ポケットモンスター DRG(ドラゴニックジェネレーション)第n話「ハクモVSラナー!げっかのドラゴンたいけつ!」

ポケットモンスター DRG(ドラゴニックジェネレーション)第n話「ハクモVSラナー!げっかのドラゴンたいけつ!」



「ラナー!」

とある月の晩。群青のツインテールを揺らしながら、ハクモはその名を呼んだ。


「おいおい、いきなり出てきて呼び捨てとはひどいね少女よ。そんなにお姉さんに会いたかったのかい?」


空色のメッシュを靡かせ振り向いた女性は、冗談めかした受け答えで応じる。

現在、ハクモの住むドラゴンつかいの里は外部の都市開発計画によって住民の立ち退き勧告がされており、ハクモは当計画へ抗議するため工事現場に足を運んでいた。

しかしそこで目にしたのは、ポケモンリーグ四天王であり同郷の出身でもあるラナー。良く分からない性格で、常にどこかを放浪しているはずの彼女とこんな所で出会い、しかも明らかに現場の指揮を執るような様子を見せていれば驚き駆け寄るのも無理はないだろう。


「...あなたがどうしてここにいるんですか」


里を愛し、守ることを常に考えてきたハクモにとって都市開発側の人間はすべて憎むべき敵のようなもの。その中に、顔見知りかつ有数のドラゴンつかいでもある彼女が混ざっているとは考えられなかった。


「そりゃ仕事だよ仕事。こんなデカい工事にリーグが関わってない訳がなくね?」

「そうではなく...この計画は里を潰そうとしているんですよ?あなたの生まれ育った地が失われることに、あなたは何も感じないんですか?」

「おいおい勘違いしないでくれよ、私は別にこの里が嫌いな訳じゃあない。ただ、同時に未練もないのさ。それに、生活が便利になるなら良いことなんじゃないのか?」

「...」


家族とのいざこざがあって彼女が家を出たことは知っている。それにしても、ここまで故郷に対して冷淡だとは思っていなかった。ハクモは沸々と湧き上がる感情を抑えながら、さらに理由を並べて話を進めようとする。


「でも、工事によってドラゴンポケモンの住処が奪われる可能性もあります!それに、今まで守ってきた里が急に変わるなんて──────」


と、言いかけたところでラナーは顔を顰めた。


「あーあ、これだから頭の凝り固まったお嬢ちゃんは...何にせよ、少なくとも今はまだこっちにいなきゃなんねーんだ。どうしてもって言うんなら、実力で黙らせてみるか?」


熱弁するハクモを跳ね除けて、彼女はボールを構えた。

突然のことに一瞬怯む。何せ相手はリーグ四天王を任される実力の持ち主。


だがそれでも、今のハクモにこのまま帰る選択肢は無かった。


「潔いな!時間あんま無いから1対1だぞ!GO、ハクリュー!」

「構いません!お願い、オノンド!」


両者ともにポケモンを繰り出し、一対の竜が対峙する。あのハクリューはおそらく里で修行を受けたかなりの強者。一分たりとも油断はできないだろう。

僅かな睨み合いの後、先に動いたのはハクモだった。


「オノンド、シザークロス!」


ハクモのオノンドは接近戦闘を得意としている。両のキバに力を溜め、勢いよく地面を蹴った。


「迎撃しな。ハクリュー、りゅうのはどう!」


対するハクリューは冷静な佇まいから咆哮を放つ。ドラゴンエネルギーが雨のように降り注ぐが、オノンドは持ち前のスピードでこれを回避。一気に至近距離まで近づくと、溜めたキバで強く斬りかかった。

威力は相当のもの、直撃を受けたハクリューも思わず姿勢を崩した。


「おおー、中々やるじゃん?修行がんばってるだけあるねェ」

「逃がしません、オノンド、ドラゴンクロー!」


インファイトの姿勢に移ったオノンドは、エネルギーを凝縮した爪で連続攻撃を繰り出す。


「さすがに2撃目は喰らってあげないぜ?」


しかし、ハクリューは即座に体勢を立て直し、しなやかな動きで丁寧に攻撃を避けていく。それでも懸命に爪を振るうオノンドだったが、見えた一瞬の隙をラナーは見逃さなかった。


「そこだ。ハクリュー、まきつけ!」


大振りの一撃を避けた刹那、ハクリューは尻尾をオノンドの身体に巻きつけ、そのまま縛り上げた。必死に抵抗するも、細い身体からは考えられないパワーで拘束されており抜けだすことができない。


「おいおい、焦ってるのかもしれないがちょっと直線的すぎるぜ?もうちょっとお姉さんみたいな落ち着きをだな──────」

「...いえ、いいんです。ほぼ密接してないとこの技が当たりませんから」


ラナーの挑発を遮るように、ハクモは言った。

バトルゾーンに視線を戻すと、絞められたオノンドの身体にはドラゴンエネルギーが満ちていた。拘束の間、ハクリューが手を出せなかった間に溜めていたそれは、まるで怒れる竜の如く熱を放っている。


「終わりです。オノンド、げきりん!!」


怒号とともに、オノンドはキバを振りかぶる。怒りに身を任せた全力の一撃。その威力ゆえに命中が定まらない技だが、密着している今なら当たらない道理はない。


「...あらら、油断してたのはこっちだったか。いやーこりゃ一本取られちゃったな」





「なーんちゃって☆」

「四天王様はそんなに甘くないんだなー。ハクリュー、たつまき!」


そのキバがハクリューの身体に届かんとしたその時、ハクリューは遠心力をかけながら高速でオノンドを振りほどいた。まるで糸を振り放った独楽のように、オノンドの身体は回転しながら宙へ舞う。さらに、自身とハクリューのドラゴンエネルギーが文字通り竜巻となり、オノンドを襲った。


「なッ...!?」


一瞬で逆転する攻守。風圧をこらえながら、ハクモはただ驚愕することしかできなかった。


「頑張ったご褒美に大技を魅せてあげよう。りゅうせいぐん、発射!!」


再びハクリューの咆哮が響く。空高く撃ちだされたエネルギーは無数の竜へと分かたれ、次々とオノンドに牙を向く。

そうして止まらない光の雨は夜空を飾り、勝負の幕引きを告げたのだった。


「いやー、最高に映える一撃だったわ。さすが私のハクリュー様だね!」


少しの後、ラナーはいつもの彼女らしい口調で手持ちを称える。

対して、ハクモは黙ってオノンドを抱きかかえる。彼女を止められなかった悔しさ、自分の無力を嘆いていた。


「...少女よ、ひとつアドバイスだ。」

「ここで私に勝ってたとしても、多分あんた1人じゃ計画は止められない。ボスっぽい人も結構強そうだったしね。一旦アタマ冷やして温泉でも浸かってきたら?その後お友達を連れてまた挑みに来な。まあいるかどうか知らないけどさ」


ラナーはそれだけ言い残すと、どこかへ向けて歩き出してしまった。

俯いていた顔を少し上げるハクモ。涙で滲む視界に映った彼女の背中は、どこか楽しそうでもあり寂しそうでもある気がした。


...本当、良く分からない人だ。



~Fin~


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