ホビウタ(文才ルフィif)
「十年間お待たせして!!!」
「申し訳ありませんっ!!!」
「今 助けに来ました!!!」
愛する妻を殺され、娘からも忘れられ苦しみ続けた10年間の怒りを込めた一撃が、王下七武海の一角、【天夜叉】ドフラミンゴの頸を一撃で切り落とした。
ホビホビの実、触れた者を玩具に変え、更に玩具にされた者はたとえ家族や親友にさえ忘れられてしまう。その呪いは今この瞬間解かれた。玩具としてドフラミンゴファミリーの奴隷となっていた者たちが開放され、その怒りが全て元凶であるドフラミンゴとその一党に向かっている。奴らを倒す千載一遇のチャンスだ。本来なら私もキュロスと共に戦い、同盟相手であるトラファルガー・ローを救わなければならないはずだった。
だが、この時の私は戦うどころか立ち上がることさえできなかった。
「ハッ、ハァ……」
隣にいた片足の兵隊が人間に戻り、ドフラミンゴへ斬り掛かっていく瞬間、私の頭に流れ込んだ、否、私が思い出した記憶。
『やーい、負け惜しみ〜!』
『へた!
なにこれ?』
『おれたちの“しんじだい”のマークにしよう!』
「なんで、おれ、忘れて…」
これは10年以上前、私がまだ‘彼’から麦わら帽子を託されるよりも昔、共に遊び、時に競い合った淡い記憶。
「あ、あぁぁ」
『ギィギィ、ギィィィ!』
かつて‘彼’からお土産として渡され、私が名前をつけ、人生で最も長く共に歩んだ‘仲間’。
思い出した、何てことはない。私もまた忘れていたのだ。この国の人々と同じように。
自分に父親はいないと言っていたレベッカのように。
誰よりも近くにいたのに、ずっと側にいてくれたのに、もう何も失わないために、強くなったはずなのに。
「忘れちゃいけなかったのに…、おれは」
ぬいぐるみの体で、それでも彼女は自分と共にいてくれたのだ。サボが死に、エースも一足先に船出して一人になってしまった私に、ずっと寄り添ってくれていた。
二年前、兄を救えず自暴自棄になっていた私の所へ、真っ先に駆けつけてくれた。
「ごめん、ごめんな……」
どれほど辛かったのだろう。彼女は‘彼’が、そして‘彼’の海賊団が大好きだった。父親である‘彼’から忘れられて、まるで物の様に扱われることがどれ程に悲しかったことか。
大好きな歌をずっと歌えず、眠ることも食べることも出来なかったことがどれ程に苦しかったのだろうか。
「ウタ…」
血が滲む程に拳を握り込む。私はこの12年間、取り返しのつかないことをしていたのだろう。謝っても、許して貰えないだろう。
それでも謝らなければ。そうでなければ私は、私は…。
だがまだ、今ここでやらなければならないことが残っている。この悲劇の元凶を、私の幼馴染を、私の大切な仲間を傷付けた男を倒さなければ、私は彼女に、謝りに行く資格さえ失くしてしまう。
「もうちょっとだけ待っててくれ。
あいつを、ドフラミンゴを!」
「ブッ飛ばす!!」