マリーの御勤

マリーの御勤







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「いよいよ出発ですね、マリー」

「はい…仰せの通りに。後はお任せください」

「重ね重ねになりますが、かの地区は色々と噂が絶えません……くれぐれもお気をつけて」


ある春の日の朝のこと。聖堂の入口で二人の生徒が対面していた。見送られる側の生徒、伊落マリーは神妙な面持ちで深々と一礼してサクラコの前を去った。

心配とためらいがないまぜになった見送るサクラコの目線に対し、マリーの足取りはしっかりしたものだった────


目的地へ向かう電車に揺られながらマリーは事の顛末を思い返す。シスターフッドの幹部候補生に課される小教区での奉仕活動。マリーはその敬虔さと清い行いの数々から幹部に目されていた。本人にはそんなつもりはなくただ信仰に正直であろうと精進しているだけなのだが、こうして使徒座のサクラコにも目にかけられていた。

ついに到着し駅から目的の教会へと向かう。通りは散らかって薄汚れていたが、昼なだけあってぼろを着た子どもたちがはしゃぎ回っている。裏路地に目をやれば飲んだくれた大人が横たわっていた。マリーはそれらに心内で祈りを捧げた。トリニティの中央から少し離れたこの地区にはこの学校からあぶれたモノが集まる。華やかな、品格を重んじるさせる校風の裏にはこうした日陰者たちだっているのだ。ほとんどの生徒が見て見ぬふりをする存在にもマリーの慈しむ心は向けられていた。


「いやぁようこそおいでくださいました、マリーさん。お噂はかねがね」

「今日から暫くの間ですがよろしくお願いします」

教会に到着すると司祭の生徒が出迎えた。教会の施設を案内しながら司祭が説明する。

「知ってのとおりシスターフッドは積極的に社会奉仕活動を行っており、この教会では孤児院を運営しております」

「ここらへんはそういうお店も多く、その分身寄りのない子どもが多いのですよ」

「存じております。運営は順調なのですか?」

「それが…申請を出せば補助金は受け取れますが、如何せん事情が事情な子も多く、申請自体が通らないことも多いですね」

「そうですか……私にも何かできることがないか、手を尽くします」

「そう言っていただけるとありがたい…さぁ着きました、ここが子どもたちの部屋です」

広間のドアを開けると子どもたちが遊び回っていた。誰かが入ってきたことなど気にせず子どもたちは思い思いに戯れていたが、徐々に新顔に気づきはじめる。

「みんなー!しばらく一緒に生活するシスターマリーよ、ご挨拶しましょう」

集まって来る子どもたちに微笑みかけながら、マリーはこの子たちのために身を粉にして勤めようと決意を新たにした。


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そうしてはや数週間が経過した。

ここで過ごすうちにいくつか分かったことがある。1つは通りにはそういうお店───あまり好ましくないことだが、風俗店が予想以上に多い。ある時期から徐々に増えたと司祭の生徒は言っていたが、実態がつかめない業者も多く正義実現委員会の摘発も難航しているようだ。これらが営業を始めるのは夜だが、ときおり生徒のような人もいる。まさか本当に生徒ではないだろうが。

2つ目はこの教会の運営は”喜捨”に支えられていることだ。ときおり大人が訪れると司祭やその補佐が応対しているが、どうやらここに多額の寄付をしてくれているらしい。一度自分もお話ししたが、当たり障りのない世間話だった。

最後は、たまに皆が寝静まったころ司祭か補佐が数人の子どもを伴ってどこかへ出向く。これに関しては尋ねてもはぐらかされるが、子どものメンバーはある程度決まっているようだった。直近では一昨日出払っていた。

いくつか気になる点はあるが、今回の目的は奉仕活動だ。調べようとは思わなかった。それよりも思ったより資金繰りが苦しい。単純に子どもの数が多く、しかも戸籍さえあやふやなために補助金が降りない子もいるのだ。”喜捨”だって万全でない。そんな折だった。進んで寄付する大人────言い方は悪いが”お得意様”に応接することになったのは。


「こうして話すのは2回めだね…ええと」

「伊落マリーです。いつもお世話になっているようでして…お礼申し上げます」

「いやいや私はやるべきことをしているだけだよ。ここはイイ娘も多いしね」

「せっかくだし私の話を聞いてくれるかい…懺悔というか」

どうやら私に聞いてほしいようだ。構いませんよ、と促すと男はおずおずと話し始めた。

「ありがとうシスターさん……私は…ときどき女性を買ってしまうのです。自分の性欲を持て余して」

思ってもいなかった話題に面食らうが、迷える人を導くのも立派な御勤。しっかりお聞きして教え導かなければと思考を保つ。

「この間も…近くのお店で2人同時に、結合したところをもう一人に奉仕させて、さらに舌を濃厚に絡めあって、楽しんでしまいました」

「他にも一昨日、複数人買ってしまいました。服を脱がせて土下座させて、一人ずつ犯しました。買うことは好きですが、それ以上に雌であることを自覚させて、隷属させることが私にとって喜びなんです」


