ホビウタ裁縫事情おまけ
「ん~~?」
マキノさんのお店でおやつをご馳走になっていたルフィが、クッキーを頬張りながら私を見つめて目を細めた。
「そんなにウタちゃんの事見てどうしたの?」
「なんかウタのお腹、少しへこんでねーか?」
「キィ?」
そう言われてみれば、と私は自分のお腹を触ってみた。人間の頃と比べ触感は鈍くなっているけど、なんとなく触っている感覚は分かる。押した時に抵抗が少ないというか、ちょっと固いというか……。
「もしかして……ウタ、お前痩せたのか?!」
「ギィギィッ!」
人形が太ったり痩せたりする訳無いでしょっ!
「ん~……、ウタちゃんが村に来てから大分経つし、そろそろ体の中に入ってる綿が萎んできちゃったのかしら」
「綿が?」「キィ?」
「最初はふわふわだった綿も、洗ったり時間が経つにつれて小さくなっちゃうのよ」
ほぼ同時のタイミングで首を傾げた私たちを見て笑みを浮かべながらマキノさんは教えてくれた。確かに、私が人形にされてから村に戻ってくる期間とか諸々含めると、それなりの時間が経っているかもしれない。
「このままじゃウタのお腹と背中がくっついちゃうぞ」
「そうね。ちょうど時間もあるし、ちょっと交換しちゃいましょうか。もしもの時を考えて、綿も準備して置いておいたの」
「キィ、キィ!」
流石マキノさん! 私は立ち上がり、マキノさんの目の前まで行こうとすると両手の掌で優しくストップを掛けられた。
「待ってウタちゃん。折角だから今日はルフィにお願いしましょ」
「キーッ?」
「おれ?」
「あれからお裁縫も大分上達したし、次は少し応用した作業も覚えましょう」
ルフィが裁縫を覚えると宣言してから数ヶ月、悪戦苦闘したものの最低限の技術は身に付いていた。最初の頃は正直どうなることかと思っていたけど、ルフィの根気強さとマキノさんの指導の上手さのおかげだろうか。
「--て感じで、私は黙って見てるから、ルフィの力でやってみて」
「おう、任せとけ!」
そんな事を考えながら、私はよしと意気込むルフィに体を預けた。
「…………よーしっ! 出来たぁ!」
--やる事もなく、カウンターの木目を見つめている間に終わったらしい。ルフィの自信満々な声に反応し、無意識に垂れ下がっていた後頭部の輪っかがぴょこっと上がる。
「キィ、キィ?」
「にししっ、どうだマキノ、ウタ! なかなかウメーもんだろ?」
「うんっ、ちゃんと隙間なく綴じる事が出来てるわねー…………ん……?」
「キ?」
満足げなルフィの声と対照的に、マキノさんはちょっと訝しげというか、何か気になるのか私の体をじっと見ている。
「……ウタちゃん、ちょっと立ってみてくれる?」
「キッ! …………ギッ?!」
マキノさんに言われるままに立ち上がり、自分の胴体部分を見下ろして一目で、マキノさんの言わんとしている事に気が付いた。まん丸とまではいかないが、元のシルエットよりぽっこりお腹が膨らんでいて、布がパンパンに張りつめている。
ちょっと、ルフィ!
「ギィギィッ!」
「あはは……、ちょっと綿が多かったんじゃないかしら」
「そーか? 少ねえより多い方が良いだろ!」
「ギーーッ!」
そういう問題じゃないでしょ!
私の抗議も空しく、「もう綴じてしまったから」という理由でしばらくこの状態で過ごす事になってしまった。
その後、海に出る前やナミに会うまでに何度かルフィが綿詰めを担当する機会があったが、その度に「少ないより多い方が良い」理論が適用され、お腹をパンパンに膨らまされ、乙女心を傷つけられるのだった。
「--だからつまりね、これもその名残なんだよ」
「いやいやアンタ……。人間に戻ってから、もう何週間経つと思ってんのよ。戻りたてはもっとスラッとしてたでしょ」
「おーっ! 見ろ、お腹つまめるぞ! 俺と似てんなウタ!」
「ひゃんっ!?」
「くぉら!! ノンデリカシー男! ……まぁ、久々の食事で嬉しそうだからって放置してたあたしらにも責任はあるけどね」
「サンジのメシうめェもんな~~にししっ」
「だから違うってばぁ~~~~ッ!!」