プレ艦時空 アビドス編

プレ艦時空 アビドス編


「アビドスが崩壊した。生存者は、恐らくいないわ」


「は?」


そういった彼女は、乱雑にボロボロの、見覚えがあるマフラーをこちらに放る

気が付いたら私は、そんなことを言う便利屋ちゃんの胸ぐらをつかんでいた。


「言っていい冗談と悪い冗談があると思わない?」


「……あなたが水族館に行っていて幸運だったわね。生存者が一名プラスされたわ」


口の減らない彼女を、私は、投げ飛ばす。


「……私は、戻るわ。仲間が待ってるから。小鳥遊ホシノ。あなたはここにいなさい。必要になるから」


思い切りたたきつけられた彼女は、そういって、フラフラと立ち上がって、消えていった。


彼女が消えて、ハナコちゃん以外いなくなった病室で、私は、マフラーを抱いて叫ぶ。


何が悪かったの。

先生が、もう起きなくなって、みんながくれたチケットを思い出して、トリニティの水族館にまでいって……。

それで、……爆発がアビドスの方であった。でも、……全部、終わっていた。


便利屋ちゃんの報告の通りなのだろう。

ノノミちゃんも、シロコちゃんも、アヤネちゃんも、セリナちゃんも……。

本当に、誰もいなくなったのだ。もう、アビドスに、私の帰りを待つ人はいない。


「ホシノさん!まだいますか!!」


そんなとき、あの、便利屋ちゃんと入れ違いに、入ってきたのは、セリナちゃんだった。


「……なに?」


何とか、立ち上がって、彼女を睨む。

睨んでしまう。


「……アビドスに、陸八魔さんが向かいました。それと……これを、と」


「何これ、……武器?」


黒と、紫で装飾された、どこか、見覚えのあるショットガン。


「陸八魔さんに預けられました。もう使う人はいないから、と」


「……何言ってるの?セリナちゃん。便利屋でアビドス近郊で戦線敷いてるんじゃないの?」


だって、そうだ。

この武器は、あの子の部下が……。


「ぁ……」


一度だって、言ってない。

彼女は、ただ、戻るとだけ、いっただけだった。


あの時の便利屋ちゃんはどうだった?

……普段のコートすらなく。囲んでくれる仲間もいない。


たった一人で、……。


「ずるいんじゃない?便利屋ちゃん。自分だけ。そういうのは……」


数時間後、アビドス砂漠の大崩落とともに、ビナーと呼称された存在は機能を停止した。


社長ちゃんがこの病室に訪れることは、二度となかった。

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