マル暴の親分編
ssといった癖に長い。
割とキャラが崩壊してしまっているので注意。
、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
プルルルル…と電話が鳴る。外線からだ。
「はい、もしもし」
電話を取ったのは当番の白石。何かしらの通報だろう。いつものことなので慣れたように応答した。しかし、電話口から聞こえたのは全く違うものだった。
『網走警察署、ダナ?』
宇宙人とロボットを足して2で割ったようなくぐもった低い声がする。
「え…ハイ」
こりゃ事件のにおいがするぜ、と白石はスピーカーボタンを押す。音量はもちろん最大で。
『…我々ハ人質を預かッタ。返シて欲しケれバ我々ノ居場所ヲ探し出しシ、身代金ヲ出せ』
広い部屋中に犯行予告が流れる。その場にいた全員が一斉に白石の方を見た。
「え…ーと、身代金っていくら?」
『8000万』
「8000…8000円じゃダメ?」
『ダメに決まッテいるダロウ』
「じゃあいいや。その、誘拐した人の名前だけ教えて」
『…ナカザワ、タツヤ』
その日、かつてない程の激震が部署内に走った。いろんな意味で。
「…って事で住所の割り出しよろしく」
「わかったわかった」
サイバー捜索班のいる部屋で、白石は事のてんまつを大方話すと、最後に顔の前で手を合わせてテヘペロ、と舌を出した。
「全く、毎回毎回懲りねえな…」
呆れた様子で都丹はガチャガチャとパソコンに何か書き込んでいく。昔事故で片目をやったとは思えないくらいの正確さだ。数十秒もしない内に、画面に地図が表示された。
「こりゃ、また面倒だな。ヤクザの事務所だぞ」
「えっ?」
「そんでわざわざウチを指名したんだろ?誰か恨みでも買ってんじゃねえのか?」
白石は考える。心当たりがありすぎるからだ。片手どころか両手両足の指を使っても十分の一も数えられないくらい。
「図星か?」
「うん、図星っつーかまあそうだろうと思ってたというか」
「担当変えた方がいいんじゃないか?」
「まあ土方のじいさんがこれでいいって言ってるし」
「…」
黙って都丹は周辺の地図をプリントする。
「持ってけ。お前どうせ行かないだろ」
「お、おう。じゃ、ありがとね」
プリントアウトした地図を引っ掴むと白石は立ち去った。
「そうか、そんなことが…」
土方に報告すれば、特に驚いた様子もなく牛山と岩息を呼んだ。
「今からここへ行ってこい。絶対に人質に怪我をさせるな」
「はい」
「待てよ」
後ろから声がかかり、牛山と岩息が振り向く。いつのまにか応接用のソファに座っていたのは親分こと若山。
「んだよ、お前も行くのか?」
「当たりめーだろ。その人質、ナカザワタツヤって言ったろ?」
「そうだけど…あっ」
だから何だよ、と言いそうになって牛山は思い出した。こいつには恋人がいると。何回か若山の浮気を疑い警察署に乗り込んできたこともあるっちゃある。で、名前もそうだった気がする。
「……まあいいんじゃねえか?」
「人数が多い方が好都合ではありますがね」
「じゃあ決まりでいいだろ。俺もこの捜査に同行するぜ」
若山が土方の方を見ると、土方は黙って頷いた。
「今回は特例だ。まあ毎回特例だがな」
昼過ぎ、車から降りた三人は都丹からもらった地図を頼りに事務所のドアを探す。
「お、アレか」
「最近はこう言うのも住宅街に紛れるようになりましたね」
のんきな二人に対して若山は車から降りるや否や一直線に事務所へ走っていった。
「姫ーー!!」
((姫?))
一瞬牛山と岩息の脳裏にピーチ姫が高速で駆け抜けていった。しかし、目の前にあるのはマグマに囲まれた城ではなくちょっと賑わう道にある事務所。どっちかというとシマ。
『待テ』
扉に突撃しようとした若山が立ち止まる。インターホンから音声が流れているのだ。
『網走警察ノ者だナ?」
「そうだ。人質の解放とお前らの身柄拘束にきた」
牛山が後ろの方から言う。一瞬インターホンが黙った。しかし、すぐに音声は再開された。
『まあイイ。身代金は持っテきタんだロウな』
「あっ忘れた!」
『ふざけてるノカ?』
急いでポケットをあさる三人の刑事。どうやら素で持ってくるのを忘れたようだった。
「えーと、とりあえず…800円でいいですかね?」
岩息が手の中の500円玉と100円玉3枚を見せる。
『良い訳ネーダロ』
当然のように拒否され、岩息はポケットに小銭を戻す。今度は若山の番だ。
「人質は無事か?」
『大人しク身代金ヲ払ッテクレるならナ』
「チッ…民間人巻き込んどいて偉そうに言える立場か」
『払エないノカ?なら交渉ハ決裂ダ』
一方的に調子に乗ったようなインターホンに、突然牛山はニヤリと笑った。
「良いぜ?そっちが交渉する気ねーなら、こっちから行くまでだ」
ドオン!と音を響かせて牛山が猛然と扉にタックルをかます。ミシミシ、ビキビキと建築物から鳴ったら嫌な音を立てて重い扉の蝶つがいが割れた。
