ボツ落書きの供養な怪文書

ボツ落書きの供養な怪文書



※まず「描けねえ!!うまくイケオジたちが描けねえ!!」からの「じゃあまた怪文書をかkシアノ校長の口調があまりにもわからねえ!!」で挫折したものたちの供養の墓場。

※ルギスグリくん暴走を止めるテラキネリネちゃんとそのサポートしたイサハシアノ校長って感じの話。

※ネームドキャラがネームドキャラを傷つける描写あるので注意。



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 ──アオイのスマホロトムが助けを求めるように勝手に”ヘルプコール”を鳴らしたものだから。ブルーベリー学園とグレープアカデミーの交流関係についての会議中に鳴り響いたその普段の着信音とは異なる警報に、各々が持つポケモンとしての本来の姿をフルに活用してパルデア地方からイッシュ地方の海底に位置するブルーベリー学園へと、真っ先に飛び出すように会議室を出るのも当然のことで。

 ”ヘルプコール”というシステムは、アオイ本人や彼女の手持ちポケモンたち、それから共に旅するミライドンや、「ハルト」と名乗る少年として気付けばグレープアカデミーの学生として紛れ込んでいた幻のポケモンであるマーシャドーにさえもどうしようもない緊急事態の発生が起きた時だけに鳴るようにと特別に設定されたものだ。それが鳴るだなんて、勝手にパルデアの大穴の奥底にあるゼロラボへ向かい未来から来たパラドックスポケモンたちや、フトゥーAIがシステムに支配され戦闘になった時でさえ。更には交換留学期間中にブライアのエリアゼロ調査に同行した際ですら鳴らなかったというのに。マーシャドーであるハルトに名前を与え学生として生きるのを許したのはオモダカとクラベルで、シアノもそのことは知らされているものだから、余計に焦燥感は増す。

 錆びついた思考回路プログラムを久々に動かし、駆動させる。自分はポケモンではあるが、単純なポケモンでは無いと。イッシュ地方にて「聖剣士」と呼ばれる、人間たちが起こした戦火により森が焼かれた際、ポケモンたちを助け人間たちを見限った存在たちを模倣し造られた機械仕掛けの獣の姿を露わにしても、今は緊急事態だからかクラベルもオモダカも何も言わなかった。”サイドチェンジ”を応用利用し、海の上をエスパーパワーをフルに使い駆け抜けていく。その先に見えたエントランスロビーの光景に、プログラムの演算能力は今のブルーベリー学園にて起こっている危機を即座に計算しその結果を叩き出す。

「……大丈夫じゃないね、何が起きたのか教えてくれる?」

「では、私が代表して説明を」

 キャニオンエリアを纏め上げる四天王の一角であるネリネは、いつものように冷静ながらもどこか焦燥感を感じさせる声音で説明をしてくれた。テラリウムドームにて暮らしている筈の野生ポケモンたちを抱え、自分たちも掠り傷やらなんやらをこさえながらテラリウムドームから避難してくるように階段を駆け上がってくる生徒たち。ネリネ以外の三人の四天王が、黒系統の服を着込んだいかにもといった風貌の六人の大の大人たちを切り札枠たるポケモンたちと共に取り囲んでいる様子から、説明を流し聞きながらもシアノは、演算結果は正解だったかと、自身のもはや信頼出来ない古びたシステムが正解を導き出したことに安堵する。ポケモンハンターが、希少なポケモンを狙って侵入したのだと。人間やポケモンは数の少ないものに価値観を見出すものだからと、セキュリティ面はガチガチに設計するように指示してそこにも金を消費した筈なのだが。

 曰く、見慣れぬ銃のようなものを持ち出してきたのだと。この六人だけのポケモンハンターたちがなんとか造り出したのだというそれは、ポケモンの技を保管することが出来る使い捨てのコピーペーストが可能な代物で。捕縛された隙を見計らった内の一人が、アオイが防衛の為にと繰り出していた内の一匹であるモモワロウの”じゃどくのくさり”をコピーしていたものを彼女目掛け撃ち、ミライドンすらも対応出来ない中で。それに対応したモノが居た、と。

