マーキング
そうして、しばらく町内を練り歩いた後。
ルフィたちはやっと本来の目的地に到着した。
「変わってねえなあ、この公園もよ」
ルフィはポツリと呟く。
そこは、ルフィとウタが子供の頃に一緒に遊んでいた、小さな公園だった。
深夜だけあって人っ子一人いない侘しい風景だが、それでも遊具などはまだそのまま残っていて、あの頃の思い出が胸に去来する。
「ほら、あそこ見てみろよウタ。おれたちの“ひみつきち”、まだ残ってるぞ」
そう言ってルフィが顎をしゃくったのは、ドーム型の遊具だった。
滑り台が付いているそれは内部にも入れるようになっており、幼い頃のルフィとウタはその中を秘密基地にして遊んでいたのだ。
「わんっ♥️」
ウタは嬉しそうに吠えた。
彼女もまた、幼い頃の思い出を想起して懐かしい気持ちになったのだろう。一段と声が弾んでいた。
ルフィはそんなウタの頭を優しく撫でながら、
「なぁウタ、そういやお前、あれやらねえのか?」
意味深な笑みを深くして、そう訊いた。
「わふ?」
ウタは可愛らしく小首を傾げる。
ルフィが何を言っているのか分からないようだ。
そんなウタからルフィは、そっと視線を外して、ある方向を指し示す。
「マーキングだよマーキング。犬ってよ、確か自分の縄張りにションベンかけて、『ここはおれの場所だぞ!』ってアピールすんだろ?」
彼の指が導く方向には、二人の“ひみつきち”があった。
「見せてくれよ、ウタ。お前がおれたちの“ひみつきち”に、マーキングするとこをよ」
ルフィはとても良い笑顔でそう言い放った。
つまるところ、彼はウタにこう命じているのだ。
あの遊具に向かって放尿しろと。尊厳など全て捨て去り、完全に犬になってしまえと。
そして、それを聞いた途端。
━━ウタはぶるりと身を震わせた。
その理由は一体何だっただろう。
まだ微かに残った尊厳を粉々に砕かれる羞恥?
思い出の場所に放尿することを命じられた悲しみ?
度を越えた辱しめを受けることへの怒り?
どれもてんで的外れ。
今現在、彼女の心を支配しているのは、途方もないくらいの歓喜だった。
だってそうでしょう?
あのルフィがやっと、“私”を完璧な犬として扱ってくれるようになったのだから。
これ以上の悦びが他にあるだろうか。いや、絶対にない。あるはずがない。
「ワンワン! キャン♪」
「うおっと!」
ウタは喜び勇んで遊具の方へと駆け出した。
リードを持つルフィもそれに続く。
そうして、“ひみつきち”のところまでたどり着くと、おもむろに四つん這いになった。これで本当に“犬”そのものである。
「くぅ~ん」
ウタはルフィを見上げる。
『ちゃんと見ててね』と言わんばかりの、うるうるとした瞳で。
「おう、見てるぞ!」
ルフィが言うと、ウタはパァっと表情を明るくして、ゆっくりと片足を上げた。
本来、雌犬は用を足す際に足を上げることはないのだが、彼女は敢えてそうした。その方がより犬らしいと思ったのだ。
ウタは身震いをする。
同時に、彼女の秘部から少し黄色い液体が、チョロチョロと音を立てて放出された。
僅かに香るアンモニア臭が、紛れもなくウタ自身の尿であることを如実に示している。
勢いよく放射されたそれは弓形のアーチを描き、十数秒に渡って二人の“ひみつきち”を濡らした。
やがてそれは徐々に勢いを弱めて、ついに完全に止まってしまう。
それを見計らって、ルフィは放尿を終えたウタに声をかけた。
「よくできたなウタ、これでマーキングも完璧だ。偉いぞ!!」
ウタは満足そうに一鳴きした。