ミステリー
カワキのスレ主真世界城・玉座跡
刀の修復が成功したことを喜ぶ一護達。その輪から少し外れた位置に居た少女——カワキが髪と同じ闇色の外套を靡かせて、月島が居る方向を振り返る。
過去の記憶にも無い初めて目にする筈の軍服はやけにしっくりきて、こちらに歩み寄ってくる姿をぼんやりと眺めていた。
足を止めて胸の辺りから自分を見上げる蒼い瞳は穏やかに凪いでいる。
『君のおかげで助かったよ』
「……どういたしまして」
彼女がわざわざ礼を言う為だけにこちらへ来たとは思えなかった。
用件は何だろうと首を傾げると、涼やかで抑揚の無い声が「……実を言うとね」と言葉を紡ぎ出した。
『本当はあの時、私は君のことを魂魄ごと滅却して殺すつもりだったんだ』
「…………うん? ……あぁ、うん……。だろうね。言われなくてもわかるよ」
“あの時”とは、恐らく月島の生前のことを指しているのだろう。
何を言い出すのかと思えば、そんな話を切り出したカワキに瞬きをする。正直、何を今更……以外の感想が出てこなかった。
誰かに挟んだ過去を除いて、生前の記憶にある彼女との思い出は少ない。けれど、いっそ純粋な程の殺意に彩られたその全ては——今も鮮烈に脳裏へ焼き付いている。
「織姫の家でも、箱でも、森の中でも……初めて会った時からずっと、君には酷い目に遭わされっぱなしだから」
『そうかな』
首を傾げたカワキに、月島は小さく苦笑して肩を竦めた。それから思案する。
改めて「殺すつもりだった」と言い出すとは、まるでミステリーに出てくる犯人が被害者を殺害する時のようだ……なんて、相手が彼女じゃ洒落にならない。
なにせ、カワキの引き金は羽よりも軽いのだから。
僕は今から殺されるんだろうか……と、月島は胸の内でぼんやりと考える。
不思議なことに、「彼女に殺されるかもしれない」とは思うのに、カワキに対して負の感情は湧いてこない。
表情に乏しい、良く出来た人形のような顔を眺めながら次の言葉を待っていると、ふいにカワキの視線が動いた。
辿っていくと、闘志に満ちた顔で戦場へ向かおうとする者達の姿。
軍帽の下でどこか遠くを見るような目をしたカワキは、殊の外、穏やかに告げた。
『今は——……君を見逃して正解だったと思っているよ。私が君を魂魄ごと滅却していたら、“こう”はならなかったから』
顔を上げたカワキと目が合った。
『——あの時、君を殺さなくて良かった』
「————……!」
あれだけ自分の命を狙った——否、実際に朽木白哉と合わせて死因と言っても過言では無い少女の思わぬ言葉に驚いた。
彼女から、そんな事を言われる日が来るとは思いもしなかったから。
何か言葉を返すべきだったかもしれないが、カワキは自分の言いたい事だけを言い終えると、さっさと立ち去ってしまった。
軽やかな足取りで黒い外套を着た背中が遠ざかる。クリップで留まった黒髪が左右に揺れるのを見ながら、月島は戦場へ戻る背中を見送った。
***
カワキ…既に瀕死な上にリルカに諭されて慟哭していた月島さんを、かなりガチ目に仕留めようとしていたスーパードラァイ。月島さんに対しては命を狙うことしかしていなかったが、今回の一件で「一護を戦線復帰させられたし消さなくて良かった」と思い直した。
月島さん…井上を襲撃した時にカワキと初エンカウント。シンプルに不意打ちで重傷を負わされる。次は兄様と組んだカワキに瀕死にされ、生前には最後の最後まで殺意しか向けられてなかった筈なのに、何故かカワキへの好感度が高い。ミステリー。