ポケットモンスターDRG 第n話『竜淵相剋!ラナーVSムスカリ』

ポケットモンスターDRG 第n話『竜淵相剋!ラナーVSムスカリ』


竜の里、開発計画の仮説本部。会議室で向かい合う2人の人物。恐らくはこの地域で最も有名な人物である

名はサイラン。この地の政治家であり、ドラゴン使いとしても有名なトレーナーであもある人物だ。ドラゴン使いの里と呼ばれる高い山脈に囲まれた秘境の出身で、確かな力を持っている

もう片方はサイランに比べたらまだ若い少年と青年、どちらとも取れる年頃の銀髪のポニーテールが特徴的な男性。彼の名はムスカリ。サイランと同じ里出身のトレーナーでもある

「君なら理解してくれると思っていたよ」

「……いえ、最終的にどちらが里に取って利になるか、選択の問題なので」

「その通りだ。過疎化が早まり、人が減り徐々に壊死していく故郷を憂うのはお互い同じだろう」

彼等の話し合いの中心は、2人の故郷の里。山脈に囲まれた里を中心にした近代開発についてである。山脈の一部を切り開き、道路整備から始まるライフラインの構築や里全体の開発についてである

竜恵の里ーーー活火山を要する山脈に囲まれた要害の中に作られた里は、昔からドラゴンポケモンが多く生息し、そこに生きる人々が共生関係を築き作り上げた地

だが、今はその里の存続に関わりかねない程に過疎化が進み出している。時代の変化につれて里に住む人達も減少傾向にあり、若い人達が里を出ていく事も少なくは無い

このままでは里自体が無くなってしまうかもしれない。それに対してサイランが打ち立てた計画が里の近代開発であった

山脈の一部にトンネルを掘り、外界と切り離された環境を変え、開発によって住む人やドラゴンポケモンを育てる知識、トレーナーの強さを広める事でバトル施設の設置、ポケモンリーグの誘致等によって過疎化から里を救うのと同時にこの地のトレーナー全体の質の向上に繋がる事にもなるとサイランが強力に推し進めているものだ

当然、里の中には反発の声も大きく、計画の進行のために説明会等も開いているが、同時に同じ里の出身者から協力者を募っていた所に、彼ーーームスカリにもスカウトの声を掛けたのだ

