ペンギン……恐ろしい子……!
左右非固定とくになにもしてないSS
視点がよく飛ぶ
3000字ちょい・校正してません
船長座談会が七割
ペンギンは恐ろしい男だ。飛ぶ鳥を落とす勢いの海賊団船長、ユースタス・キャプテン・キッドも言っている。
「お前んとこのペンギンとかいうヤツ、やべぇな」と。
付き合いはかなり長いおれだって、時折片鱗を見て動揺してしまうのだから、キッド海賊団の面々はそれじゃあすまないだろう。
そう、こうやってここで卓を囲む前にもひと悶着あったのだ。
「機嫌いいなペンギン」
「え、そーですかね」
見て分かるほど気分が上がり調子のペンギンに、夕飯が好物だったのか、なんて適当なことを考えていた。今考えれば呑気である。呑気であることで考えることをやめようとしていた節さえあるなと思う。問題はベポの発言だった。
「そんなにキッド海賊団と航路被ったのが嬉しいの?」
「あっバカ、ベポ!」
シャチの静止があったがもう遅い。キッド海賊団がこの航路を使うことくらい俺だって知っていた。その情報とペンギンを結びつけたくなかっただけで。
「……おれ、機嫌良かったですか」
「キャプテンおおおおちついて」
「至って落ち着いているが。それよりペンギンお前、出港前次こそ話つけるって言ってたよな。あの後落ち込んでたから、てっきり手を切ってきたんだと考えていたんだが」
出港前にもキッド海賊団とは出くわしている。その時のトラブルなどもう思い出したくもなかったというのに、蒸し返さざるを得なくなった。
怒りを全面に出す俺の前でペンギンは一生懸命弁解しようとする。
——違うんですごめんなさいキャプテン。ちゃんとこんな関係は嫌だって言ったんです。そしたらあいつ、この世の終わりみたいな顔して。傍目にはわかりにくいけどあいつ、意外と仕草に出るから。
「だから、おれつい……ちゃんと付き合おうって言っちゃったんです」
「room、シャンブルズ」
自室から引き寄せた帽子に視線を落とす。いい手触りだ。もふもふとしている。手触りのいいものに触れていると人間の心は少し余裕を取り戻すらしい。そういう心理的な論文も出ている。狭い潜水艦で平和に共同生活を送るためには、こういったメンタルケアも必須であり、それが互いの身を守ることに繋がる。きっちり6秒経ってから息を吐く。
「……キャプテン?」
「なぁ、もうこの際ユースタス屋のクルーであることは問わねぇよ。なんであの中でもデカくて一番良くわかんねぇ網タイツ男なんだよ!女も四、五人居たよな!?」
「キャプテン最初と言ってること違うよ!?」
そこからの記憶が、あまりない。
酒場もない小さな小島。野営の準備をしていたらなし崩しで一緒に飲むことになり、おれは宴の片隅にトラファルガーと追いやられていた。まぁ、変にヘッドが混ざるより、クルーも肩の力を抜けるだろうし、ハートの奴ら相手にトラブルを起こすほど馬鹿な奴らでもない。そこはいい。
おれとトラファルガーの間にある机の上は既に空の酒瓶がごろごろと転がっている。案外酒には強いらしい——もしくは持ち前の負けず嫌い故か。
最初はお互い無言で飲み続けていたのだが、酒が回りだすとポツポツと言葉を交わすくらいにはなる。お互い否定したい所だが、交流自体は二年前からあるのだ。馴れ合いなんざごめんだと互いに言っているにもかかわらず。
もっとも最近は、主にあるクルーのお陰で微妙な空気が流れている。こうやって顔を突き合わせていれば嫌でもその元凶に触れざるを得ない。
「お前んとこのペンギンとかいうヤツ、やべぇな」
うちのクルーとハートのクルーが関係を持ったと知ったときはキラー、ヒート共々言葉を失ったが、もう大概諦めている。ただ、海賊の中でもとりわけ無害で人のよさそうなペンギンという男に、あのワイヤーが心奪われてしまったというのだから、一体何があったのかとクルーたちは皆噂をしていたのだ。当然おれの耳にも入るし、聞ける相手がいれば聞きたいに決まっている。
トラファルガーは視線を左上あたりに彷徨わせると、酒を煽ってから口を開いた。
「……ああ、ペンギンはひょっとしたらウチで一番恐ろしいかもしれねぇ」
「だよな。あのワイヤーを骨抜きにするとか、どんな寝技持ってんだよ」
見ろよあれ、と指差した先にはペンギンに熱視線を注ぐワイヤー。ぼんやりとしているあいつが輪をかけてぼんやりしている。すっかり熱をあげて、おかしくなってるに違いない。
瞬間、トラファルガーが形容しがたい奇声を発した。だがおれの前だと気が付くとすぐに表面上は取り繕うとする。
「骨ぬ……あいつが……あいつはそんなことできるわけねぇ!」
麦わらにキレるときと同じくらい目を大きく開いて否定している様子があまりにも面白い。薄々気が付いていたが、こいつはクルーに対して過保護な船長らしく、ことこの件においていつもの腹立たしい程の余裕げで挑発的な側面は鳴りをひそめていた。
「ふはっ、お前自分のクルーに対してヒデェなぁ。嘘でも盛っておけよ、そこは」
「露出狂3歩手前くらいの男を骨抜きにする?ハッ、冗談だろ……ちょうどいいお前も聞いて後悔しろ」
猛烈に嫌な予感がした。だが止める隙もまったくない。
「ウチのペンギンはな、恐ろしいほど馬鹿正直ににワイヤーに正式な交際申し込んだんだよ」
「はぁああああ!?」
おれの怒号は宴の喧騒にかき消される。なんだって?正式な交際?セフレじゃなく?
