セイアの出会いとミカの覚悟

セイアの出会いとミカの覚悟


 それはまだ、私達が中学生入りたての頃だ。

 バキッと重い音が鳴る。親友であるナギちゃんの蹴りがきれいに相手の顔に入りそのまま相手は吹き飛ばされた。

既に倒れた者、まだ立ってはいるけど満身創痍のもの。序盤のうちからビビって手を出さなかった者を含めてナギちゃんは一瞥して

「まだやる気なら相手になりますが、いかがなさいますか?」

 そう言ってトントンと飛ぶ。それだけで嫌でもナギちゃんのきれいな足とそれに反比例するような先程の重い蹴りを想起させられ相手は気絶してる奴らや動けない奴らを抱えて逃げていった。


 「ふぅ、終わりましたね。」

「ナギちゃんやりすぎだよ…あの人達上級生だったよね…?」

「悪いのはあの人たちです。あんな人たちのことを心配するのはミカちゃん優しすぎます。」

「いやあの人達の心配じゃなくて…」

「はいはい、それよりも…あなた大丈夫ですか?」


 私はあなたを心配してるの、と言おうとしたらそんな説教は聞き飽きたとばかりにナギちゃんは目の前のボロボロの少女を…今回ナギちゃんがこんなことをした原因となる少女に屈んでみせた。

きっかけは私達が学校も終わり、この後遊びに行くかと相談していたとき、路地裏の方で何やら音がして来てみたらまだ小さな少女(何故か私達と同じ学校の制服を着てたけど…)を上級生の先輩たちがいじめていたのだ。


『ど、どうしようナギちゃん…先生に連絡したほうが……ナギちゃん?』

『あなたたち、寄ってたかってなにをしているのですか!!』

『なぎちゃーーーん!??!』

 

 私がどうするか相談しようとしたときにはナギちゃんは既に上級生に飛び蹴りを噛ましておりそのままナギちゃんは動きづらいとばかりに私に上着を投げ渡してスカートをちぎってしまったのだった……あれおばさんに帰ったらまた怒られそうだ……


 「…すまない、助かったありがとう。」

「いえいえ。怪我はないですか?」

 「このくらい問題はないよ…でも、私を助けるのは今回だけにした方がいい。」

「……?どういうこと?」

「……まあちょっと特殊な事情でね。私は目立ちやすい立場なんだ。これ以上私を庇えば…いやもう手遅れかもだが…ともかくこれ以上上級生に君たちまで目をつけられる理由はない。ほら、またお礼はさせてもらうから行ってくれ。」


助けられた側なのになんというかひどく偉そうな。でも同時に私達を気遣っていることがわかるくらい不器用にしっしと私達を追い払おうとする。

「……ナギちゃん。」

「ミカさんも思いましたか?」

「うん…というか私がやらなくてもナギちゃんどうせやるでしょ?」

「?」


ナギちゃんと視線で会話をして、目の前の女の子(会話の内容的にたぶん私達と同じ中学生みたいだ……マジ……?)は不思議そうにこちらを見て。そんな女の子の手をナギちゃんは引っ掴んで。


「よし、じゃあ遊びに行きましょうか。」

「えっ…?」

「私お腹空いちゃったなぁ。ハンバーガー食べに行こうよハンバーガー。」

「いえ本屋です。思い出したら私の愛読してるシリーズ本今日発売でした。」

「あれかぁ…ナギちゃん好きだもんねぇ…」

「ミカさんも読んでみてくださいよ、「乙女と銃と戦場と」。」

「うーーーん遠慮するね!」

「……ま、まってくれ」


私達がこれでもかと言葉のドッヂボールをしていると女の子はナギちゃんの手を掴まれてから放心した意識を取り戻して抗議を始めた。


「話を聞いていなかったのか!私と一緒にいたら…」

「もう手遅れかもとも言ってましたよ」

「うっ…」

「どうせ目をつけられているなら私はあなたという出会いを大事にします。」

「……それでどんな目にあっても?」

「困ってる子を見て見ぬふりするほうが悪いですから。」


 そう屈託なく笑うナギちゃんに女の子はちょっと照れたようにして。


「……君たちはなんていうんだ?」

「一年のナギサです、よろしくお願いします。」

「同級生のミカだよー!えっとあなたは…」

「……セイア、セイアだよ。うん。私も遊びたい。」


これが後のティーパーティーとして選ばれた私達三人の出会い。

それからはセイアちゃんがどういう子かも知り、3人でつるんで時にはナギちゃんが襲いかかる火の粉を蹴り払ったり時にナギちゃんを慕った子が雛鳥みたいについてきたりしていた…

 でも、正式にトリニティに入ってから大きく変わった。

 ナギちゃんは早いうちからその実力と頭の良さ、指導力をフィリウス分派に見出され、代表候補として任命を受けていた。

その頃にはナギちゃんは代表として、以前以上に期待や視線を感じてその座に相応しいお淑やかでどこか冷酷とも言えるお嬢様らしい振る舞いを意識しており、かつてトリニティの自治区で上級生を相手に一人で立ち向かい、弱きを守ったナギちゃんは封印され、いつの間にか私のことをミカさんなんて他人行儀な呼び方になっていた。

それでも私もセイアちゃんも良かった。彼女のことを支えられるよう(正確にはセイアちゃんナがホストなんだけど…)私達はそれぞれ今のギちゃんに足りないもの、かつてあったものを手に入れようと足掻いた。

 ナギちゃんが自分の生き方を変えてでも相応しくあろうとするなら、私達は全力でナギちゃんのことを味方する。どっちが言い出すでもなく私もセイアちゃんもそう考えていた。

だってナギちゃんはここまで私達を引っ張ってくれた光だから。ちょっとでも恩を返したかったから。


 「ナギちゃん本気なの?エデン条約なんて…あいつらにそんな分別あるわけないじゃん。」

「そんなこと言ってはいけませんミカさん。エデン条約は連邦生徒会長のやり残した夢…なによりこれ以上トリニティとゲヘナも争う必要はないでしょう…ゲヘナの方では風紀委員のヒナ委員長が奔走してくれてるはずです。私達も彼女の頑張りに応えられるように動きましょう。」


風紀委員長?いつの間にそんな人と仲良くなってたのナギちゃん。あぁ、でもそうか。いつもそうだ。ナギちゃんはいっつも一人で勝手に決めて付き合わせて……ゲヘナとそんな約束、守れっこないのにさぁ……

ここのところナギちゃんずっと疲れた顔してるなって思ったらそれの締結のためだったんだね…でもさぁナギちゃん。無理だよ。私達トリニティだって一枚岩じゃないんだよ?ずっと生理的レベルで嫌いあった2つがさ、仲良しこよしなんてできるわけないよ。


 仕方ないなぁナギちゃんは。夢を見ちゃったんだね。なら、覚まさせてあげるよ。私達は、私はナギちゃんを支えるためにいるんだからさ。

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