ミゼラブル・勇者編4
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聞こえてくる銃声の音と爆発音。それらから少し離れた医療テントの広がる区画の奥、体育館の隅に押し込められるように設けられた区画の中に一人のナース風の衣装に身を包んだ生徒がいた。
「これは…面白いですね?」
そう独り言を漏らし、口に嫌なうすら笑いを彼女は浮かべていた。そのテントには彼女以外に人の姿はない。あるのは大量に積み上げられたずた袋ばかりであり、一見ただの物置か倉庫のように見えた。彼女は袋の端を破り、その中からこぼれさせたものを検分しているようである。
「どうしてここにこんなものがあるのか…いえ、重要なのはこれがここにあるという事実の方ですか。」
彼女…不知火カヤの口元に浮かぶ笑みが深くなる。
「清廉潔白な大義を掲げた所でそれだけでは立ち行きませんものねぇ。さて、例えば…」
だが、そんな彼女の悪だくみは一発の銃声で遮られる。
「なっ!きゃっ!!」
脳天に炸裂したそれは彼女の頭を大きく揺らし、ナースキャップが宙に舞った。
ぐらりと倒れそうになる意識の中、カヤの手は自分の手元へと延びる。
二発目の銃声が間髪入れずに響き渡り、カヤは倉庫の中でばたりと今度こそ倒れ伏すのであった。
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バリケードと鉄条網を見て、アリスが真っ先に連想したのは、ゾンビの押し寄せるタワーディフェンスゲームでした。
自我を失ったゾンビの津波を、防衛物で足止めし、オートタレットで撃ち殺すのです。
その想像は、存外、遠いものではありませんでした。
「うぉぉ”ぉ”ああああ””」
「よこせ”っ!よこせぇ””!!!」
「とりかえせっ!とりかえせぇ!!!」
口々に怒号を上げながら、こちらに迫ってくる不良やヘルメット団達。彼女たちの襲撃自体はキヴォトスではよくあることです。しかし、その表情は明らかに正気を失っていて、それこそ本当にゾンビのような有様なのです。
「お、多いです!HARDモード以上は確実な量です!!」
しかも本当に津波のような量がやってきています!
救命同盟の生徒達が威嚇するように銃を打っていますが、あまり勢いを削げていません。このままではテントに彼女たちが到達して滅茶苦茶になってしまいます。
「アリス、行きます!」
光の杖にチャージをし、アリスが飛び出そうとしたその時、アリスはウィンドウにその影が映っていることに気づきました。
彼女は防衛物の真正面に立ちはだかっていました。
地には盾を突き刺し、片手にはショットガンを流し、しっかりと背筋を伸ばし、その後ろ姿からも、彼女がその襲い来る津波を真っすぐに見据えていることがわかりました。
「要救護者の皆さん!!!!!」
そして響きわたる大きな声。空気をびりびりと震わせるような覇気のある声。
「わたしは悲しいです!!あなた方は本来、救護を必要としない生徒達であったはず。それが今では狂わされているその現実そのものが。」
地に刺していた盾を持ち上げショットガンを構えなおし、バサリと翼を震わせます。
「故にこそ、私は現実に抗いましょう!!キヴォトスにいる全ての要救護者を救護するため、私は戦い続けましょう!!!」
「あなた方の狂乱も、飢えも、恐怖も、私たちが全て、救護して見せます!!!」
少し、彼女の体勢が下がります。彼女の叫びもきっと理解できていないかのように、ゾンビのようになった襲撃者たちの津波は迫っています。
「誇りと信念を胸に刻み!!!救護!!!!!」
雄叫びをあげ、津波に一目散にその背は突撃していきます。
止まることなく、留まることなく。
津波が壁にぶつかって弾かれたように、彼女の突撃した地点の流れが止まり、勢いが削がれます。
殴り、穿ち、吹き飛ばし。
己の身は顧みず、何より強い信念を感じさせ、戦っていました。
無論、一人では津波のような彼女たちを倒せません。ですが、彼女が出撃した途端、同盟員達も勢いづいたように、必死に戦い始めました。
「…アリスも、助太刀します!!」
ミネ先輩のその姿を見たアリスの心には、なんだか少し、小さく光がついたようなそんな気分になっていました。