ペパーの逆襲

ペパーの逆襲


くるぶしを這うペパーの指先。彼の視線は、熱を帯びているようで、どこか子どものような無邪気ささえも感じさせる。いたずらを愉しむようなサディスティックな微笑み。ペパーの些細な動作のすべてがアオイの心をかきむしる。

 

縛られているわけでもないのに、開かれた両脚が閉じられない。ペパーの声や視線は不思議な魔力をもってアオイの身体を捕えている。なぜか目に涙が滲むが、それは悲しみではなく、むしろ喜び、快感への期待によるものだろう。

 

「あの頃は散々焦らしてくれたもんな、アオイ?攻守交替ちゃんだぜ?」

 

にっこりと笑うペパーの顔には、学生の頃のような青い硬さはなく、大人の男としての余裕が表れている。アオイは、彼の笑顔に胸の奥が暖かくなると同時に、与えられるであろう快感を予期して、喉がゴクリと鳴るのを聞く。

 

確かに煽ったのは自分。

 

焦らしたのも自分。

 

全裸でエリアゼロを旅したあの頃から、度々彼の衣服をはぎ取って羞恥の炎であぶり続けていたのも、他ならぬ自分自身。

 

あれから数年間、何度も、何度も、彼を辱めた。真っ赤に顔を染める彼が可愛いから。自分が彼の表情をゆがめている実感が嬉しかったから。

 

その彼がいま、自分を抱こうとしている。

 

アオイは「胸が躍る」という諺の意味を心の底から理解した。心臓はタップダンスのように跳ね、肺腑は浅い呼吸を繰り返しながら、どうにか全身に酸素を送っている。まさに、「胸が躍っている」という状態であった。

 

この日アオイはペパーの自室を訪れ、机に座って何か書き物をしている彼の背中にゆったりと抱き着いた。この数年何度も繰り返して来た恋人への愛情表現である。紳士であるペパーはこの誘惑に乗ることは一度たりともなかった。

 

だからこそ、このバックハグは、アオイにとってはルーティーンに近いものであった。今日この日までは。

 

するすると衣服の紐をほどいていく愛しい人の手つき。アオイは何を言うこともできず、全く抵抗することもできずに、徐々にはぎ取られていく自らの衣服を眺めるしかなかった。

 

「ほら、アオイ、手あげて」

 

妙にゆっくりと発音するペパー。耳元で言われているわけでもないのに、なぜかすぐそばで囁かれているような甘い痺れを伴う声色。手を上げろと言われれば、素直に手をあげてしまうのは、彼女の心の芯の部分がすでに掴まれてしまっているからだろうか。

 

顔に血が集まってくるのがアオイには自覚できた。一秒が長く感じる。ペパーの指先の動きがゆっくりに感じる。不思議な浮遊感がアオイを包む。どこか夢心地の彼女は、このあと自分にもたらされる凄絶な快感の一部すらも図り切れていない。

 

数年前まで幼い少女だったアオイである。その肢体にはまだあどけなさが残る。とはいえ、大人の女性への変化を始めた彼女の身体は、幼さから来る溌溂さに加えて、ハイティーンならではの瑞々しさをも備えている。そんなアオイの白い肌は、いつの間にか、まるで化粧をしたかのように薄紅色にそまっていた。

 

アオイが愛しい彼の手から伝わる体温を感じて夢心地に浸っている内に、ズボンは引き下ろされ、残すは下着のみとなっていた。さすがに羞恥を感じたアオイは慌てて両手で下着を隠そうとするも、ペパーはそんな彼女の眼を見つめて一言だけつぶやいた。

 

「アオイ」

 

微笑みをたたえながらも力強い彼の両目は、嗜虐的な色気を含んでアオイを射竦める。アオイは、まるで蛇にらみを受けたハラバリーのように固まり、その両手は行き場を失って宙を抱くのみ。頬には汗が伝い、彼の獣性を感じて心が沸騰する。

 

