ホビウタと船長③ 愛と情熱とオモチャの島ドレスローザ
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ドレスローバ、じゃなくてドレスローザにトラ男と海賊同盟を結んだおれ達はやってきた。
メシのい~い匂いがするこの島はどんな冒険が待ってるんだろう!おれはいつものようにワクワクしながら、いつものように『キィ♪』と機嫌良く返事をしてくれるウタに声をかけたのに、ウタはカタカタと震えながら『…ギ』と小さな、本当に小さな声で答えるだけだった。
何か変だなって感じは最初からしていた。
トラ男が初めて目的地を伝えた時にも、まるでサンジに怒鳴られたおれやウソップとチョッパーみたいにビクッ!!としていたから。
それでも、おれはウタになんとか元気になって欲しくていつものように冒険すれば元気になるんじゃないかって思って、トラ男にもおれ達は町に行けば良いって言ってたから、ナミたちと何か話している隙にドレスローザへと冒険に繰り出したんだ。
町の入り口に来た時フランキー達に「つーかウタは目立つから、いっそぬいぐるみとして大人しくしてた方が……」って言われた瞬間おれ達は目を口を大きく開けた。
腕を咥えた犬が通り過ぎ、それを追いかけるのは食いちぎられたのだろう片腕がないぬいぐるみだった、今度は不思議な兵隊のようなオモチャが話しかけてきてクルクル回ってウタを見て『おや?すでに案内係がいるのですかな?』と言って自分の糸に絡まって転んだ。おれ達は開いた口が塞がらないどころか伸びちまうんじゃないかってくらい大きな口をさらに開けた。
「な、なんだぁ?ウタみたいな……ぬいぐるみ……じゃなくて、オモチャ??どーなってやがる?あいつらもウタみてぇに未知の動力で動いてやがんのか??」
「おいウズウズしてんじゃねーぞフランキー、おまえ変装したったクソ目立つんだから……いや、むしろオモチャカウントされるか?」
「おいルフィ!あっち見てみろ!」
「なんだよゾロ……はっ!」
ウタと違って喋る不思議な人形に驚いていると、ゾロに声をかけられその方向を見る。
そこには人間の女と一緒に腕を組む大柄な人形とベビーカーに乗っているオモチャ、カフェで新聞を読んでいるぬいぐるみ、楽器を鳴らして踊っている人形、犬っぽい見た目のバネのオモチャが生き物のように動いている。
「むぅ……な、何度見ても珍妙な……生きているかのような絡繰り人形がこの国には沢山おるのだ」
「ま、まあ動く人形は確かに珍しいが……ウチにも似たようなのいるからな」
「……はっ!そうだったあまりにも溶け込み過ぎてて驚いたが、ウタちゃんと同じような種族か??」
「そっか!ならウタのとーちゃんとかかーちゃんとかもいんのかこの国に!!というかきっとシャンクスもこの国に来たんだろ!シャンクス言ってた!オモチャと人間が暮らす国があったって!にっしっし、楽しくなってきた~~!!腹も減ったしまずは腹ごしらえしてから冒険だ~~!!」
「おい、ルフィ!ローの言ってた作戦があるって……たく、聞いてねぇな……ん?どーしたマリモ?」
「いやちょっと気になったつーか……なぁウタ、お前はアイツらみたいに話せねーのか?」
「………………キィ」
「ウタはしゃべれねーけど歌えるぞ!な?」
「キィィ」
ウタはゾロの視線から隠れるようにおれの麦わら帽子越しにギュッと抱き着いてきた。まだウタの震えは止まっていなかった。
おれは、なんだがザワザワする不思議な、でも何か嫌な気持ちを抑えながらウタを帽子に押し付けるような形で撫ででやることしかできなかった。
エースのメラメラの実、弁当を奢ってくれたレベッカ、ベラミーとの再会、まさかのじいちゃんに恨みを持つ頭でっけえじいさんとおれやトラ男たち最悪の世代に対して恨みがあるキャベツっていう逆恨みコンビ、めっちゃくちゃ訛ってるやつ、そしてチャンピオンの奴。
色んな奴に会った、レベッカに連れて行かれた知ったこの国の裏の顔、そして何よりウソップ達から聞いたウタの真実。
ウタが人間だと知った時、おれは少しだけ嬉しかった。
ウタが人間なら今までできなかったこと、特にメシを喰うことができるんだって嬉しかったんだ。
今まで色んなやつとしてきた宴、皆でワイワイ騒いで飲んで食べて笑って踊って、そして歌って楽しい宴。ウタもメシを食えるようになったらもっと楽しいだろうって思ってた。
それにサンジのメシを食ったら……おれ達と一緒につまみ食いをしてくれっかな?
それに大事な兄弟と再会したことも伝えなきゃいけない、そう兄弟…………もう、死んでしまったかと思っていたおれ達のもう一人の兄ちゃんとも再会したんだ。ウタもきっと喜ぶだろう、サボはどんな反応するだろう?ってワクワクしてたんだ。
ゾロと錦えもんと合流して、レベッカのおば?とか言うヴィオラっていう奴と一緒におれ達は王宮へと走った。
途中でゾロと錦えもんと別れて、ドフラミンゴがいるという部屋に行く為に、上へ上へと向かっている道中で、レベッカが心配していたオモチャの兵隊と合流した。
そして、おれ達はドフラミンゴ達がいる部屋で作戦が成功するのを待った。
ウタが人間ならどんなんだろうって想像してた、あの特徴的な頭は髪だろうか?声はどんなんだろう?って。
そして、ウソップ達が作戦を成功させた。
オモチャの兵隊曰くSOP作戦が成功する時はこの国の、オモチャの呪いが解ける時、すぐに分かるって。
オモチャの兵隊が人間になった、見ただけで相当強いのが分かる、コロシアムで見たあの銅像のおっさんだった。
ヴィオラがあのオッサンがレベッカの父ちゃんだと教えてくれた。
ヴィオラが泣いている「失った記憶が戻ったの」って言った。おれはウタも人間に戻れたのかなって呑気に思った、その数秒後おれはさっきまであんなに楽しみに思っていたとは思えないほど、酷い後悔の気持ちに襲われた。
忘れていた、大切な友達を……ウタを、思い出した。