「な、なんだ?!」
突然物理的に破られたドアに吹き飛ばされた数人の組員とまだドアを持ったままの牛山に、組員たちはうろたえながらも武器を手に取る。
「よし、今だ行け!」
特殊警棒を携えた若山と素手の岩息が入り口から飛び込んでくる。
「怯むな!相手はたかが素手と警棒だぞ!」
「その素手が強すぎる!警棒も!」
岩息が腕を動かすごとに一人二人と宙を舞っていく。その反対側では、モーゼのように人の波を警棒で無理矢理割る若山の姿。その後ろにはうずくまりうめく組員の数々。
「もっと!もっとォ!」
岩息の方に飛びかかる勇敢な組員も、なすすべなくあっさり飛んでいく。突然、台風の目のように進撃を続けていた岩息が動きを止めた。
「なんだ?」
ぐるんと音がするほどの勢いで振り向くと、周りの組員たちに向かってガッツポーズをした。
「10人同時に殴って来てほしい!」
「おい、ふざけてんのか?!」
「構わねえ、やっちまえ!」
周りの10人ほどが一斉に飛びかかり、殴る、蹴る。
「もっと!もっと強く!」
ガン!ガン!と力の限り殴りつけるが、岩息はよろけすらしない。しまいには、
「でやあーー!!」
部屋の真ん中で回転ラリアットを決める。その途端、取り囲んでいた男たちは衝撃波に当たったかのように放射状に吹っ飛んでいった。
「てめーら邪魔だァ!」
一方、金属バットや鉄パイプ、ナイフをもった暴徒たちがたち塞ぐ中を跳ね飛ばし駆け抜けていく若山。振り下ろされたナイフを警棒で弾き飛ばし。大きく振りかぶったバットには鋭い突きを入れる。本職を警官か疑うレベルの戦闘センスだ。
一人、また一人と団員たちが倒れていく。
「うおおおお!」
大きな薙刀を構えた幹部らしき男が若山に突っ込んで来る。
「フンッ!」
横に大きく薙ぎ払われた刃をジャンプで避け、警棒を横っ面に叩き込む。
あっと言う間にこの部屋の組員たちはたった二人によって壊滅させられたのだった。
「奥行きは無駄にあんのか、この建物。都会だな」
一方、余計な戦いもせず、さっさと一人奥へ進む牛山。だいたい若山と岩息がやってくれるので途中で道を塞いできた数人だけ天井に突き刺さったくらいで済んだ。
「えーっと、そんなに広くなさそうだな…ん?」
平然と途中の部屋を抜けようとして、そのままの姿勢でバックした。重厚なデスクがあり、こちらに背を向けた椅子がある。
「ほう…単身で来るとは肝の据わった奴だ…」
ぐるりと椅子を回転させると、現れたのはこの組のトップらしき若い男。ゆっくりと立ち上がると無視して次の部屋に行こうとする牛山の目の前に立った。その右手には、日本刀が握られている。
「腐っても警察、人質の命はやはり惜しいか。ならばこの私を止めてみ」
「どけ」
最後まで話を聞かず、牛山はつかつかと歩みより片手で押し退けた。勢い余って男は向こうの壁に激突、半分めり込んだ。
「人質がいるってのはこっちか?」
まるで何もなかったかのように問う牛山に男は力なくかすかに頷いた。牛山が扉のノブに手をかけた途端、後ろから猛スピードで若山が走ってきた。続いて岩息もやってくる。
「オイ!ここか?人質いるって部屋は?」
「おう。そこの奴が言ってた」
「鍵はかかっていなさそうですね」
二人がいた部屋には、もうすでに起き上がっている者は一人もいなかった。若干呆れつつも牛山は普通にドアを開けた。
「姫!」
若山が真っ先に飛び込む。しかし、そこにいたのはメガネをかけたいかにもサラリーマンのような男。
「ん?あれ?」
拍子抜けした牛山はとりあえず拘束を外す。彼は拘束を解かれた腕を回しながら頭を下げた。
「あなた方は警察の方ですか?どうもありがとうございます」
「お、おう」
予想外で戸惑う牛山の横から岩息がぬっと顔を出す。
「失礼ですが、お名前を伺っても?」
「はい、私はナカザワタツヤです」
「漢字はどう書かれますかな?」
「えっと…」
ナカザワ、と名乗る彼は携帯になにか打ち出した。そして、手を止めて画面を見せた。
「こういうものです」
牛山も、若山もその画面をのぞき込む。そこに映し出されていたのは、
『中澤辰也』
という4文字。すべてを納得した牛山は、ポンと手を叩いた。要するに同姓同名の赤の他人だ。どのみち助ける義務はあったが。半分勘違いしながらだったことを後悔しつつ、牛山は警察署に電話をかけた。
数十分後、たくさんのパトカーが到着して組員を次々に乗せていく。その横で、刑事三人と保護された男が喋っていた。
「なるほど、藤○竜也さんと同じ漢字ですね」
「いや、そっちは竜でしたよ」
すでにくだらない話を始める岩息と中澤という男を尻目に、牛山は若山の方を見る。
完全に人違いでさらに姫よわばりしてしまった事にかなり後ろめたさがあるらしい。そりゃそうだ、と牛山は思ったがあえて口にはしなかった。
(こりゃ後が大変だな)
実際、この後警察署内でこの騒動以上の揉め事が起こったのは、また別の話。