ミカセイ前提ティーパーティーのお買い物
「えー、セイアちゃんのそれ、どうなってるの?」
「ミカ。君こそどうなっているんだい?」
言い争う二人を見ながら、はぁ、私は小さくため息をついていました。
とある大型の高級百貨店。
セイアさんの襲撃、エデン条約、カタコンベに隠れ住んでいたアリウスたちの対処。
その後のミカさんの罪に関しての様々もようやく、落ち着いてきた。
それこそ、ある程度の制限下での贅沢が許される程度に。
こじれにこじれたティーパーティー。
その第一歩というか、なんというか。仲直りの一環としてのお出かけ。
とはいえ、趣味も、性格も違う私たち。
なにから、と考えた結果が、服。
これなら、センスが違う私たちでも一緒に見て回ることができるし、それぞれが別の物を買ったとしても気まずい気持ちにはならない。
……っと思ったのですが。
「ナギちゃん!ちょっと、聞いてるの?」
「ナギサ!君はどう思うんだい!!」
「あー、えっと、そうですね……」
けれど、えぇ。ちょっとだけ、後悔というわけではありませんが。判断が早すぎたかもしれない。と、今更ながらに思ってしまうのです。
まさか、相手の下着を選ぶと言い出しあまつさえ、こんなに喧嘩になるとは、思いもよらなかったのです。
……これが、もし。本気で悪意からそうだというのならば、まだよかったといえるでしょう。
何とか店を出て、スイーツでも探しに、という学生らしいプランに切り替えることができます。
ですが……
「セイアちゃんには、このブランドのこっちの下着が似合うと思うんだけど!」
「そんなものを着れるわけがないだろう!?第一、それは本当に下着として使えるのかい?透けているじゃないか!ミカこそ、こっちのような下着がいいとおもうんだが、どう思う?」
「そんな子供っぽいのいや!夜もつけるんだよ?もっと大人っぽいのがいいに決まってるじゃん!」
そう、これです。
もしも、相手に嫌がらせのようなつもりで選んでるのであれば、私だって止めることを考えました。
ですが、……正直本気で相手のことを思って、相手に似合うものを選びあっているというこの状況を止めるなどというのは、いくら私がホストの地位についたところでできるはずもありません。
……というか、アリウスの一件以降付き合っているという話は聞いていましたが、下着を見せ合うような仲になっているなんて聞いていなかったんですが!
「……えぇっと……、とりあえず、ミカさん、さ、流石にその下着は、私も恥ずかしいかと思います。それに、セイアさんも……確かに可愛らしいですが、それは少々ミカさんには幼すぎるかもしれません……」
ですので、私が出せる意見はこんな、悪いと否定しきることもできず、かといって、良いと言い切ることもできないものです。
「「……」」
えぇ、無難な選択。
ですが、時として、無難というのは、真っ向から否定するよりも、なお、悪い場合もあるということを私は知らなかったのです。
二人から襲い来るのは、突き刺さるような鋭い視線。
目つきが悪い、というわけではないが、心臓を射抜かれるような居心地の悪さを感じます。
「もういい!絶対セイアちゃんとナギちゃんがびっくりするようなエッチなのを選ぶから!」
「ふん!いいだろう、私だってミカとナギサが心底納得するようなかわいらしい下着を選んでつけさせてみせようじゃないか」
バチバチと、……少しだけ居心地の悪くなりかねないほどの喧騒。
えぇ、けれど……きっと、それは、以前の私たちでは、絶対に届かなかった場所。
パテル派のミカでも、サンクトゥス派のセイアでも、フィリウス派のナギサでもなく。
ただの、ミカとセイアと私でいられる。今の状況。
「次!ナギちゃん、これならどう!」
「こっちも見つけた!ナギサこっちもみてほしい!」
「もう、分かりました。すぐ行きますから、そんなに振り回さないでください」
きっとこれが、……。
今の私たちの。歩み出せた始発点なのでしょう。
だからきっと。二人の、いえ。私たちの顔に浮かんだこの表情は、きっと素晴らしいものなのです