 ……人間ではない威圧感を感じることがあるとはたまに思っていたが。この耳が聞き取るテラリウムドームからの激しい雨音は、もはや嵐と呼んでもいいほどだ。けれどこれ程の大規模な気流や空気の乱れの渦を発生させることが出来るのは、イッシュ地方の風と冬を司るトルネロスや雷と夏を司るボルトロスが引き起こすものではないだろう。あの二体ならば、もっと雷鳴轟く音も聞こえている筈だ。雨に纏わる神話ならば、ホウエン地方にて海を生み出した海の化身たるカイオーガも思い浮かぶが、それならば既にこのエントランスロビーごと全てが海へ沈んでいる筈だ。

 同じエスパータイプだからこそ感じる。吹き荒れているこれは、エスパーパワーを纏った風だ。それならば、この現象を引き起こしている存在は、恐らく。



「……うーん、参ったねー」

 くさとエスパーの複合タイプである己では、相性が悪い。けれどもそんなことは言ってられないか。今はブライアを始めとした教師たちや彼の姉であるゼイユがまだテラリウムドームに残っているのだと聞き、クラベルとオモダカに生徒たちのことをお願いするなり、ネリネと共にドーム内部へ駆け出した。


『一般的な生き物たちは、大人が子供を見守り時には問題解決に手を貸すんだろ』


 嫌な予感は的中していた。ジョウト地方にて海の神と言い伝えられてきた『嵐の化身』はテレパシーを用いてブルーベリー学園の教師たちへと静かに問い掛けていた。銀色の翼の片方はダラリと毒々しい深い傷跡が見えているがそれでも超能力を纏った風で上昇浮遊し、テラリウムドーム内部、遥か上層部に輝くテラリウムコアの傍まで高く浮上して。無事な片翼には気絶している少女を大事に傷付けぬように抱えている。

『何故こんなにも小さく脆い子供たちを、矢先に立たせた』

 先程までブルーベリー学園内部は、ポケモンハンター達の襲撃に遭っていた。なんとかそれを四天王たちや、まだ交換留学期間は残っている為にパルデアのアカデミーとこちらの学園を行ったり来たりする生活をしているアオイとハルト、それからブルベリーグ四天王や部員たちなどのトレーナーとしての実力が高い生徒たちが矢先となって奮闘したもので。なんとかポケモンハンター達は全員捕らえ、ジュンサーさんの到着を待つのみとなった段階で。

 手持ちポケモンたちも全員が疲弊したアオイ目掛け放たれた、ポケモンの技を模倣出来る使い捨てのレーザー銃で再現された毒々しい鎖の弾丸にその銀色の翼を撃ち抜かれながらも庇ったのは。短期間の間だけとはいえど一度この学園の玉座に座したことがある程の才能の持ち主である少年だった。


 ──そして今、テラリウムドーム内部にて、その少年は人間としての姿を解き、『海の神』としての本性を剥き出しにしている。


『もとよりこの姿を秘匿する必要性など感じていなかったが、人間の価値観で考えればこの姿は不要な混乱を招くからな。でも今こうして、俺は姿を表した。その意味は考えれば理解出来るだろう。以前から思っていた……──この学園はあまりにも、大人が、子供が頼るべき存在が、頼りにならない』

『「生徒たちの自主性を重んじる?」とは、なんともまあ綺麗に繕った言葉だな。そんなことを言う前に、俺を徹底的に殴るなり無理矢理退部させるなりすればリーグ部を取り巻く問題は解決していただろう。”おれ”という暴君を引き離すなりすれば、もっと子供たちの心は安らかだった筈だ』

『……貴様らがこの学園の生徒たちを、研究心のままに使い潰す”道具”として見做しているのならば。もういっそのこと『私』にとって大切なものたちを全員、暴風雨の中の檻に閉じ込め護ってしまおうか。一切外敵を寄せ付けない、安全な環境を与え、踏み入ってくるモノには、その身を切り刻む暴風の渦を与えようか』