今まで想像だにしなかった内容が目の前で語られている。当然、真摯な聖職者である自分は性に関しては疎い。興味が全く無かったわけではないが、そもそも例外を除いて周囲にそういった情報にアクセスする方法は無かったし、何より無垢さ故に生娘特有の忌避感があった。

結果として話の内容はほとんどわかっていなかった。耳から音は入ってくるが、それを処理して理解することができない。ただとても「いけない」ことを話していることだけはわかって、これまた今まで味わったことがない場の雰囲気に呑まれていた。脈動が早くなり、口は渇く。男は淡々と、それでいて雄弁に淫猥な語りを続けていたが、それに応じて自分も奇妙な気分に嵌って聴き入っていた。これから最悪の事態になることも知らずに。


不意に男の口元が歪んだ。

「それで、私が一昨日買った子の名前は────、────、────。分かりますか?」


 え?


思考が止まった脳でも知った名前は認識できた。一昨日、抜け出していた子たち、

「私はどうしても罪を犯してしまうことが好きと申しましたが、一番好きなのは───穢れなき清い娘を自分の手でぐちゃぐちゃに汚すことなのです」


何も分からないままただ逃げなきゃと本能が煩く警鐘を鳴らす。昂ぶった躰に、血の気が引いていく。言い終わらないうちに部屋の扉に取り付くが、開かない。

「鍵かかってます、外からね。この教会なぜかこういう部屋が多いんだよ」

後ろから声が迫ってくる。扉をどんどんと叩きながら必死に助けを呼ぼうとするが、心底愉しむように人払いは済ませてあると声は告げた。

ならばと愛銃を抜き後ろに構える。ほとんど使うことはないが、この際これしか頼りはなかった。警告しても挑発するように男はへらへらと近寄ってくる。お赦しください────引き金を引いた。

カチン。

パイエティーは小気味いい金属音を立てたっきり反応がない。現実が受け入れられないまま二度三度と震える手で引き金に指をかけるが、どれも愛銃は応えてくれなかった。

「細工してもらったんだよー。もうどうしようもないよ?」

「…あ……ああ」

後ろに背負った扉が逃げ場がないことを如実に物語っていた。手からこぼれ落ちた愛銃がガチャンと音を立てた。男の欲望と喜色がに滲み出た目線が突き刺さる。躰をすっかり覆い隠している修道服の上から、男は舐め回すように視線を這わせた。今から行われるだろう行為への恐怖と、初めて遭遇する男性の悪意と嫌悪感に身はすくみ、呼吸は浅くなり、絶望するよりほかなかった。


ついに鷹揚と目の前まで至った男は、それまでの振る舞いとは一転して俊敏に荒々しく喉に手をかける。驚いて反射的に開いた唇を男は貪った。愛を確かめるためのものとは対極に位置するような永いキス。徹底的に口内は蹂躙され、男の唾液が侵入して混ざり合う。嗚咽が出そうになるも、男の力によって無理矢理にこの生理現象も押さえつけられた。初めてのキス───好きな人に捧げたいなんて人並みの願望は悪人によって残酷なまでに打ち砕かれてしまった。


「ぷはぁっ……きゃあっ!」

満足したのか不意に口づけは終わったが、間髪入れずに押し倒される。かはっ、と肺から空気が押し出された。回る視界いっぱいに男の笑み顔が映る。獲物を前にした獣のような下卑た嘲笑い。

「初めてのキスだったよね?とっても良かったよ。こっちもいただくんだけどね」

はやる手付きで乱れた服の上から、男は秘部へ手を忍ばせた。そのまま容赦なく膣に指が挿れられる。確かめるように男は内部をかき回した。

「温かいよマリーちゃんの中。んーと、ここかな?」

耳元で愛とは無縁の言葉を囁かれると、全身の肌が粟立った。一度か二度自分でやったみたときとは全く異なるこなれた手付き。より深くまで侵入した指の動きに連動するように、神経は律儀に快感を伝える。感じたことのないような快感に身をよじっているとぐちゅぐちゅと水音を立て始めた。

「やっぱり感度いいね。それじゃあこっちも」

恫喝するためのものだったのだろうか、男は懐から刃物を取り出すと修道服を切り裂いた。慎ましやかな胸部があらわになる。男は息を吹きかけてみたり、指先で弄んでみたり、口に含んだりしていた。そして再びのキス。さっきとはまた違う、いくらか自分をいたわるようなキスだった───優しく口内に入ってきた舌は、奥へ引っ込もうとする私の舌に追いすがり、両者の最も敏感な先端が触れ合った。上から下から、初めての刺激に脳はパンクしていた。眼前で行われる非道に、自分が被害者なことに呆然と受け入れてしまう。