そして、ムスカリもまた故郷に対する想いも強いが、同時に故郷の未来を憂慮してもいた。彼も里の開発には思う所はあったが、悩んだ末そのスカウトを受ける決心をしたのだ

「君の様な理解のある者達が多ければ、話も早く済むんだがね……」

「仕方ないでしょう。変化は恐ろしいものです。特に此処は伝統も歴史も深い。それが壊されるかもしれないと思うと、反発もやむを得ない事かと」

「だがそれももう少しだ。どの道開発は進めていく。頭の固い老人達も何れ解ってくれると思う他ないな」 


思う所はあるものの、開発そのものは里の未来を考えれば必要な物だと受け入れたムスカリは、サイランに協力を約束して仮説本部を後にした

風が強く吹く新月の夜。月が隠れ星がよく見える。風に揺れるマフラーを抑えて星を見上げる

この里を飛び出してそこそこの月日が経つ。何回かは里に帰ることもあったが、里は閉鎖的で外様の人を受け入れず、里を出たものにも拒絶反応を見せる事がある

この開発は、そんな場所が変わるための大きなチャンスだった。確かに、亡くなった母が愛した里が大きく変わるのは怖い。でもーーー


「あっらら〜?誰かと思えばムスカリクンじゃないの。元気してる〜?」

「……一体、なんの用かな?」

後ろから声をかけられた。聞き覚えのある風鈴の様な軽く響く音色の声は過去を想起させる

振り返った先に居たのは、変わらず綺麗な黒い紙の女性が立っていた

「『世界が見たい!』って言って里を走り出した君が、こんな所に……さてはサイランに声をかけられたとか?」

「……」

ラナー。同じく竜恵の里の出身のトレーナーであり、この地域のポケモンリーグの四天王に座する、恐らく近い年代では一番出世してるだろう人物だ

人を食った様な、何を考えているか分からない性格で正直な話、苦手な人物だった

「そう言うアンタも、サイランさんの開発に賛同しているのかな?」

「まあねー。一回あの頭でっかち達全員土地ごと真っ平にされれば良いんじゃ無いかなって」

あっけらかんと答えるラナーに、内心溜息を吐くムスカリ。風の様に自由気まま、気の向くままは変わらない様だ

「でも以外。ハクモちゃんと懇ろな君がまさかの賛同かい?まさかケンカかい?」

「……四天王って言うのは、存外暇なのかなあ?」

辺な邪推をされて若干苛立つが、まともに取り合うだけ無駄だとよく理解している。ムキになったところで彼女のペースに乗せられるだけだ

「言う様になったじゃん。キミは故郷が変わる事に何にも思わないの?」

「……何が、言いたいのかな?」

一旦、ラナーから視線を切って一呼吸置く。ラナーは笑顔のまま、眼が怪しく光る

「本当に協力するつもりなのかい?誰にも言わないだけで、里への想いは人一倍強い君が?」

「そう言う挑発は変わらないねぇ……」

要は、協力する振りだけをしているんじゃないのかと言いたいのだろう。本当の所は反対していて、スパイ染みた事をしているのではないのかと

ラナーは笑いながらムスカリの側を通り過ぎる。背中合わせに距離が空いていく中、腰のベルトからボールを取り出す

そこまで言われて仕舞えば、こうするしか無いだろう

「じゃあ……試してみれば良いんじゃないかな?」

言って、後ろを通り過ぎたラナーへ振り返る。そこにはすでにボールを持ったラナーが笑っていた

「そう来なくっちゃ!とは言っても時間はそんなにないから、2対2でいこっか!」

「上等。行け、ヌメルゴン!」

「GO!オンバーン!」 

 互いに繰り出したポケモンが対峙し睨み合いに移行する

相手は四天王。正直な話、ラナーは格上の相手ではあるが、一歩も退く気はサラサラない。育てたポケモンの質もトレーナー自身の能力も劣るつもりは無い

睨み合いの中、先に動いたのはラナーであった

「先手必勝!『エアスラッシュ』!」

「迎撃だ。『りゅうのはどう』!」

オンバーンが羽をはばたかせ空気の刃を飛ばす。それを迎え撃つように放たれる波動。ぶつかり合う互いの攻撃が反発し合い、対消滅を起こす

「やるぅ!伊達に世界中旅して回ってない!」

「あの頃とはもつ違う『あまごい』」

ヌメルゴンが咆哮を上げる。その直後、夜の空に暗雲が広がり、直ぐに多雨が降り始める。雨は視界を狭め同時に炎タイプの技の威力を大幅に減衰させる

「へぇ、それじゃあどう変わったのか見せてみな『りゅうのはどう』!」

「言われるまでも無いなあ『アシッドボム』!」

オンバーンが繰り出す波動をまともに受け止めるヌメルゴン。正面から受けるヌメルゴン。ドラゴンタイプ同士の技は互いに効果抜群。更にヌメルゴンは高い素早さと平均以上の攻撃能力を持つ。だが、まともに受けたヌメルゴンは強烈な一撃を耐えて方から毒の玉を撃ち出す。技を繰り出したオンバーンの隙を縫って繰り出された毒弾はオンバーンに直撃。しかし、『アシッドボム』そのものの威力は高く無い。今の攻防だけを見ればラナーに分があるだろう

だがーーー

「アシッドボムねぇ、絡め手も上手くなったじゃーん」

アシッドボムの真髄はその威力じゃ無い。攻撃を受けたポケモンはその攻撃能力、とくこうを大きく減衰させる事にある。特殊攻撃が中心のオンバーンには、ダメージ以上に有効な攻撃であると言えた

