ボツネタ三本
ままならない三度目の人生を
それは確かに油断だった。
階段から転げ落ちた俺は気づけば『ロジャー海賊団見習いのバギー』に成っていた。少々ワンピースを嗜んでいたりもしたから「あ、知ってる!!なんか、あの、バラバラになる奴!!!」なんてネームドキャラになった事をちょっと喜んで、だから安心してしまっていたんだ。
俺(バギー)は死なないって。
「バギー!!!」
シャンクスが叫ぶ。
アァ、うっせぇなハデ馬鹿が。
そう言ってやりたいのに俺の体は上手く動かなかった。シャンクスを貫くはずだった銃弾は咄嗟に庇った俺を貫通し、どこかへ飛んで行っただろう。
ヒゥ、ヒュー、と息もろくに吸えない身体はもう無理だと自分でも解った。
熱い、痛い、苦しい、怖い。
前世では即死だったからか恐怖を感じなかったが、今は違う。少しづつ死に近づいているのが解ってしまう。
怖い、死ぬのは怖い。死なないなんて思っていたから余計にだ。
でも
「バギー、バギー、死ぬなよ、なぁ……バギー!!!」
シャンクスが俺の身体を抱きしめて泣いている。
ぼろぼろ溢れている涙は、シャンクスが俺の肩に顔を埋めるせいで服が濡れ、冷たい。
気づけば戦いは終わっていた。
ロジャー船長もレイリーさんも、ギャバンさんやクロッカスさん、みんなみんな泣きそうな顔をしていた。
涙は出てないけど、分かる。大人は簡単に泣けなくなるから、なんとなく。
感覚が段々と無くなってきた。さっきまでの熱さも痛みも、もう感じない。
「ばぎー、ばぎぃ……」
ああもう、そんなに泣くンじゃねぇよ
「……しゃ…………ぅ……す……」
こうして、俺の第二の人生は幕を閉じた。
…………はずだったのに、なあ、神様。
「バギー!はやくしろよー!…………ばぁぁぁぁぎぃぃぃぃ!!!!!」
「……っ派手にうるっせぇんだよ!!!!いま行くからちょっと待ってろアホルフィ!!!!!!」
ルフィの幼馴染になっちまうなんてどういうことなのか説明しやがれ!!!!!!
最高傑作の美
前世の時から美しいモノが好きだった。
美と称賛されるものは全部。
光を浴びて輝く希少な宝石も、繊細な彫刻が施された装飾品も、名の知れた刀鍛冶が造った名刀も、それぞれ違う美しさを愛していた。
俺はそれなりの金持ちだった事もあり集めては磨き、整え、最高に美しい状態で管理することが喜びだった。
そして生まれ変わった今、前の記憶を取り戻した俺の前にとびきりの美がある。
「どうしたんだ?バギー」
サラサラと細く靡くインペリアルレッドの髪に艶りと溶けるレッドスピネルの瞳、しなやかな筋肉、健康的で柔らかな肌、太陽のように人を照らす笑顔。
全て、頭のてっぺんから爪の先まで美しい。
この少年を、俺の見習い仲間であるシャンクスを俺は磨きあげ、美しく育てると誓った。
なのに
「あ゛あ゛あ゛シャンクスの顔に傷がついてる!!!!!!!!!!」
なんで自ら損なおうとするんだおめェは!?
「シャンクスゥゥゥ!!!!おま、お前お前お前お前お前お前ェェェェ!!!!!!!」
どうしたんだ?と惚けた顔をするシャンクスに駆け寄り、頬に出来た傷をみる。
少し腫れ、擦り切れた頬。救急箱を引っ張り出し、傷口に水をぶっかけ、洗い流してから消毒液を染み込ませた布で優しく叩く。
「いてっ、大丈夫だってバギー!こんなんほっとけばすぐ治る!!」
「跡が残ったらどうすんだ!!!おめェって奴は綺麗な顔してンだから傷をつくってくんじゃねえ!!!」
「レイリーさんに稽古つけてもらってたんだからしょうがねーだろ!!!」
「全部避けろバカ!!!」
「無茶言うなよ!!!」
「また喧嘩してるのか、お前らは」
シャンクスと喧嘩をしながら傷口にガーゼを貼っているとレイリーさんが呆れたような顔をして言った。
赤髪ガチ恋女は道化に勝ちたい
『シャンクスの夢女はバギーに勝てない』
そんな言葉を貴方は聞いたことがあるだろうか。
シャンクスの見習い仲間で、俺の船に乗って一緒に行こうと誘われ、二十数年ぶりに会っても気さくに話してもらえるバギー。
私達の欲しい位置にアイツはいる。
私は誰よりもシャンクスが好きだ。
シャンクスのことが好きで大好きで愛してる。
相手が漫画のキャラクターだとしても、それは本気の恋だった。
だから生まれ変わってロジャー海賊団クルー見習いなれた幸運に感謝した。
そして私は誓ったんだ。必ずシャンクスの恋人になってみせるって。
だから私は戦う。
全シャンクス夢女子の敵、バギー。
勝ちたい、勝ちたい勝ちたい勝ちたい。
私はバギーに勝ちたい。
「バァァァァァギィィィィィィィィィ!!!!!勝負よ!!!!!今日は絶ッ対に負かす!!!!」
シャンクスの恋人になるのは私なんだから!!!!!!
へろー、シャンクス夢女子の諸君。今日も元気にシャンクスを愛してるでしょうか?私は青く澄み渡る空の下、バギーをぶち倒してます。
「バギー!!!ちょっと!!マジメに!!やってよね!!!」
「おめェに傷でもつけたら派手にめんどくせぇんだよ!!!……ちんこ狙うんじゃねぇ!!カペラ!!!」
「急所狙うのは当たり前でしょーが!!!!」
レイリーさんに買ってもらった刀を振るい、飛んでくるナイフを弾く。
バギーが持っているナイフはいつも6本。
飛んできたのは5本だったから残ってるのはあと1本。その手にあるものだけ。