「じゃあいよいよマリーちゃんの初物おまんこ、頂いちゃうね。おっしっかり膜あるね。流石はシスター。」

「やめてください…それだけは……」

ふわふわした思考は抵抗する術を導出できない。曖昧に拒否する言葉だけを口ごもるのみだった。そして遂に────

「────っふう…キツいね」

「~~~~ッッ‼?」

痛み。ずぶぶと異物感が挿ってきたと思うと、破瓜の痛みが襲ってきた。股間に熱いものが滴る。

「マリーちゃんの聖なる部分、壊されちゃったね」

「……うっ、うぅっ、ひぐっ……ごめん、なさい…」

男は一旦動きを止めて、静止した空間に啜り泣く声だけが響く。口をついて出た謝罪の言葉は何に対するものなのか、もはや分からなかった。結果的に裏切った信仰か、男に罪を犯させてしまった自分の至らなさか、はたまた純に慕っていた先生に対してか。

「それじゃあゆっくり動くよ。しっかり”奉仕”してチンコに媚びろよ」

ヌコヌコとやや腰が動く。既に絶望して、もう早く終わってと祈ることしかできなかった。続けていると痛みは引いて段々と快楽が走ってくる。

「ほらほら、ぼーっとしてないでもっとまんこ締めろよ」

「……」


もうどうでもよかった。

私の青春は今この瞬間に終わったのです。これから一生、犯されたという罪を背負って日陰を歩まなければならないでしょう。そう思うと涙がぼろぼろと溢れました。走馬燈のようにみんなの顔が浮かびます。サクラコ様、シスターヒナタ、ハナコさん…そして、先生。咎人の私を見て、みんなはどう思うでしょうか。元の関係を維持するどころか、きっと拒絶されてしまうかもしれません。ごめんなさい、ごめんなさい、許して───


「オラあッ!!」

次の瞬間、衝撃が体中を駆け巡る。腹部に激痛が走ると、ぼやけた視界が白黒した。殴られた?怖い、

「浸ってんじゃねえよ。泣くほど処女喪失が嬉しかったのか?」

「これから雌を自覚させて、男に媚びるのが生きる意味ってことじっくり教えこんでやるから覚悟しろよ」

もう悲しいのか怖いのか助けてほしいのか分からなかった。使いものにならなくなった感情をよそにピストンが始まる。自分の快楽しか求めないような、身勝手で荒々しい動き。突く動作に合わせて内蔵が圧迫されて嬌声が漏れ出た。


「あっ、あっ、あっ、あんっ、んっ」

「お、お、いい具合だよマリーちゃん♡今から射精すから、イクときは『おまんこイキます』って言えよ」


男の台詞に一気に正気に引き戻された。中出し───やめてそれだけは───しかし拒否する言葉も出る前にそれは実行されてしまった。


「ふうっ射精るっ──ッッ」

「おまんこイキ、ますう゛ぅぅっ♡♡♡」


既に膣内の感覚はなく、実際どうなっているのか分からなかったが、男の身震いの振動が伝わってくる。射精されたことは本能でわかっていた。それよりも自分の口から思わず出たその言葉に驚く。動けず潰れて肩で息をしていると眼前に男の半勃ちのそれが据えられた。舐めろ、という言葉に反射的に従ってしまう。


「マリーちゃんは飲み込みが早いね。もう男に媚びるしかないって、わかってんでしょ?犯された人間に神に仕える資格なんてないし、なによりもうお前は周囲から見放されたんだ。これからは犯していただけることに感謝して、一生を男に仕えて生きていくしかないんだよ?」

夢見心地のまま男の言葉に耳を傾ける。口による”奉仕”を続けながら。

「マリーちゃんはまさか堕ろすなんてことしないよね?神様からの授かりものだもん。まあそのうち自分から子種を乞うようになるだろうけど」

思い出したように漠然と膣から精液を掻き出す。勿論”奉仕”はやめずに。


「私の言葉を心に刻み込んで。これからのマリーちゃんの生き方だ」

「お前は雌だ」

私は雌です

「男に仕えて、犯していただけることに感謝しなさい」

男──男性様にお仕えし、犯していただけることに感謝しましょう

「子を孕み、産むことこそが喜び、生きる意味だ」

私の人生は、男性様の子を孕み、産むためにあります


冷たく死に絶えた心に授かった言葉が染み込んでいく。男は満足したように今日は終わりというようなことを言って扉を解錠すると鷹揚に出ていった。ゆっくりと身体を起こし、眼下の躰をまじまじと観察する。犯された躰は元にもどれないことに、どうしようもないことを歴然と示していた。またもや涙があふれ出た。

「うぅっ…うっ…うわぁ───…」

今度は、慟哭だった。


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