ミヤコとミユが二人で扉の先へ踏み出す話
「…はぁ。」
料理を作り終えて訓練も受けて、疲れを隠せなくなる程度には疲労を引きずってテントに向かうミヤコ。
何も考えずに寝られるならこれも悪くないか…そう思いながら明日の献立でも考えながらテントに潜ろうとした所で、
ふとテントの傍に公園の傍の木に隠すような変な位置にゴミ箱があるのを発見してしまう。
テントの近くにあるゴミ箱。この組み合わせでミヤコは誰がそこにいるのかをなんとなく察する事が出来た。
(…あれは、ミユですね…しかしなぜあんな所に…あちらにも誰かいるような…?)
普段気配が希薄であり、狙撃役でもあるミユが対策委員会の定めた就寝時間も迫る時刻に
テントにも入らずに何をしているのか…?
気になったミヤコはふと声をかけようとした所で二人の人物がそこにいる事に気付いた。
「…ぁ、ぅ…」
一人はゴミ箱の蓋を少しだけ持ち上げながら、何かをうっとりと見ている頬を林檎のように真っ赤に染めたミユ。
そしてもう一人はミユの視線の先…ミユの視力で捉えられる範囲、
ミヤコも目を凝らさねば気付けないような公園の遥か先の位置にいる誰か…
「~~~~♪、~~~~♪」
明らかに丈のあっていないシャツのみを着て、ホースを体に巻き付けながら鼻歌を歌う少女。
浦和ハナコの姿がそこにはあった。
(…な…!何をしているんですかあの人は!もう就寝時間も間際で…
…まさか、それが狙い目?深夜徘徊をするために…?)
ホシノから訓練の途中、世間話のように話していたハナコの深夜徘徊。
肌を色々危ない部分は見せないようにしつつまるで妖精のように気楽に歩くその姿。
そしてその背徳的な行為を思いっきりミヤコは無意識に生唾を飲み込む程しっかりと観測してしまっていた。
(…ぁ…ミユも、あれを見て…羨ましがっている、のでしょうか…
…どうせ食事以外では碌に何もできませんし…見てみるのも一興、という事でしょうか。)
気の迷いなのかもしれない、ストレス解消のはけ口なのかもしれない。
それとも揮発した砂糖を振り払おうとする理性のバグじみた回答なのかもしれない。
それでも、少しだけミヤコはミユが自分と違う形で砂糖にあらがっているのを羨ましく思った。
(…それはそれとして、どうしましょうか…
ミユのあの位置だとその内ハナコさんに見つかりそうで心配ですね。)
しかしそう時間は待ってはくれない、就寝時間が刻一刻と過ぎている事を踏まえて、
ミヤコはハナコを見つつもこの場でどうすべきかを同時に考え始めていた。
(…まさかこちらでもそんなアブノーマルな…しかし、決めつけるのは早計かもしれません。
そもそもあの服装自体は割と普段と近いものがありますし…
とにかく、今ハナコさんを見ていることがバレたら後で追及されてしまうかもしれません。
ここはミユにこっそり声をかけてテントの中に…)
「……あのー…?」
「…ぃ、いい…なぁ…でも、私じゃ…」
今度こそミユに声をかけよう、そう思ってゴミ箱の方に向かって身を乗り出したミヤコ。
声をかけようと前に出た事で、思いっきりミユの顔を見る格好になってしまい…
ミヤコはミユの顔が羞恥、恍惚、そして…憧憬の眼差しがある事に気付いてしまった。
これは早めに起こさないといけない、そう思ったミヤコはさっそく行動に移した。
「…ミユ、私ですよ、ミヤコです。聞こえてますか?」
「………へっ!?ひゃあっ…!?ぁ、ミヤコちゃん…!?
ご、ごめんなさいっ…あの、今のはその…っ!」
現状ハナコしか視界にとらえていないミユをゴミ箱の中に手を突っ込んで肩をぽんぽん叩きながら
ミヤコが声をかけると、慌ててミユがゴミ箱の中から頬を真っ赤に染めたまま混乱した目をしたまま
這い出そうとしている所が見えた。
「いえ、責めるつもりはありませんよ。
…ただ、ミユと過ごせる時間が最近少なかったですから…モエやサキみたいに、埋め合わせがしたいと思いまして。」
そこに声をかけるミヤコ。もちろん声には気遣いや落ち着かせようとする気持ちも載っていたが、
それとは別の…艶交じりの声で彼女に声をかけていた。
「ぅ、うん…ありがとうミヤコちゃん。
でも最近は対策委員会の人とか、後対策委員会の人からの訓練があるんじゃ…」
「そこについては心配いりません。訓練については明日お休みをいただけましたし…
…それに、もっと早い時間からミユもハナコさんがしていた事…実践してみるのはどうですか?」
「…えっ!?ぁ…う、う…」
心配するミユの顔を見ながら、ミヤコは先ほどのイケナイ行為について…
ミユが釘付けに成程夢中になっていた行為を持ち出して悪魔の誘いを行った。
明らかに動揺するミユ、自分の覗きのような行為を見られたばかりからさらに謎の誘いを受けてしまうのは
全くの想定外であった。
(…私なんかでも…ミヤコちゃんと一緒に出来る事があるなら…
それに、さっきミヤコちゃん…なんだか、悪戯っ子みたいだった。)
しかしミユの頭を占拠するのは先程のミヤコの誘いの顔。
少しの間返答をどうしようかと迷うミユの顔をミヤコは優しい顔で待ち、
どうにかミユは質問という形で答えを少しだけ先延ばしにした。
「…あの、それって…もしかして…外、で…」
「ええ。私達は深夜中の動きもそこそこ許可されていますから…
コスプレとかしちゃえば、案外誰かは分からなくなったりする…かもですよ?」
ミヤコの口から出る言葉が、普段なら弱弱しくも反論できたかもしれないミユの理性を削る。
本来なら絶対やらないような行為。
しかし彼女たちも年頃の乙女であり、イケナイ行為への憧れも当然ある。
SRT所属であった彼女達であればしない事でも、名も知れないアビドス生徒なら…?
「……ぅ…うん。その…明日のお散歩、一緒に行って…いい…?」
「…ええ。ありがつございます。私も何分初めてなので…見苦しい所を見せないように、頑張りますね。」
月の光だけが照らす中で、禁断の約束を交わし合う二人。
彼女達の未来の行く末を知るのは、すべてを見ていたお月様のみであった…