ヤケ気味になったトラファルガーは、どこを見ているのかわからない謎の笑みを浮かべてペンギンの供述を全てぶちまけた。
——ペンギンはやべぇんだよ。どっかネジ外れてんじゃねぇかな。じゃなきゃ網タイツの大男を真っ向から口説いて白昼堂々手をつなぐなんて所業、できねぇだろ。
自嘲混じりに吐き捨てる。
「ありえねぇ、てめぇんとこのクルーはイカれてんのか?ホイホイ持ち帰られて挙げ句の果てに自分からお付き合い開始してんじゃねぇよ敵船だぞ」
「てめぇのクルーも大概だろ。純情そうなノンケをつまみ食いした挙句ベタ惚れして甘い言葉一つに惑わされてんじゃねぇよ正気か?」
お互いソファーに座ったまま、項垂れて勢いのない軽口の応酬。船長だからってお互いこんなところで神妙な面突き合わせて飲みたくなかった。ここにいなければ知らずに済んだのに。
「……ペンギンのこと、おれのとこのクルーがなんて呼んでるか知ってるか」
「やめろ馬鹿聞きたくねぇ」
「ワイヤーさんの凄腕操縦士」
チ☓コがどうとか、テクがどうとか薬が云々と渦巻く中でだいぶ上品な部類のものをぶつければ、殺すぞ……という、覇気のない声が聞こえてくる。
「……てめぇら仲間内ではこの関係、いいのかよ」
「あー……まぁワイヤーの手グセの悪さは今に始まったことじゃねぇし。示しはつかねぇけどわざわざ文句つける気はねぇよ。諦めた。うちのワイヤーの純情を弄ぶんじゃなきゃな」
「言いながらダメージ受けてんじゃねえよ」
純情ってなんなんだ。辞書でも引いてこいよと自分でも思った。性に奔放でマイペースなワイヤー。正直に言えば旗揚げの時からの大事なクルーが本当にやりたいことならそれでいい——なんて器のデカイことを言っておきたい。振り上げた拳を収めるタイミングが全く分からないだけで。
宴の喧騒をこっそり抜け、渦中の二人は更に人気のない山に入っていった。
「……思ったより何もないな、ごめん」
「いやおれがお前を連れ出したし、ごめん」
二人揃って謝罪するのが馬鹿らしくなったのか、ペンギンはワイヤーの手を取って更に奥へと入る。
「大胆」
「な……っにをお前が言うんですかね!……別に誰もいないしいいだろこういう時くらい」
お前、こういう時だけ人目を気にするしな、とペンギンはつないだ手を引き寄せた。
「普段海だし、デートは街歩きのほうが多いだろ?たまには登山ってのもアリ……かはわからないけど」
「ん」
「……ワイヤーは俺と歩くだけで楽しくない?」
覗き込むように首を傾げるペンギンに、ワイヤーがうつむく。高鳴る心臓を押さえベールに顔を隠しながらも、小さな声で楽しい、と答えるのだから、どうもいじらしかった。
彼らが野山を満喫する間、キッド海賊団とハートの海賊団は姿を消した二人が野外で”何とは言えない何か”をおっぱじめていないか、得体のしれない焦燥感に駆られているなど露知らず。
その後、とばっちりで二人の船長に噛みつかれかけたペンギンとそれを庇うようにマントに包み表情を変えないワイヤー、そしてそのマントの中から「ぎにゃッうぇエ!?」という謎の悲鳴が観測されたそうな。
おわり
書きたいこと多すぎてもはや何を書きたかったのか分からなくなってました
ネタが………ネタが多すぎる…………!!!
旗揚げ組はもう諦めてて、船長だけが振り上げた拳のおろし時がわかんなくなってるイメージ
書きたかったもの
・ペンギンは恐ろしい男だという書き出し
・愉快なロー
・煽り合いながら死んだ顔してる2船長
・スパダリペンギン
・マントにしまっちゃうワイヤー