優しく、それでいてしっかりとアオイの下着に手をかけたペパー。彼の目はあくまでアオイの両目を見つめている。下に下に降りていくペパーとその両手の中の下着は、今まで煉獄のような羞恥に苛まれてきた彼が再び自尊心を取り戻していく過程のように、ゆっくりと、ゆっくりと、地に向かっていくのだった。

 

脚という戒めから解き放たれたアオイの下着は、ほのかな熱を帯びつつ彼女の傍らにふわりと置かれた。もの言わぬ下着は、これから主人の痴態を特等席で見物することになるだろう。

 

ゆらゆらと、視界が揺れる。

 

身体が蒸気になってしまったかのように、浮遊感と熱感が身を包んでいる。

 

アオイは、いま自分の身を焼いているこの感情の名を知らない。だが、ぺパーはよく知っている。

 

これこそが、人類が楽園から追放される代償に得た感情、禁断の果実がもたらした甘美な心の棘

 

羞恥心である。

 

感情がまとまらないでいるアオイを正面から抱きしめて、ゆったりと頭を撫でて耳元でペパーが囁く。

 

「アオイ、恥ずかしい?」

 

ペパーの言葉を耳がとらえたその瞬間、全身に火がついたような感覚があったアオイ。彼女は自覚してしまった。これが「恥ずかしい」というものであることを。それでもペパーは追撃を仕掛ける。

 

「・・・全部見えちゃったな?・・・恥ずかしいな?」

 

妙にゆっくりとした話し方がことさらにペパーの色気を強める。その色気はアオイの脳を強く揺さぶって、声と抵抗を奪う。

 

「下脱いだだけ、バランス悪いちゃんだな・・・シャツも脱ごうな?」

 

アオイの脳が浮遊感の中で、どうにかその言葉の意味を理解した時点で、ペパーの両手は彼女のシャツと下着をはぎ取り終わっていた。

 

「全裸ちゃんだな」

 

頭を撫でながら額に優しくキスをするペパー。愛する人の手が、唇が、声が、匂いが、アオイの全てを責め立てていた。

 

一糸まとわぬ姿となったアオイ。それに対してペパーは服を着ている。いつぞやとは逆の立場となっている。最強のチャンピオンはいま、まっさらな身体を恋人に見せている。

 

ペパーにとってはもはや何度目になるか分からないアオイの裸だが、今回は意味が違う。あの頃、羞恥心を感じていたのは自分一人だったが、いまはアオイが羞恥心を感じてその身をピンク色に染めている。

 

その事実だけでも彼はテラバーストの予兆を感じてしまうが、表面上にはたっぷりと余裕をたたえて見せている。数年の歳月は青年を強く育てていた。

 

ベッドの上に座り、裸となったアオイを後ろから抱く。といってもその手は抱擁の動きではない。

 

指の腹が肌に触れるか触れないかの瀬戸際を、ゆっくりと、何度も何度も繰り返し撫でていく。

 

くすぐったさにも似た感覚がアオイを昂らせる。触れているのは肩や腕。性感を呼び起こすような部位ではない。それでもペパーの手が動くたびにアオイの背中には甘やかな電撃が奔って脳を揺らしていた。

 

強い刺激を受け続ければ、いずれは慣れてしまう。だが、濃淡や強弱、緩急を使い分けた愛撫の前には、慣れやマンネリなど無力。どこで学んだわけでもないペパーの手淫の技は、天性の才能だろうか、料理の腕が応用されたものだろうか、それとも恋人への愛情がそれを可能にしているのだろうか。

 

ゆるゆると刺激され、芯からとろかされていくアオイ。決して致命的な部位には触れないペパーの指にじれったさを感じ、目には涙を浮かべてしまう。そんな彼女をよしよしと撫でながらペパーはとぼけたように言う。

 

「ん~?アオイ、どうした?なんかもの欲しそうだけど?」

 

さらなる羞恥心を起こされ声にならない悲鳴をあげるアオイ。ペパーは積年の仕返しとも言わんばかりにアオイに甘いお仕置きをしていた。許してほしいと懇願し始めたアオイに対してペパーが放った一言は、彼女の想像を絶するものだった。

 

「そうだな~・・・自分で気持ちよくなってるとこ、見せてくれたら考えるぜ?」

 