「その余裕、いつまで保つかな?『りゅうのはどう』!」

ヌメルゴンが吠え、もう一度波動を放つ

「当然。どこまでも!『エアスラッシュ』!」

しかし、ヌメルゴンに先んじて空気の刃を放つ。刃はヌメルゴンの身体に届くが同時に放たれた波動がオンバーンを穿つ。幾ら高く無いと言ってもヌメルゴンのとくこうはオンバーンのそれを上回る。そこから撃たれた攻撃は威力が低いと言ってもそれなりのダメージを蓄積させる。そこに放たれた効果抜群の技は幾ら鍛え上げられたオンバーンとは言っても瀕死は免れない

そして、それは同時にムスカリのヌメルゴンにも同じ事が言えた

効果抜群の技を受けて耐え切った耐久力を誇るヌメルゴンと言っても、連続して攻撃を受ければその体力は底を付くのは言うまでも無いだろう

倒れたオンバーンに対してギリギリで耐えたとは言え、それでも立っているのがやっとの状態だ

先のアシッドボムでオンバーンの能力を下げていなければ逆に負けていたかもしれない

「わーお!先に落とされるなんて思わなかったよー!」

「……」

でも、ラナーの余裕は崩れない。オンバーンを戻して次のボールに手を取る。飄々とした表情に変化は無い

「じゃ、次行こうか!Go、ハクリュー!」

ラナーが2番手に繰り出したポケモンはハクリュー。雨の降る夜の空へ咆哮を上げて闘志をあらわにした

「じゃ、手っ取り早く退場しよっか!『りゅうのはどう』!」

ハクリューが咆哮を上げる。首元の水晶が輝き波動が放たれる。如何に耐久力に優れるとは言え、既に瀕死に近いヌメルゴンを斃すには十分すぎる攻撃であった

消えいるような声と共に斃れ伏すヌメルゴン。その奮闘を見届けたムスカリは静かにボールへと戻す。状況はこれで同じ。四天王を相手に、ここまで戦えている

やはり、負けてはいない

「さーて、これでイーブンだ。どうするムスカリくん?」

「此処からが本番だ……舐めるなよ。キングドラ!」

ムスカリが繰り出した2番手はキングドラ。雨の中を水を得た魚のように滑走している

「押し切れ!「ぼうふう」!」

「迎え撃ちな「たつまき」!」

攻撃の指示は同時。だが、繰り出された攻撃はキングドラの方が明確に疾かった

「!」

「雨の下なら、キングドラの独壇場だ」

キングドラの特性「すいすい」は雨の下でならその素早さを格段に引き上げる。ハクリューとの撃ち合いに速さで勝つのもある意味では当然であった

技の繰り出して負けたハクリューは、竜巻の様に繰り出される暴風をまともに受ける事になる。吹き飛ばされ宙を舞うハクリュー。流石に想定外だったのか、一瞬表情が変わるラナー。しかし直ぐにいつもの調子に戻りニヤりと笑みを浮かべる

「この程度でやられる程やわじゃないよ!ハクリュー!」

ラナーの声に、ハクリューは暴風で吹き飛ばされながら、長い身体を渦巻くように回転させる。首の水晶が輝き、暴風のエネルギーを取り込んでハクリューの体を中心に風の渦が形作られ竜巻となって繰り出される

放たれた竜巻は素早さを上げているキングドラの逃げ場を封じるように呑み込む

渦巻く風の中心に巻き込まれ洗濯機のように掻き回されるキングドラ。たつまきはドラゴンタイプの技。キングドラには効果抜群であり、大ダメージは避けられない

「キングドラ!」

ムスカリが声を上げる。竜巻が収まり、残ったキングドラもかなりのダメージを受けている。流石は四天王が鍛え上げたポケモン。恐らくもう一撃受ければキングドラは倒れるだろう。もう後はない

しかしそれは相手も同じだろう。『ぼうふう』はひこうタイプの技。ドラゴンタイプのハクリューには通常通りの効果しか見込めないが、基本的な威力は『たつまき』よりも大きい

