アド、マリンフォードに潜入決意1
モーダ宅からエースがいなくなって20日ほどが経過した。
モーダの手伝いをしながら過ごすしかなかったアドだったが、体の回復を感じ、久しぶりに拳銃を手に取る。
草原のまん中で飛び上がり、宙返り。空中でひねりを加えながら空砲を放ち地面に降りる。
音に驚いた牛達が少しパニックになってしまった。
「びっくりさせちゃったよね。ごめんね。」
見聞色の覇気で語りかけると牛達は落ち着きを取り戻した。
(随分良くなってきたな。)
ティーチに折られた肋骨の辺りを触る。まだ痛みはあるが、骨はくっついたようだ。
(エース君、きっと大丈夫だよね?)
ふとエースのビブルカードを取り出す。
「う…そだ。」
昨日までは何ともなかったビブルカードは、今にも燃え尽きそうになっていた。
「――――ドさん!アドさん!大変、エースさんが!」
遠くからモーダが新聞を片手に走ってくる。その表情は今にも泣きそうなほど弱々しい。
「…見せて!」
アドはモーダから新聞を受けとる。
目に飛び込んできたのは、最も恐れていた情報だった。
"白ひげ海賊団二番隊隊長、火拳のエース、大監獄インペルダウンに幽閉!"
"決闘に勝利したエースだったが、黒ひげ海賊団の一員が海楼石の銃弾を放ち、捕らえられる"
(あ…あ…。)
海楼石は加工が非常に難しい。
新世界の極一部の職人か、海軍や世界政府の研究機関でないと海楼石を使用した武器弾薬の製造は事実上不可能なはずだ。
(…私の…せいだ…。)
ジャヤ島でティーチを撃ち抜いたあの海楼石の銃弾。それを回収し再利用したとしか考えられない。
アドは頭がぐちゃぐちゃになり、パニックで過呼吸に陥りかけるが、モーダがアドの頬を叩いた。
「しっかりしてください!」
「…!!!」
「エースさんは捕まっただけなんですよね?生きてるんですよね!?」
そうだ、エースはまだ生きている。今は後悔することよりも、自分に何が出来るかを考えなければ。
「あ…ご、ごめん、なさい…。」
「ううん、ありがとう。」
遠くに立ち上る積乱雲は、これからやってくる大きな嵐の前触れに見えた。
■
落ち着け、まずは状況を整理しないと
嵐がやってくる前に牛を牛舎に入れ、モーダ宅の一室で考えを巡らせる。
(そもそもどうして海軍はティーチからエース君を受け取った?)
家族を絶対に見捨てない白ひげ海賊団の、しかも2番隊隊長を捕まえる。
そんなことをしたら四皇エドワード・ニューゲート率いる大船団が押し寄せてくる。通常なら裏で取引をしてひっそりと保釈するか、見なかったことにしてティーチを門前払いするはず。
強大な国家をも遥かに凌ぐ戦力を正面から相手にするなど、例え海軍であっても避けたいはずだが…。
(いや、そんなはずは…でも…。)
エースを説得する時に語った"もしも"が頭をよぎる。
「モーダちゃん、ちょっと手伝ってもらってもいいかな?」
「はい!」
各勢力をチェスの駒に見立ててモーダに世界地図の上に置いて指示通り動かしてもらい、予想される各勢力の動きを再現する。今までの新聞の情報や、新世界の海賊の性格、交戦経験からの勘、海軍の食堂で働いている両親からモーダが聞いている海軍の情報も書き出しいく。
恐ろしい事実が浮かび上がってきた。
(考えたくはない…でも海軍と四皇、それに七武海のこの動き…そうなるとしか思えない…!)
(インペルダウンは内側から脱出するのは難しいけど、外側からの攻撃はあまり想定していない構造だし、エニエス・ロビーはこの前ルフィ達が滅茶苦茶にした。海軍が迎え撃つなら…。)
モーダの手によって動かされた2つの駒がある場所で向かい合う。
白ひげ海賊団と海軍の全面戦争
場所はマリンフォード
(私にできること…。)
ふと、海軍のG-2支部から脱出したときにエースがくすねてきた海軍の軍服が目に入ったアドは、あることを思い付いた。
(…やるしかない。)
「モーダちゃん、海軍の牛乳の買い出し船っていつ来るんだっけ?」
「明日です、けど…いきなりどうしたんですか?」
「エース君を助けに行く。」
インペルダウンは侵入はまだしも、脱出した後にどうするかが非常に難しい。ならばとマリンフォードに潜入して、白ひげ海賊団が有利になるよう情報を盗み出すことにしたアドは腹を括り、準備を始めた。