マシュがオッドアイになりまして

マシュがオッドアイになりまして


某日、シェフィールド城の迎賓室にて。


「…見たところ、本当のようだな」

「はい。信じてくださってありがとうございます、ボガード様」


椅子に腰掛けたわたしことマシュは、夫兼シェフィールドの領主であるボガード様にある相談事をしていました。

「岩獅子」の異名をとるボガード様は牙の氏族、つまり獣人です。外見は、金色の瞳を持つ人型の白い獅子と言ったところでしょうか。迎賓室の椅子では座るのに難儀し、この城の玉座でようやく釣り合うか、と言う程の体躯も印象的です。

…そのボガード様の瞳と同じ色が、わたしの右目に現れていました。相談事とはこれのことです。


「妙なこともあるものだ。これまで娶った妻にそんな変化が現れた者はいなかったが」

「そうなんですか?」

「うむ。…クク、しかし難儀なものだな妻よ? 私に染められ、自分が掻き消えていくようで怖いだろう?」

「ふふ、とんでもありません。ボガード様に近づけたようでわたしは嬉しいですよ。でも変化は変化なので、関係があるであろう方に伝えておくべきだとハベにゃんさんが」

「……。…相も変わらずおかしな女だ。全く…」


ボガード様は複雑そうな反応でしたが、これはわたしの本心です。


───野生的荒々しさと理性的礼節を両立した振る舞い。

───緑基調の上質な礼服ですら隠しきれない、2m越えの体躯に相応しいみちみちの筋肉。

───わたしのナカをすっかりボガード様の形に整えてしまった、人とライオンの間の子のような男根。


わたしは、何もかもが逞しいボガード様が心の底から大好きで、愛おしくてたまらないのです。

…ああ、もしかして。わたしの瞳がボガード様と同じ色に染まってくれたのは、ボガード様が毎夜注いでくれる魔力の塊がようやくわたしに馴染んだからなのでは?

なんて素敵な仮説。そうだとしたら、これ程素晴らしいことは他にありません。ボガード様が荒々しくも優しく扱ってくれたおかげでこうなれたのですから。

そう、ボガード様は実は優しいのです。夜伽の際にわたしをすっぽり覆える程の巨躯と「憎まれなければ力を発揮できない」性質から怖がられることも多いボガード様ですが、わたしはちゃんと知っています。

記憶を喪った「マシュ」という存在にあった空白をすっかり埋めてくれた、ボガード様の不器用な愛情。わたしはそれを無碍に扱う程の世間知らずではありません。


「まあ良い。今のところ異常もないのだろう? ならば気にするな。私とて初めてのことなのだからな」

「はい、かしこまりましたボガード様」

「嬉しそうだな……そんなに気に入ったのか?」

「それはもう。ボガード様の匂いを刷り込まれて、精を注がれて、次は瞳まで! これはボガード様の妻として非常に喜ばしいことです!」

「…やれやれ、我が62番目の『花嫁』はとんだじゃじゃ馬だな…。…話は終わりだ。私は仕事に戻る」

「はい。いってらっしゃいませ、旦那様」


わたしはそう言って、立ち上がろうとするボガード様の唇にいつものキスを捧げました。

そうして、妖精國でも一、二を争う平和な時間は続いていくのでした。

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