『──『私』には、ホウオウのような、霊界から再び命をこの世へと手繰り寄せる蘇生の力は無いのだから!!』

 その咆哮と共に、教員たちが風圧で次々と倒れ込んでいく。ちらりと一瞥されたブライアに至っては”じんつうりき”か何かでも使われたのか、慌ててゼイユが庇ったもののぐったりと倒れ込み彼女に抱えられた状態となっている。

「うーん、そう言われちゃうと僕としては何とも言えないね。この緊急事態に会議の為にパルデアに出向いてたのは事実だし。セキュリティシステムにもお金かかったからって、それに頼って信頼しきってた部分はある」

「……シアノ校長」

「わかってるよネリネちゃん。……今のスグリくんは”どく”と”こんらん”状態に陥っている。本当に、人間っていうのは厄介な技術を持つよねー」

 まあ、その技術の発展と衰退を繰り返した先。今ここに立ち見える世界よりも遥か先の『未来』の人間たちの技術力のお陰で、自分という『存在』も生まれたのだけれど。そう内心で続けながら、シアノはプレミアボールに入った手持ちたちを宥めるように白い光沢を片手で撫でた。

 カイオーガが雨を降らせ海を創り出す始まりの海、根源の波動を齎す『産み神』ならば。ルギアは一度羽ばたいただけで四十日間もの間嵐を起こし、逆に荒れ狂う海を鎮めることも出来る、海の調停者たる『海の神』だ。ホウオウのように三聖獣たちやマーシャドーといった防衛機構を持つこともなく、独り海底にて海の乱れを治めている。

「……ねえ、イッシュ地方の神話に語り継がれてきた『伝説の存在』である、真実を求めし白炎の竜である「レシラム」と、理想を求めし黒雷の竜である「ゼクロム」が関わった戦争に、君は”関わった子”?」

「否定。ネリネは「テラキオン」としてはまだまだ未熟であり、戦火やそれを引き起こした人間たちへと感じた”聖剣士”たちの失望も未だ理解出来ていません。……──ですが、頼まれていたことがあります」


 それはいつかの日。アオイによってチャンピオンの座から降り、暫し休学した後に自身が迷惑をかけたと部員たちやもう退部してしまった生徒も探し出して謝罪して回った子供が、その小さな身体に収めるには難しい本性にネリネが気付いた時だった。

──「……ん、どうし……ああ、気付いた? ……俺、結構隠れんぼさするの得意みたいで。そんなに隠そうって意識は無いんだけど気付く人やポケモンっこは少ねんだ」

 どこか寂しげに微笑む顔に、胸が痛くなったのを覚えている。

──「ネリネがどんなポケモンなのかは興味ねえけど……。少なくとも四天王の皆の中で、一番最初に”俺”のことに気付いたのはあなただから。駄目元で、お願いしても、いいかな」

──「……もちろん。ですが、姉であるゼイユや、親友であるアオイたちには言わないのですか?」

──「ねーちゃんやアオイたちには流石に迷惑かけ過ぎてっから、これ以上はアルセウス様に怒られるべ。ハルトにもホウオウの命令だからって色々苦労さかけてるし……。それに、ネリネたちにだって迷惑かけたし……全然、聞かなかったことにしてくれて構わないお願いだけど」

 人間やポケモンたちを尊び、自身も等身大の子供らしさで時には理想に焦がれ盲目に強さを求め続けて暴君と化した時には。まだ「人間同士で解決出来る段階だ」と判断していたから、ネリネは本来の姿で動きはしなかった。あくまでもポケモンバトルの腕前で、彼を救いたいという想いを抱えていた。


──「もしも俺が、理性や自我を無くしたら。単なる破壊衝動に支配された、対話も不可能な嵐のバケモノになっちまったら。……そしたら、誰かを傷付けちまう前に、俺のこと、殺してほしい」