愛しい人の目の前で自慰を見せる。

 

それはおそらく想像を絶する羞恥であることは間違いないだろう。アオイも最初はペパーに声にならない声と涙目で抗議したものの、彼のじれったい手つきから与えられる快感によってグズグズに溶かされ、結局は秘密のショーを演じることを了承してしまった。

 

ベッドの縁に腰かけ脚を開くアオイ。ペパーは床に跪いてアオイの目と指と秘所を交互に眺めている。その視線は実に熱っぽく、目だけでもアオイは芯から何かがあふれて出てきそうになるのを感じていた。

 

おずおずと動き始めた指先。ペパーは何も言わない。部屋の中に音は無く、アオイが自らを罰する微かな音だけが、甘い吐息の音ともに薄暗いオレンジ色の灯に溶け込んでいくのみ。

 

あえぎ声はまだ出ない。喉に目いっぱい力を込めて恥を抑えこむアオイだが、目はペパーを見続けている。なぜか目を逸らせない。恥ずかしいのに目を逸らすことができない。愛しい恋人の顔を見つめながら自慰を続けているこの異様な状況に、アオイの脳はとっくに理性を手放していてもおかしくなかったが、数多の死線をくぐり抜けてきた強靭な精神は、発狂も気絶も許してはくれなかった。

 

いつの間にか、微かながら、確かな水音がペパーの耳を潤すようになっている。甘い吐息には小さなあえぎが混じって部屋の空気を甘美に染めている。

 

「ぺ、ぱあ、」

 

アオイの声は絶え絶えになって消えていく。言葉を出そうにも、自らの喘ぎ声で断ち切られてしまって、何も言う事ができない。

 

「もう・・・もう・・・っ!」

 

絶頂を迎えようとするアオイの耳元でひそりと囁くペパー。

 

「ダメだぜ、アオイ?勝手にイッたら悪い子ちゃんだ・・・」

 

自慰を命じておきながら、絶頂を禁ずる理不尽。そんな非道な命令も愛しい人から発せられれば甘い痺れとなってアオイの脳を焼く。

 

いつの間にか、指はアオイ本人の意思を離れ、独りでに激しく動き、大きな水音を立てて部屋の中の空気をより淫靡に染めていく務めを果たしていた。

 

自らの指先によって生み出される快感に、翻弄され首を左右に振りたてるアオイ。そんなアオイの頭をよしよしと優しく撫でながらペパーは問う。

 

「アオイ?恥ずかしい?自分でしてるとこ見られるの、恥ずかしい?」

 

「恥ずかしい」という単語を聞いた途端に、羞恥心がさらに燃え上がる。だが、その羞恥心すらも快感を生み出す一因となっている。

 

「ゔ~~・・・っ」

 

下唇を必死に噛んでこらえるアオイだが、自慰によって引き起こされる快感はすでに絶頂の天井を突き破るには十分すぎるほどに貯めこまれている。あとはペパーの許可だけである。

 

「まだだぜ~・・・まだまだ・・・」焦らしに焦らすペパー。その表情には嗜虐的な喜びの色が滲んでいる。

 

アオイを後ろから優しく抱きしめたまま、ペパーは囁いた。

 

「いいぜ、アオイ。」

 

絶頂の許可。脳が言葉を理解するより早く、快感が脊髄を通って全身に満ち、声を上げる間もなく、アオイは全身をこわばらせた。激しい絶頂は彼女の神経を焼き切らんばかりの勢いで駆け巡り、アオイは意識が飛びそうになったが、どうにかすんでのところで持ちこたえる。

 

「イイ子ちゃん。よくできました」

 

バックハグの状態でアオイの頭を撫でつつ、側頭部に軽くキスをするペパーだが、まだ彼の逆襲は終わってはいない。

 

ぺパーは後ろ抱きの状態を解き、ベッドに腰かけたアオイの前に回った。

 

アオイはベッドに座っているため、ペパーが床に膝をつけば必然、彼の目線の先にはアオイの腹部や下腹部が来るようになる。

 

