習慣で、準備していただけのもの。それが、私の本音だと言われて。
分からない。わからないけれど、萎れて草臥れていた心の中で、ぱちりと舞う火の粉があった。
「……私は」
それは徐々に燃え広がって。いつまでもうずくまろうとする私の心の弱い部分を燃やし尽くしていく。
これが先輩なりの激励なのだということはすぐに分かった。
私はこの人に、ずっと教えを受けてきたから。
いつも厳しい顔をしている、この人に。
「……すみません、先輩。少し、休んでいただけです」
「そうか」
装備を身に着け、先輩が手に取った銃をホルスターに収める。
ヘッドセットを頭に戻せば、また私の姿が戻ってくる。SRT一年生、RABBIT小隊の小隊長が。
「ブリーフィングだ。行くぞ、RABBIT1」
「はい、FOX1」