ミネと「医療品」
「……ですから、こちらの製品は応急処置向けで、あちらは患部の状態が安定してからの回復を促進する役割、というように使い分けるのが適しています。他にも類似の製品には……」
その日、先生は救護騎士団長・蒼森ミネの自室で、彼女の趣味である医療品集めの話を聞いていた。
「……ということで、似たような効果を謳うものでも、成分や薬剤の形式によって使い分けることで最大限の効果を上げることができるのです。お分かりいただけましたか?」
”なるほど、参考になったよ。またシャーレの救急キット選定を手伝ってほしいな”
「ええ、先生の頼みであればいつでも。何か他に訊きたいことがあれば、できる範囲で今お答えしても構いませんよ」
先生は何か聞きたいことがあるかを思い出すため、少し部屋の中を見回した。
そして、ふと目に留まったのが彼女のベッドの上の物体。真っ白いシーツに埋もれるように置かれた、白い丸い石。
”ああ、そうだ。そのベッドの上の白い石って何かな?トリニティの他の子も持ってるのを見たんだけど……”
そこまで言ったとき、ミネは目にも留まらぬ速さでベッドに駆け寄り、石を回収した。その顔は今までに見たことないほど真っ赤で、慌てた表情をしていた。
「え、ええ、これも確かに一種の医療品、のようなものですね!とりわけトリニティでは人気のアイテムでして、その……メンタルケアと身体のケアに有用なものです!」
”それは便利だね。お守りみたいなものなのかな”
「そ、そうですね、そのように使う方もいらっしゃいます」
”……あ、もしかしてツボ押し器的な?片方の先がすこし尖ってるし、握ったら手のリフレッシュにも使えそう”
「あ、いえ……そういうわけでは……」
”私も買おうかな。最近は仕事続きで体中がガチガチで……”
「!?そ、その……先生とはいえ殿方が持っていると、少々誤解を招きかねないのでオススメは……」
”?……あ”
いくら鈍感な先生といえど、ここまでミネが恥ずかしそうにする様子や、石の外見、ミネの迂遠な説明が合わさって正体に気づいたらしい。
”ご、ごめん、ミネ!その……デリケートな話、だったかな……!”
「え、いえ、先生はキヴォトスの外から来てまだ半年ほどでしょう?知らない文化があっても当然のことです!」
いつも毅然とした態度を崩さないミネが顔を真っ赤にして照れる姿はなかなか見られるものではない。
その顔もすぐにいつもの凛々しいものに戻り。
「……分かりました。今のこの状況は『救護』が必要な状況です!今から先生にはこのキヴォトスの生徒の身体について教えて差し上げましょう!正しい知識を伝えることもまた『救護』です!」
”えっ……ええっ!?ミネ!?ちょっと待って!?”
先生は咄嗟に目を背ける。
「……先生?何を想像しているのですか?よもや先生という立場にある貴方が生徒に対して邪な考えを抱いているのではないでしょうね?」
その声はやや怒りのトーンを帯びて。
「その邪念ごと『救護』します!」
──その後、先生は人を導く立場としての心の在り様から、さっきの石は翼を持つ生徒が排卵を抑制するために使う「偽卵」であることまで、徹底的に説教を受けたのだった。