ペンギンと勇者様
黒庭勇者さん「綺麗ですっ」
勇者様に連れられてやってきた水族館という場所。そこは静かな雰囲気ながら様々な海洋生物が見ることができて斬新です。
勇者様の世界に降り立つことができた私は、一緒にデートをすることになりました。
「ペンギンに興味持ってたから、ペンギンもいる水族館を選んだけど、それ以外も満足そうでよかった」
勇者様が微笑みながらそういいます。
私も勇者様も今は私服姿。戦闘に使われるようなことのないお洋服に袖を伸ばすことは少なかったので、私はなんだか斬新です。
「カードで気になったものがあったのがきっかけでしたね」
「『ペンギン勇者』だね」
「はいっ、なんだか親近感が沸いて興味が湧いたのです」
勇者様らしいメンバーを携えて、みんなで戦おうとするペンギンたちが写ったカード。それに私は心を惹かれたのです。
戦闘で剣を構える『ペンギン勇士』はまるで勇者様のように凛々しく、どこかかっこいい。勇者様は『ペンギン僧侶』が私に似ているなんて言ってくれました。
そうした話が盛り上がっている間にどんどんペンギンに対する興味が湧いて、デートとという形で水族館に赴くことになりました。
「あのふよふよした生物は……」
「あれはクラゲだね」
「なんだか海の生き物は斬新です」
ふわふわとドレスを動かすように泳ぐクラゲに、可愛らしい見た目のクリオネ。そして、ひょいっと顔を覗かせるチンアナゴも素敵と思います。それぞれ、見ているだけでも満足してしまいそうになります。
「じゃあ、そろそろ本命のペンギンを見に行こっか。ほら」
「は、はいっ」
勇者様に手を惹かれてそのままペンギンがいる空間まで歩いていきます。
少しした先、いっぱいのペンギンはゆったりと歩いていました。
「あれがペンギンだよ、水遣い」
「か、かわいいですっ」
ぺたぺたと地面を歩く姿。
水の中では優雅に泳いでいるのも素敵です。陸地にいるペンギンはのんびりくつろいでいるものもいます。
十人十色、というべきでしょう。それぞれのペンギンが自由に、まったりしています。
「私も好きなんだよね、ペンギン」
「そうなんですか?」
「ゆっくりしていて、飛ぶだけじゃない鳥って感じが好みで」
「ペンギンって鳥さんなんですか!?」
「鳥だよ? 空は飛べないけれど、海は自由に泳げる。ちょっとだけ不思議だけど、自分の生活のために独特な進化をしたっていうのが好きなんだ」
意外なことを聞いて、びっくりします。
なるほど、確かに嘴もありますし、翼みたいなものもあります。少しもふもふ感もあって、鳥っぽいところは感じます。
「小さいとき、どうしてもうまくできないことがあってね。他の人ができるのに、どうしてできないんだって言われたりしたこともあったの」
「勇者様……」
「そんな時に、親が見せてくれたのがペンギンだったんだ。『飛べなくてもいい。泳いでしまうのだって人生だ』っていう言葉をもらって、それが励みになって今もこうして水遣いと一緒にいる」
「そうだったんですね」
人に歴史あり。
明るい勇者様だって悩むことがある。そんな時に支えてくれたのがペンギンだったと考えると、今こうして私が興味を持っているのにも意味があるように思えた。
「私、これからも水遣いと一緒にデートとかしたいな。カードショップ見たり、美味しいもの食べたり、動物園行ったり。異世界のこといっぱい教えてもらったから、今度は私が色んなところ教えてあげたい。だめ、かな」
ちょっとだけ不安そうに問いかける勇者様。その答えは既に決まっていました。
「もちろん、一緒にいきますよ。勇者様の仲間として、いいえ、親友としてこれからも仲良くしていきたいですからっ」
「よかったぁ、それが聞けて安心した」
ほっとした様子で息を撫で下ろす勇者様。
私もまだまだ『冒険』したいものです。だからこそ、提案にはいっぱい受け答えしたいです。
「仲間を連れて、みんなで行ったりするのもいいかもですね」
「グリフォンライダーとかびっくりされちゃいそうだけどね」
「平気ですよ、きっと」
「でも、こうして二人きりのデートもしたいな」
「どうしてですか?」
「そ、それは……」
顔を赤くする勇者様。
その答えは静かに、語られた。
「水遣いが、好きだから」
ザバーン!
ペンギンが水の中に入る音が響く。
「ご、ごめん。なんでもない」
勇者様は聞こえてなかったかのように誤魔化します。けれども、大丈夫です。
「私も勇者様が大好きです。だから、デートもまた、一緒にしましょうね」
しっかり聞こえましたから。
「うぅ、ペンギンが味方してくれると思ったのに」
「味方したから空気を読んだんですよ」
「……ありがとね、水遣い」
「こちらこそ」
ゆっくり手を繋いでペンギンを見つめる私たち。優しく寄り添っているペンギンの一組がどこか私たちに似ているような気がして、二人で笑いあいます。
これからも楽しい時間が続きますように。勇者様の掌の暖かさを感じながらそう思いました。