ミホドフ

ミホドフ


・ミホーク×ドフラミンゴ

・クロコダイル視点

・まだクロコダイルが七武海だった頃の話

・環境は適当







もう随分と見慣れた建物の廊下の先に、滅多に見ないが見ずに済むなら永遠に見ないままでいいと思えるふざけた色のコートが見え、煙と共に静かに深く溜息を吐く。


(さっさと会議室に入っていた方がマシだったな)


残念なことに会議室に通じる道はここだけで、わざわざ能力を使って窓から行くのも面倒だ。

しばらくすれば中へ入るだろう、と角を曲がって葉巻一本分の時間を潰すことにした。


「────だから、来るだろ?」


潜めるでもなく、だからといって普段のように騒がしくもない声は聞き慣れず、一体誰と話しているのかと思わず耳を欹てる。

こちらから見えないということはドフラミンゴよりも低いの身長の者を相手にしているのだろうが、あの鳥野郎に誘われそうな相手も誘いに乗りそうな相手も、皆目見当がつかない。


「おれは元からそのつもりだ」

(……鷹の目だと?)


予想外の声に動揺するも、この二人が手を組むのは何が目的なのか知っておく必要がある。極力気配を消しつつゆっくりと煙を燻らせ、何か手掛かりになり得る言葉が聞けないかと壁に背を預けた。


「しかし、毎回律義なものだな」

「あ? 何がだよ」

「わざわざ好みのワインなど用意せずに誘えばよかろう」


どうやら毎回飲み交わしながら何やら計画を立てているらしい。しかしドフラミンゴの好意は空回っているのか、ミホークの発言に対して言葉に窮しているようだ。


(今からでも顔面を拝みに行ってやろうか)


そんなことを考えて壁から背を離した時、呻くような声が聞こえて動きを止める。


「~~~~ッ、簡単に言うなよ……!」

「……ふむ、ならば次からはおれから誘おう。だからそんな顔をするな」


聞こえてくるやり取りが何かおかしいが、これに関して深く考えるべきではない、と頭の中で警鐘が鳴る。

立ち去るべきか動かずにいるべきか、と一瞬逡巡したせいで僅かに音を立て、鋭い殺気が飛ばされた。


「おい、鷹の目……ッ」

「そこにいるのはクロコダイルだ」

「はぁ!? お前気付いてて、んッ」


鷹の目には最初から気付かれていたらしい。ということはあの殺気はドフラミンゴか、と舌打ちをしつつ二人の前に姿を現せば、予想外の姿が目に入って不覚にも葉巻を落としそうになった。


「……何をしている?」

「?」


一体何が疑問なのか、と言わんばかりの表情を浮かべて鷹の目がこちらを見てくるが、生憎と疑問しかない。


何故、ドフラミンゴが普段の喧しさを無くして黙ったままでいるのか。

何故、ドフラミンゴのコートを鷹の目は掴んで頭を引き寄せているのか。

何故、ドフラミンゴの顔を隠すように鷹の目が自らの帽子を深く被らせているのか。


問いたいことはあるが、仮にその全てに答えられてもこちらが全く利がないことに気付いて黙り込む。


(ドフラミンゴ個人ならまだ利用価値のある情報だろうが、鷹の目が絡んでいたら容易く操れる情報じゃねェな……せめて遊びであればマシだったが……)


先ほどの会話を考えると、ドフラミンゴは会うための理由をわざわざ作っていたが、鷹の目は理由は不要だと思っている。つまり鷹の目にとってドフラミンゴはそれだけ価値があるという存在なわけだ。


現状から判断して、どちらにも触れるべきではない。


「そんなところで立ち話をされちまったら、会議室に入れねェだろ?」

「それもそうだな。では行くぞ」

「え、お、おい、鷹の目? 会議室はあっちだろ」

「好みの赤ワインを逃したくはないのでな」


当たり障りがないように告げた言葉に鷹の目は頷き、会議室とは反対方向へドフラミンゴの手を引いて進む。絡まされた二人の指は見なかったことにし、珍しく狼狽えたようなドフラミンゴの声を背に会議室へと歩みを進めた。


(……逢瀬に会議を利用してんじゃねェよ)


どうにか言葉は飲み込んだが、苛立ちと共に吐き出された煙には手に持っていたはずの葉巻だった砂が舞って混じり、舌打ちをした。

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