プロローグ見たら
久々に曇らせたくなった 事前にパート2の遺書を読むことミガリの書き遺した手紙を読んですぐ、私とユメ先輩は彼女の部屋へと向かった。今までにないくらい息を切らしながら、あの日見た小さな海へと足を動かす。
辿り着いたその部屋のドアは、いつも見ていたドアとは打って変わって、どこか哀しげな雰囲気を纏っていた。鍵を刺し、捻る。ドアノブを回し、扉を開く。
中には、いつもと何ら変わらないまま、こぽこぽと水音を立てる水槽が山ほど立ち並んでいた。いつもと違うのは、その水槽が部屋の一点を囲うように移動していること。そして…その部屋の中心に、小さな水槽とノートが遺されていたこと。
重い足を引きずり、震える手を伸ばし、その書き置きを掴む。
『飼育のポイント!!』
ポップな色使いと、柔らかな筆跡で書かれたそれは、どんな本よりも分かりやすく魚の飼育について書かれていた。海水魚用の水の作り方、それぞれの魚に対する1日の餌の量、最適な温度、一緒に入れるべき水草までも。
彼女が愛したモノのすべてが、この一冊に書き収められていた。
膝の力が抜け、へたりと床に座り込んでしまう。信じたくなかった彼女の死を、無理やり自覚させられる。『自分は直接見てないのだから、もしかしたら生きて戻ってきてくれるかもしれない』『この裏切り自体も、彼女の壮大な漫才の一部なのかもしれない』そんな淡い期待さえも、粉々に打ち砕かれる。
目頭に涙が滲む。私の心は今にも決壊しそうだった。そして…ユメ先輩もそれは同じだった。でも。
でも、きっとあの人は、私達が自分のせいで泣いてしまう姿なんてきっと望まないだろう。
ノートの片隅、裏表紙の隅っこにひっそりと書かれたメッセージ。
『どうか、皆笑顔で』
私は涙を堪えて、歯を食いしばり、そして立ち上がり、少し汚れた水槽の掃除を始めた。いつか見た彼女のように、優しく、念入りに。丁寧に。ただひたすら丁寧に。
ユメ先輩も私の隣に立ち、机の上の小さな水槽の世話を始めた。その目は真っ赤で、顔は鼻水と漏れ出た涙で酷いことになっている。私もきっと同じ顔をしているに違いない。
机の上の水槽には、それぞれの髪の色をした小さな魚が3匹泳いでいた。三人で、一人一匹好きな魚を買ったときの魚だ。私は緑色の魚を、ユメ先輩は赤の魚を。そして、ミガリは桃色の魚を買っていた。仲睦まじく、踊るように泳ぐ魚達は、狭い硝子の箱に閉じ込められているのに、なんだかとても自由に見えた。