 そんなこと誰にも出来やしないとわかり切っているけれども。それでも。「ルギア」という存在とて、伝説とはいえどスグリだけという訳では無い。それに人間として生き始めてから、そのルギアは『海の神』としての、調停者としての役割を放棄している。だから、己は損なわれても構わない存在なのだと。そう痛々しい声音で告げる、寂しがりやな子供にしか見えない存在が、今ああして暴れ狂っている『海の神』と同一個体だとはネリネには思えないけれど。


「……他者を傷付けたことに、正気に戻ったスグリは苦しむでしょう。以前のように……。故に、死者が出る前に。ネリネが今度こそ、未熟ながらもこれでも”聖剣士”の卵として、岩の聖なる試練の剣を以て、風を割き。そして……今度こそ、彼を救いたい。かつて、彼のことを救ってくれたアオイも、共に」


 そう言って、人の姿を解いていく様に。眩しいものを見たと、シアノもまた、エントランスロビーでは混乱を招くからと到着間際に咄嗟にまた人の姿にホログラムのように書き換えた自身の姿を、本来のものへ戻す。


「良いねえ。そういった感情、意志による力は『僕ら』には無いものだ。……だからこそ、眺めていて楽しい、という言葉が当て嵌まるのかなー?」


 人に名付けられた種族名は、テツノイサハ。戦火に戸惑うポケモンたちを救い、人間を見限りポケモンたちの棲み家を守る為に争ったと語られる”聖剣士”の内の一角、草の聖なる思索の剣を持つとされるポケモン「ビリジオン」を模倣して造られた身体が、超能力で補助されながらも軋んだ音を立て、稼働する。

『……その姿は、ビリジオンに似ていますが……』

『今はそういうのは後々。行くんでしょ? 空の道は、なんとか僕が造るから』

 そう告げながら、”サイコブレイド”を攻撃の為ではなく、足場となるように放つ。

『助力に、感謝を』

『”さきおくり”の支援も今ならつけちゃうよー。さて、『僕』に見せてほしいな。『僕ら』の模倣元となった、物理の剣を持つ”聖剣士”の姿を』

 完全に理性を失っているのか、テラキオンとしての姿を露わにしたネリネと、テツノイサハとしての姿を露わにしたシアノを外敵と認識したのか。こちら目掛けてフルパワーで放たれようとしていた”エアロブラスト”が、”さきおくり”に妨害され一瞬だけ止まる。それでも、その隙で、ダンッと力強く地を蹴り”サイコブレイド”の足場を駆け上がっていく本当の”聖剣士”の後ろ姿は、機械で構成されたモニターで見るには、酷く眩しい。


『どうか、正気に戻って。──”うちおとす”を、行使します』

 今自身が覚えている最大火力のいわタイプの技は、”ストーンエッジ”だけれど。ここまで跳んで来たのは、殺す為では無いから。”うちおとす”によって、銀の竜が落ちる。この高度から落下してしまえば、ということをきちんと計算していた。例え瀕死になろうとも、二人の下敷きにでもなれればと。落下する浮遊感の中で、”でんこうせっか”を使い二人の下へ先回りするよりも早く。気絶したルギアのものでは無い、エスパーの力が自分たちの身を包む。

『……”サイドチェンジ”。機械仕掛けのこの身体だからこそ、出来ることもあるってねー』

 地面に立っていた自分と二体と一人の位置の交換。密かに張り巡らせていた”エレキフィールド”によって特性”クォークチャージ”を発動させたからこそ、出来た荒業。けれどもやはり、代償というものはつきもので。テラリウムコアの上にとんっと軽やかに立ったシアノはテツノイサハとしての姿のまま、ふと首を傾げた。

『えっと……なんだっけ。……ああ、そうそう! 教えてくれてありがとうゼブライカ』

 まあ、こうして忘却してしまったとて。この記録媒体が破損していても、その都度教えてくれるポケモンたちが共に居てくれるのだから。目を細め、大分暴風雨によって荒れてしまいはしたが、いずれまた元通りに戻っていくだろうと、愛するテラリウムドームを見下ろした。


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