ポメラ・フラジャイルのあり得る結末:酒瓶と川の底編
人生というものはどんなに頑張ろうとも、どん底へと突き落とされるアリ地獄だと。
ポメラ・フラジャイルが十九年の人生で出した結論は実に悲観に満ちていた。
だが、実際のところ彼女がそうなるのも訳はない。両親も、友人を作る機会も、明るくなるであろう将来も、己が味わうはずの青春すらも、何もかもが台無しにされたのだから。
悪いのは己自身だと、眠るたびに己を呪い続けた。生まれることすら罪深いと、散々己を罵った。
自虐で終わればよいのだが、不幸というやつは連鎖する。
世間は獣人に対して、冷たい視線を向け始めたのだ。
狂暴化したり、突然唸りだす事象が起きたためである。
と言う訳で、彼女はいじめられることすらなくなった。単なる空気ですらない。彼女はもはや、存在すら認知されない哀れな空白となったのだった。
そして、卒業式すらも出れぬまま学校は終わった。
ポメラ・フラジャイルは穏やかに死ぬことだけが救いのように考えた。
「私はもう、生きていても仕方ないし……自分自身が嫌になっちゃった……」
その日、彼女は初めて酒を飲んだ。心の中まで浸透した幸福感ととろけるような快楽が彼女の神経をかき乱した。初めて彼女は幸福を『感知』出来た。
それ以降も酒を飲み続けた。将来も、未来も、己の通帳口座の数字が減るのさえも、どうでもよくなっていた。
彼女の頭にはもう、明日を考えるほどの理性さえ一かけらも残されていなかった。
ある日、彼女は酒瓶片手に河川敷を歩いていた。虫すら鳴かない、深夜にだ。
ぼんやりと考えていたのは、自殺だった。酒が施した幸福感のままに己自身を終わらせようとするつもりでいた。
鼻歌を歌いながら、冷たい川へと足を運ぶ。水を吸った靴下すらも彼女にはさほど気にすることはない。
「深くて、暗いところに行けば……私は生まれずに済むのかなぁ」
思わず吐いた。ゲロが清らかな川を流れていく。足は止まらない。
そして、深みにはまった。水がポメラの体を包み込む。冷たく、寂しい。
だが、これでいい。ポメラは安どした。もう二度と生きることに怯えないでいいのだ。
どうしようもない感情のままに、ポメラは目を閉じた。
翌朝、水門に女の死体が引っかかっていると通報が入った。
身元確認の結果、ポメラ・フラジャイルであると判明。
溺死とみられている。
最後の最後まで苦しんだ彼女の表情は安らかに眠るかのように穏やかであった。