マシロ

マシロ


私の夢は正義の実現。

今日もそれを願い、高い鉄塔の上から引き金を引く。

憧れで、大好きな先輩達は前線で戦っていて、私はその援護。

高いところ、安全圏から撃ち下ろす行為は、私に安心感と正義感を与えてくれる。

さて、次なる敵はどこにいる?

そう思い、大型のスコープ越しに戦線を眺めて…

キラリと光った。


「…?」


何か飛んでくる影が見えた気がして、私は知らぬ間に瞬きをしていたようだ。

いけない、ついボーッとしていたようだ。

慌てて愛銃のスコープを覗き…見てしまった。

前線は壊滅していた。

ハスミ先輩も、ツルギ先輩も、他の正義実現委員会のみんなも。

壁に刺さったり、床に伏したり、朱が飛び散っている。

敵はどうやら今から引き返すところらしい。

私はカウンタースナイプでも決められて、気絶させられていたようだ。

敵のリーダーらしき人物が殿に立ち歩いている。


「…重力、風力、ブレ、補正完了」


ルーチンと化した呟きから、トリガーに掛けた指に力を込める。


「ファイア」


そうして放たれた、生まれて初めて殺意を持った弾丸は。

見事に敵の頭部に直撃し、その後頭部に穴を空けた。

敵が一斉にこちらを向くのが見える。

急いで撤退しよう。そう思い鉄骨の見張り台から駆け下りようとした。

風を浴びながら、剥き出しのハシゴを降りる。

愛銃を背中に担ぎながらの降下は、些か時間のかかる行為だ。

それを、当然相手は見逃さなかった。


「がっ……」

頭を横から殴られたような痛みも一瞬、私は体勢を崩して、ハシゴから手が離れていた。

掴み直そうと手を伸ばしても、もう届かない。

高さは約70メートル。いくら体力作りをしている私とはいえ、頭から落ちてしまえば流石に助からないだろう。

空気を切り、重力を一身に受けて肺が軋む。

地面に背を向け落下しているから、いつ私が着地するのかも分からない。

お腹の奥底が酷く冷える。

ああ、これが死に向かう感覚だというのか。

悲鳴すら上げずに落下していく私の中は、ただただ寒かった。

空中で身動ぎし、くるりと地面に顔を向ける。

真下には人影があった。

(…先生)

高倍率のスコープ越しじゃなくても、はっきりと分かる。

こちらに走ってきている先生は、しかし間に合わないだろう。

重力加速度に対し引き伸ばされていく思考は、ぐるぐると走馬灯を走らせていた。

(……ハスミ先輩…ツルギ先輩……イチカ先輩…)

(私は…死ぬ?)

(嫌だ、まだなんの正義も実現できていない。このまま死ぬなんて正義実現委員会の名折れだ)

(まだ、私はまだ死にたくない。死にたくない!)

脳が、心が悲鳴を上げても、私の口は何も動かない。

声を上げるのが無駄だと知っているように。

肺が殴られ、咳き込むことも出来ない苦しさの中、地面まではあと5メートルほどか。

(死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない)

「死にたく」



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