そんな、お互いに技の直撃を貰った事で大きなダメージを受けている状態だ。次の一撃を先に当てた方が勝ちになるだろう

勝負は、クイックドロウに持ち込まれた

「やるねぇ、あの頃のムスカリクンがよく成長したね!お姉ちゃん感激だな〜」

「年は対して変わらないんじゃないかなあ?」

早撃ち勝負なら、雨の下ですばやさが上がっているキングドラに分がある。この勝負は貰ったーーー

「ーーーなんて、考えてる?」

「さあて、どうかな?」

ラナーの言葉は的を射ている。だが、それを理解した所で早撃ち勝負ではこっちに分があるのは変わらない。下手に時間を稼がせて雨が止む前に蹴りをつける

右手を前に突き出し、指をパチンと鳴らす

「どちらにせよ、これで終わりだ!ーーー」

キングドラへ指示を飛ばそうとする直前、ラナーの口元が吊り上がる

「早撃ち勝負ーーーそんな相手に有利な勝負するわけ無いじゃん!」

頭上に手を掲げて、皮肉げに、得意げに指をパチンと鳴らす

「ここまで戦ったご褒美だよ!『りゅうせいぐん』!!」

ハクリューが雨雲を睨むように天を見上げて咆哮を上げる。ハクリューの水晶がこれまで以上に強く輝き、雨雲に雷とは違うエネルギーが迸る

そして、雨雲を引き裂くような轟音と共に降り注がれるは流星群。炎を纏ったエネルギーの塊が多数墜ていく

「ッーーー薙ぎ払え、『りゅうのはどう』!」

早撃ち勝負の土台を根底から崩すかの様な大規模攻撃を前に、一瞬呆気に取られたが、即座に意識を切り替える。だが、その一瞬の遅れは既に先手を取る機会を奪う。だが、切り替えて直ぐに降りかかる流星の雨の迎撃を指示する

キングドラが撃ち出した波動が落ちてくる流星を撃ち落としていく。だが、あまりにも数と威力が違いすぎる

波動に貫かれて砕け散るエネルギーが雨の様にキングドラを突き刺す

それでも直撃を受けるよりは遥かにダメージは抑えられる

さかし、それにもダメージが重くのし掛かり瀕死がが近いキングドラには厳しいダメージになる

流星群が降り注ぎ、地面に爆煙が立ちこめる。それでもキングドラの攻撃によって、直撃コースにあった流星は全て撃ち落としたが、四散したエネルギーの雨がキングドラに突き刺さっていった結末はーーー

「フフン、流石に耐えきれないでしょ」

土煙が晴れたその奥には口元にエネルギーを集中させながら、目を回すキングドラがいた

既に瀕死になりながらも闘志を激らせるキングドラの姿。そしてーーー

「うっわー、マジかー……」

倒れ込んで明後日の方向に波動を放つキングドラ。ハクリューの放った流星群を喰らって尚、『りゅうのはどう』を撃ち放った事には流石に驚きを隠せないラナー。もし倒れるのが1秒遅かったらハクリューに確実に命中していた

結果はラナーの勝ちだが、思った以上に薄氷の勝利であった。あの時の少年が、想像以上に強く成長していた事実に、思わず口元が綻びそうになる

「……俺の負けか」

ムスカリはボールに瀕死のキングドラを戻す。一見冷静そうにも見えるが、ボールを持っていない左手は強く拳を握りしめている

「いやー、さっすがハクリュー!最高に映える一発だったねー!」

「流石、四天王なだけはあるね」

『りゅうせいぐん』ドラゴンタイプ最強と言われる伝説の技。習得は非常に困難とされ、ムスカリ自身も使い熟すポケモンはまだ居なかった

「でもま、キミも中々奮闘したじゃん?でもーーー」

そんな大技を繰り出して見せ、何処か上機嫌なラナーは軽い足取りでムスカリの側に近寄りる

「キミならもっと、上を目指せるよね?迷ったままじゃ何処にも行けなくなるよ?」

そう一言だけ言い残すと、軽やかな足取りで何処かに行ってしまった

「……アンタに言われるまでも無いね」

迷ったまま、か

そんなものは振り切ったつもりだが、彼女の眼には何が見えたのだろうか

里の方へ振り返る。聳える山脈の向こうには、生まれ育った故郷がある。寂れ、廃れていく運命にある里が

それを救う為に開発は必要な物だ。それは揺るがない。……何を迷うことがある


……墓参りは、暫く出来そうに無いかな

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