プロローグ
初心者人を斬ると、血が出る。
たまに、とても勢いよく血が吹き出すことがあるから、服は黒か暗めの赤がいい。白を好む人もいるけど、洗濯とか手入れが大変だし、白地に血の模様があるといいよね、というのはただしのフェチだし。否定はしないけど、私の好みではない。
人は恐怖すると、声が出なくなる。
口をパクパクして、際限なく酸素を取り込もうとする。落ち着こうとしているんだな、と思う。時々すごく大きな声で叫ぶ人もいるけど、近くに助けてくれる人なんかいないから無駄だし、耳が痛くなるし、なにより居た堪れない気分になるから、やめて欲しい。
人は死にそうになると、何かを残そうとする。
それは敵に対して一矢報いようとして行う攻撃だったり、怨みや呪いの言葉だったり、愛しい人に向ける祝福だったりする。まあ私は優しいから最後に色々言わせてあげるけど、さすがに代々伝わる伝説の品を目の前で継承するようなことはやめて欲しい。これ見逃したら私バカじゃん。
___そんな風に頭の中でだらだらと考えながら、使い慣れた斬撃の魔法陣を展開して、集落の最後の生き残りを殺す。
私の今日の仕事は、少しの机仕事と、ある小さな集落の殲滅。なんでもめちゃくちゃ貴重な鉱石があるとかで、それで作る剣は素晴らしいものになるとかで。誰かの手に渡る前に奪取し、集落は皆殺しにしろというのが軍師様からのお達しだった。
既に事切れた少年が胸に抱く、件の鉱石を取り上げる。
(悪いね)
殺しておいてどの口が言うんだって感じだけど。
鉱石は月の光を反射して煌めいている。どうせこの鉱石は魔王軍のもとで武器に加工されて、沢山の人を殺すんだろうなぁ。彼らは勇者様に使って欲しかったようだけど、残念無念。
集落を後にしながら、明日の仕事に思いを馳せた。明日は月に数度の軍議の日だ。大体の流れは想像出来る。聞いているんだかいないんだか分からない魔王様に報告をして、軍師様にいつかの仕事の不手際をネチネチと責められながら、殲滅任務を任せられるのだ。気が重い。
ああ、魔王軍の幹部辞めたい。
口が裂けても言えないけど。