ポケットの中の楽園
注意!
ポケモン不思議のダンジョン〜マグナゲートの迷宮〜についてのお話です。
オリジナル設定出来てきます。
主人公と相棒のポケ選は自機キャラからです。
最終章までのネタバレがあります。
あなたは、ポケットモンスターという、世にも不思議な生命体を知っているだろうか?
不思議な”わざ”を駆使して生活し、ときにはその力で人間の生活を支え、共存してきた。
これは、そんなポケモンだけが住まう世界に迷い込んだ人間の一幕。
わいわい、がやがや。
大小様々なポケモンの賑わう宿場町を、とある二匹のポケモンが急ぎ足で歩いていた。
片方は、黄色い体毛にりんご色の頬袋が特徴のピカチュウ。
「待ってよぉ、ピカチュウ」
そしてもう片方、背中に葉を茂らせた、親友であり相棒のジャノビー、もといジャローダ。
前まではほとんど同じ目線だったのにな、と思いつつ彼を見上げる。
最近進化したばかりの彼は、まだ視界や身体の変化に慣れていないらしく、移動やわざの繰り出しに手間取ることが度々あるのだ。
自分のいない間に色々あったらしい。その間、ジャローダには色々なことがあったようで、性格そのものはあまり変わっていなくとも、行動の節々に成長を感じられるようになった。
例えば、バトルの際に攻撃わざだけでなく、変化わざを積極的に使ったり、かばんの中身をこまめに確認する癖がついたりなど、ひとつひとつは大きくないものの、合わさってみると凄まじい変化になっていた。
対して、自分は大氷河の冒険以来、かなりのブランクがあるため少し、いや結構、ついていけるか危ういためヒヤヒヤしている。というか、そもそもピカチュウは元の体が弱かったことも相まって、冒険にはあまり向いていない。
ポケモンになってから不調はほぼないから本人はあまり気にしていないが。
「はぁい。足元気をつけてね、ジャノビー、…じゃなかった、ジャローダ。」
ともかく、慣れていないのは何も向こうだけではないということだ。
新しい呼び方やわざを繰り出すときの連携など、お互い模索しつつ、日常にダンジョンにと性を出しているのである。
「それにしてもさ、相変わらず賑やかだよねぇ、ここ。」
ようやく追いついたジャローダに対してのんびりとした口調で問いかける。正義感や常識はあるが究極のマイペース。それがピカチュウだった。
「はー、はー…、うん、ここはいつも楽しいところだよね!」
まだ少し荒れている息を整えながらジャローダが答えた。
多少会っていない期間があれどさすがは相棒といったところか、扱いに手馴れている。
サザンドラ達に会うためにも急いで来てしまったが、まだだいぶ待ち合わせの時間には早そうで。昼あたりに食事処スワンナハウス集合のはずが、まだ時間にしておよそ11時頃。時間まであと1時間ほど待たなければならない。
冒険やパラダイスに行くには時間が足りないが、そのまま待つには暇すぎるため、二匹で宿場町を散策することにしたのであった。
旅芸人に修行ポケモン、金塊好きのデスカーンさん、ギフトショップのチラチーノさん。
変わらないなぁ、と懐かしみながら歩いて、ふっ、と考えが頭をよぎった。
宿場町の騒がしさに慣れたのはいつだっ
たか。
ひとつ出てくれば、後はもう簡単に、次々と疑問が出てくる。
【カクレオン商店】 【ハコわりや】
様々なポケモンの足型文字に違和感すら抱かなくなったのはいつだったか。
__自覚が人間でなく、ポケモンになったのは、いつだったか?
初めはたしかに人間で。
何故かポケモンになって。ポケモンの言葉がわかることに驚いて。ツタージャと出会って。冒険して。
それで、…それで?
ぐるり、ぐらり。思考がちっとも纏まらない。思考どころか存在そのものがあやふやになるような感覚。
お母さんの好きだった、ミルク入りコーヒーみたいに頭がぐるぐるしてくる。あれ、コーヒーが好きなのはお父さんだったっけ、それともお姉ちゃん?
人間年齢に換算して約十二歳。そんな、ちいさな子供が一人で抱えるには、あまりに悩みは膨大で。
破裂しそうな頭をどうにか抑えてはいたが、とうとう町外れの地べたに座り込んでしまった。
心配そうなジャローダがすぐに立ち止まってベンチに座らせてくれた。
横になるかと問われたものの、断りを入れた。眠ったら、それこそ底なし沼に沈んでしまう気がしたから。
それよりも今はただ、彼と話したかった。
そして、大丈夫だよって、自分を肯定してほしかった。
「…ねえ、ジャローダ、…ちょっといい?」
「!…なぁに、ピカチュウ。というか、休んでなくて大丈夫なの?」
やっぱり、ジャローダは優しい。
ツタージャの頃から、怖かっただろうに私を引っ張ってくれて、時には相談に乗ってくれて。たまにバカやって、私にいつだって元気をくれた。
だから、こんなぐちゃぐちゃの悩みでも、彼になら言える気がした。
「私って、なんだろう」
あまりに抽象的な問い。しかし、今の自分には、これがぴったりにの言葉に他ならなかった。
あっけにとられたように一瞬固まったのち、くすっとジャローダが笑い出した。何がおかしいのかと反論しようかと思ったその時、ジャローダが口を開いた。
「それで最近悩んでたんだ。ふふっ、あのね、ピカチュウ。きみは優しい僕の相棒で、友達で、とびっきり素敵なポケモンだよ!」
すとん、と心に落ちてきた。パズルのピースがピタリとハマるような感覚。
キラキラ輝く無邪気な笑顔。そうだ。いつだってこの笑顔が道標だった。
なんだ、答えはここにあった。いや、元からここにあったじゃないか!
そしたら、途端に悩みが小さいものに思えてきて、思わず私も笑ってしまった。
お互い一通り笑い合って、小さくなった悩みもすっかりいなくなってしまった時。なにか忘れている気がする、と目線を交わす。
そして思い出した。思い出してしまった。時間はすでに12時過ぎ。ここは町外れのベンチで、スワンナハウスには距離がある。
「「サザンドラ達との約束!」」
まずいまずいとどちらからともなく走り出す。急ぎつつもどこか楽しそうに笑いながら、明るい日差しのもと、二匹のポケモンが駆けていくのであった。
ハピエンで終わらせたい人はここでブラウザバックしてください。
ここからさきは本当にただの癖で追加したものです。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーーーーーー
小児病院の一室。とある患者の心電図が、無慈悲な音を立て、ジグザグの表示から一転。一直線の横線のみとなった。
それはまるで、人間としての生のゴールテープのように、まっすぐ、まっすぐ、どこまでも続いていく。
横たわった少女は、ひどく幸せそうに微笑んだまま息を引き取っていた。