マリンフォードinアド

マリンフォードinアド


翌朝、モーダの牛乳を補充するために数日に一回やってくる買い出し船がやってきた。

「意外とポニーテールも悪くない?」

「似合ってます!」

海軍の軍服に着替え、髪を黒に染めて髪型も変えたアド。

「…じゃあ、行くよ。今まで本当にありがとう。」

「怪我は、もう大丈夫なんですか?」

「モーダちゃんが作った牛乳のお陰で骨はくっつくの早かったから。」

ふとモーダの顔を見ると涙でぐしゃぐしゃになっていた。寂しさに堪えきれなくなってしまったようだ。


「行かないで"お姉ちゃん"!」


その言葉に姉の姿がフラッシュバックする。幼少期の自分の幻影を必死で振り払う。

姉がいなくなり堪えきれず涙を流したあの時の自分をただ抱き締めてくれた父と同じように、今できる精一杯でモーダを抱き締めた。


「私、絶対忘れないから。」


能力と見聞殺しを使い、完全に気配を消したアドは、買い出し船に飛び乗った。



戦争に備え、世界中の海軍基地から兵を募っている海軍。当然ルルシア王国にある海軍基地G-2支部も例外ではなかった。

能力、そして見聞殺しを使用し、目の前にアドがいたとしてもアドがいないと錯覚するほど"影が薄い人"になる。上手く紛れ込み、密航を重ねて海軍基地G-2支部から目的地にたどり着いた。

(ここがマリンフォード…。)

船を降りたアドはひっそりと抜け出し、マリンフォード全体が見渡せる岩山の上にある櫓に登る。

月明かりに照らされたそれは、本当に巨大な要塞だった。

三日月の形をしている島の地形から考えても迎撃するにはもってこいだろう。外敵を挟み撃ちすることも囲い込むことも可能だ。

(軍艦は50隻。兵の数は――)

見聞色の覇気で島全体を探ると、自分より強い気配を複数感じた。

(…今の私じゃ、正面から戦ったら勝てないだろうな。)

未来視や武装色の覇気は相手の方が上だろう。

幸いアドは気配の探知や人の心を読む力が異常に発達している。恐らくこの島にいる誰よりも。遭遇せずに潜入できるが、万が一バレたら逃げ場はない。

島にいる全員が敵、協力者もいない。


エースの公開処刑まであと6日


肋骨がくっついたとはいえ、全力で体を動かすと脇腹の痛みが厳しい。

脊髄に直接痛み止めのブロック注射を打つと、激痛が走る。

「うあっ…!」

怪我の影響での呼吸の厳しさも酸素カプセルを吸い込み誤魔化す。


痛みが落ち着いたアドは空を蹴り飛び出した。

見聞色で監視用映像電電虫の位置を確認、能力で電波を凪にして外部のモニターとの通信を遮断。

赤外線センサーも、音感センサーも、超音波センサーも、全ての波を凪にできるアドには意味がない。


(マリンフォードの図面は、絶対に手に入れなきゃ。それから――――)


酸素カプセルを投げ捨てながら駆ける。


街頭が消えたマリンフォードの夜の闇の中へとアドは沈んでいった。

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