ヘタレ弟に渇を入れる姉の話
ある休日の昼下がり。私は部屋で弟を待っていた。というのも数日前、「相談したいことがある」と急に言われたのである。近くのファミレスを提案したが、プライベートな話だからどちらかの部屋が良いとのこと。弟はG1三勝バ。プライベートな話をあまり外でしたくないというのも理解できる。おおかた、最近付き合い始めた彼女の話だろう。お茶と軽食を用意していると、チャイムが鳴った。
「いらっしゃい。上がって」
「ごめん姉さん。忙しいのに時間作ってもらって」
「いいのいいの。で、相談って?彼女ちゃんのこと?」
「!!!」
弟の顔色が変わった。図星である。
「そういえばあんまり聞いたことなかったね。上手くいってるの?」
「それは……うん。上手くいきすぎてるくらいだよ。デートもプレゼントもすげーセンスいいし、だからハードル上がるんだけど、どこ行っても何あげてもめちゃくちゃ笑顔で喜んでくれて、笑った顔もほんとに可愛いし……」
「そっか。良い子だね。姉ちゃん安心だわ」
「うん。それで、その、相談なんだけど……なんつーか、純粋すぎて手が出せないんだよ!!」
私は何かを察した。おい弟よ。それ普通姉にする相談か?
「何やってても子供みたいに純粋な目で楽しそうに笑うし、顔近くなっただけで本気で照れるし、初めてキスした日なんかそのあと会話もろくにできなくて、別れ際に顔真っ赤にしながら『嬉しかったよ』とか言ってくるし……先に進みたいんだけど罪悪感?みたいなのがあるっていうか……」
「はあああああああ」
私は大きなため息をついた。我が弟ながら呆れるヘタレっぷりである。
「呆れた。純粋?罪悪感?そんなのただの言い訳よ。あんたがリードしないでどうすんの!付き合ってるんでしょ?そりゃ、嫌がるならやめるべきだけど、まだ誘ってもないのに分からないじゃない!あんたいつもレースでは10人以上引き連れて走ってるでしょうが!自分の彼女1人くらいリードして見せなさいよ!」
言ってしまった。まあいい。必要とあらば、こうして渇を入れるのも姉の役目だ。
「で、でも姉さん……」
「姉ちゃんなら自分の彼氏がこんなヘタレだったら別れるわ」
「ゔっ……」
「分かったら彼女ちゃんに電話!」
「は?!さすがに今からは……」
「善は急げよ!ほら行った行った!」
弟を強引に追い出す。あの様子じゃ、普通に話して返したところでまたズルズルなにもしないだけだ。ドア越しに弟が彼女の名前を呼ぶ声を聞き、私は自分の携帯を見た。ちょうど彼氏から着信が入っている。
「もしもし?今から?うん。さっき弟帰ったから。分かった。待ってる」