恋人の前での公開自慰による激しい絶頂によって目の奥にぱちぱちと電気が明滅するような感覚があったアオイだったが、さすがに足と足の間に恋人の顔があっては気を取り直さざるを得ない。

 

「な、なにを・・・」

 

「もうわかってるちゃんだろ?」

 

ペパーはアオイの了解を得る前に、内ももに舌をあてた。ゆっくりと脚の付け根に向かって、頭ごと動かして舌を近づけていく。

 

「やっ、ぺぱあ、恥ずかしっ・・・!」

 

アオイはペパーの頭をつかんで抵抗するが、力が入らず彼の動きを止められない。

 

ペパーの舌はじれったいほどにゆっくりと股間に向かっていく。一度絶頂を迎えて収まっていた官能の火が、再び勢いを増してきたのを自分自身で感じ取るアオイ。

 

じわじわと近づいてきた愛しい人の舌。ついに芯を捉える、と息を呑んだアオイだったが、ぎゅっと目をつむっても一向に刺激が来ない。目を開けずにそっと問う。

 

「ぺ、ペパー?・・・んひっ!?」

 

ふっ・・・と力が抜けた瞬間を見計らってペパーの舌がアオイの陰核を捉えた。

先ほどまでのじれったさとは打って変わって、激しく蹂躙するような舌使い。上下に、左右に、押し込み、吸い上げ、歯で挟み、舌で扱き、一心にアオイの芯をねぶるペパーの舌。

もはや力の入らない手で必死にシーツをつかんで快感を受け止め続けるアオイだったが、声すら出せずにただただ悶えているのも限界が来たのか、大きく弓なりに反り返ってから、ぷつんと糸が切れたように気を失ってしまった。


ほんのしばらくの気絶だったのだろう。窓の外の月は大して位置を変えてもいなかった。アオイは目を覚ますと同時に自分の脳を撫でるような感覚の正体に気づく。


これは「快感」。


そして、その快感を与えている張本人である愛しい恋人がそこにいた。ペパーはアオイの両脚の間に陣取り、彼女の秘所を優しく舐め上げて愛撫を続けていた。おそらくアオイが気絶している間もずっと続けていたのだろう。ぐずぐずに溶かされた官能によって再び前後不覚に陥る愛しい恋人を優しく見上げるペパー。彼の手は「おいうち」のように動き、恋人の抵抗をいなす。


顔をあげ、水を口に含むペパー。下半身を舐めた後にキスをする前のエチケットだろうか。目を見つめながら顔を近づけるペパーだったが、アオイの心を満たすのは恍惚だけではない。なにしろ、優し気な彼の目とは裏腹に、彼の指は秘所を責め立てているのだから。


「はっ・・・・ぺ・・・・ぱ・・・・ぁ・・・・・・・・ひっ・・・」


暴力的とすら言える快感。目の奥でチカチカと明滅する光が見える気がする。もはや「やめて」と抗議することもできないほどに責め立てられるアオイ。


「アオイ?どうした?」にっこりと微笑みながらも、指先は淫靡な音を奏でている。激しくはない。あくまで優しい手つき。だからこそ余計に燃え上がるアオイの羞恥心。ペパーは彼女の心の機微を完全に掌握しているようであった。


呼吸が浅くなり、ペパーの腕をぎゅっとつかむアオイ。すでに幾度か浅い絶頂を迎えている様子だったが、それでも我慢しようとするのはチャンピオンとしてのプライドか。


しかし、彼女は失念している。「がまん」はむしろ威力を高めるのだということを。


「・・・・・・~~~~~~~~~~~っっっっっっっ!!!!!!!」


限界が来ると同時に声もなく体をこわばらせるアオイと、そんな彼女をにこにこと微笑みながら頭を撫でるペパー。いつもは快闊なアオイにペパーが振り回されるような形の二人だが、今だけは完全にペパーがアオイをコントロールしていた。


ペパーによって意識を吹き飛ばされ、彼のシャツをぎゅっと掴みながらもアオイは幸せな眠りにつく。

 

安らかな顔で寝息を立てる恋人の頬を優しく撫でながらペパーは、ベッドの傍らで独りテラバーストに勤しむのだった。

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