ホビウタと船長④ 赤髪海賊団の音楽家

ホビウタと船長④ 赤髪海賊団の音楽家



ここが……ドレスローザがウタの故郷だと思ってた、ウタはここで生まれて育って、ここにはウタの家族がいるんだって思ってた。

おれはこの能力の本当の恐さを分かっていなかったんだ、ウタはきっと……オモチャに変えられたあの瞬間に、痛いよりも辛い、独りになってしまっていたんだ。


――……しは、……海……の、…楽家



記憶があふれてくる、眼をつぶれば小さい頃のおれがいて、もう一人誰か女の子と一緒にいた。


誰か?違うおれはそいつを知っている。

胸がぎゅっと締め付けられてるかのように痛い、眼の奥が痛くて熱くて涙が溢れてくる、手がガタガタ震える、息が荒い、口の中は砂漠にいるみたいにカラカラで干からびそうだ。


アイツは……あの女の子はウタだ、人間の、ウタだ。

おれはアイツとはオモチャになってから初めて会ったんじゃないっ!おれはその前からっ、友達だったんだ!!


良く知っていたはずなのに、忘れていたウタとの……どんな時でも傍にいてくれて一緒だったウタじゃないウタとの思い出が湧き上がってくる。


****


――お前ら、海賊か?


フーシャ村にやってきた、髑髏を掲げた海賊船が港に来た。


――そうよ?何か文句でもあるの?


俺の問いに最初に答えたのは……


――だったら聞くよ船長シャンクスの娘のこの『ウタ』が!

――おれはシャンクス、この船の船長だ。


そうだ、シャンクスと『ウタ』だ。


――いいわ、あたしの歌を聞かせてあげる……

……この風は~、どこから~きた~のと~♪


――海賊の唄を教えてあげるわ!パンチ、モンスター!一緒にやるわよ!い~い?

……ビンクス~のさ~けを~♪


マキノの酒場で、シャンクスのレッドフォース号の近くで、フーシャ村が見える丘の上で、そしてフーシャ村自慢の風車小屋から見える海と村が一望できる場所で、ウタは色んな歌を歌っていた。



おれが海賊になってから宴の度にウタは音楽を奏でた、皆で言っていたウタの声を聴きたいって言葉を聞いておれはいつも思ってたウタの歌はすっげーんだぞ!って。

皆、歌じゃなくて音だろ?ってブルック以外は言うけど、違う『歌』なんだって……不思議に思ってた、そうだ聞いたことないはずだ、だからいつかウタの歌を聴きたいって言って……でも違った、おれは聴いていたことがあるはずだ、だっていつも聞かせてくれていたのに!!


――私の中にはいつだって最高のステージがあるの

――なかなか素敵ね

――もっとステキな景色も知ってるわ


ウタと一緒に見たフーシャ村の夕暮れの景色、当時のおれはこれ以上の景色を知らなかった。ウタは、シャンクスと一緒に航海をしてきたら色々な景色を知っていた。その冒険の話を聞くたびに、おれの知らない景色がある、おれの知らない町が、海が、島が、冒険がある。

早く、海に出たい、早く、強くなりたいと強く思ったのは、ウタがおれに冒険の話をしてくれたからだ。


――アタシの方が2歳もお姉さんなんだもんね~だ!

――あたしの勝ち~♪

――あんなのが居るなら先に言ってよね!

――こらルフィ、なにやってるの

――帰ってきたらどれだけ強くなったか見てあげるールフィ~!


覚えてる、思い出せる、ウタとの思い出。

フーシャ村の海を山を駆け回って遊んだことを、近海の主から逃げたことも山賊に絡まれて必死に逃げたことも、早食い対決に大声対決に身長対決なんてこともした。

シャンクスの船に忍び込もうとして、あっさりウタに見つかってしまった、船には乗れなかった。


ウタとシャンクスが海に出てからは寂しかった。

早く帰ってきて欲しかった。

朝は早く起きて、夕方日が沈むまで待った、冒険の話をしてくれる、そしておれと遊んでくれる友達を待っていたんだ。

そして……そうだ、おれはその時に忘れてしまったんだ、胸になにかぽっかり穴が開いてしまったような、理由は分からないけどなにか悲しい、嫌な思いをした日があったはずなんだ。



――私は赤髪海賊団の音楽家でシャンクスの娘


そうだ、おれが忘れてしまったのは。


ウタの家族は……シャンクス達だ、いつも言ってた大好きな家族。嬉しそうに、誇らしそうに言うその姿にいつも羨ましいって思ってた。


――家族が一緒にいるのは当たり前だろう?


シャンクスがそう言ってウタは嬉しそうだった。


そうだ、ウタの大切な父親をおれは、知っている


――あたしは赤髪海賊団の皆が大好きなの!



ウタの親達をおれは知っている、ウタの家族を、ウタがどんなやつかなんて知っているッ!!

なんで忘れた、忘れちゃいけなかったのに。強くなったとこ見せるって約束したのに!!


ヴィオラに「大丈夫!?麦わら!!」と声をかけられてハッとする、そうだ兎に角今はトラ男を助けよう、そう意気込んで部屋へと飛び込んだ。



***


ミンゴをぶっ飛ばしたかったけど、おれ達は部屋から追い出されてしまった。

ゾロとも合流して空を見上げると変な糸が国を覆った、トラ男が言った「鳥かごだ」の声に、確かにそんな感じだと思った。


ゾロが持っていた子電伝虫にロビンからの着信が入った。


ウタが、人間に戻れたと知った。




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