プラネル短編詰め合わせ

プラネル短編詰め合わせ



軽めのホラー描写があります


ワンクッション










【バイビーマイキーサヨウナラ】

顔の無い身体を乗っ取った日、アサガオは力を振り絞って咲いた。鮮やかな紫の彩りがその身体の新たな顔になった。やいのやいのと暴れて成敗されても元に戻らないまま、街に溶け込んだ。


そのせいか、首を切られる以前の身体の持ち主はどんな性格だったのかてんでわからない。きっと首ごと持っていってしまったんだろう。


頭は街のどこかにあるような確信がある。

一度は探しに行ってみようとしたこともあるのだが、急に身動きが取れなくなった。

身体自体がそれを拒んでいるのかもしれない。何があったのやらてんで分からないが要らないならそれで構わないだろう。


なんて言ったって今の方が間違いなく美しく、自由だろうから。



【あじさい怨情】


お前のお陰で、身体の修復も進んで、探してたヤツも見つけ出せたよ。…本当感謝してるんだぜぇ?……色は変えられないまんまだけどよぉ。


ああ、身体が気に入ったって訳じゃあないさ。身体にぴったりと収まって抜け出し難いってだけで……ああでも、身体が俺を追い出したことがあるんだよ。嘘じゃあねえよ?


探してたヤツを見つけ出した瞬間に、凄え力で引っこ抜かれるようによお……。あ? 俺の意識はあったのかって? 

あったさ。俺が連れてきた身体が何をしたかも見たよ。


おう。探してたヤツは…驚き…をもっと濃くしたような面して逃げようとしてよぉ…まあ、逃げれなかったんだけどな。


…新聞? へえ、もう知られてるんだな。

なら顛末は俺から話す必要は無いわなぁ。


…ん? 身体がしたことは伏せておく? 

良いのかよそれ。



【白夜の楽園side s】


時間はかかったが俺が持っていた財の全てを投げ入れて、弟の遺体を凍結させ、シェルターを作り上げた。

これで弟の姿は人間の形をきちんと留めておける。

この暗いシェルターで、弟の姿と共に居られる。久遠に等しい時をすごせる。


凍結されたケースの中で目を閉じている姿はまるで眠り姫のようだ。

口付けはしない。側に並ぶだけだ。俺達は兄弟なのだから。


すべての準備は終わった。

この中に入れば俺は弟の隣に……。

もう全て投げ打ってしまったのだから、お前の為だけに…。


ああ、大丈夫だ。俺もそっちに……白夜に向かうから。

またすぐ一緒に会えるさ。もう離れ離れにはならない。寂しい想いをさせたりはしない。


また、すぐ、


ほら。





「はて」


目が覚める。途端に夢の中の寒さから解放される。うっすらと意識を掠めるそれは夢というものの名残なのかもしれない。

傍らには心配そうな顔の弟がいる。科や属、種が違うけど兄弟だ。今日も鮮やかに青い花を咲かせている。


「兄さん、大丈夫?」

「大丈夫だ」

「……ねえ、あに」

「うん。どうしたんだ、弟」

「寝ていたら誰かの悲しい声が聞こえた気がするんだ」

「気のせいだよ」

「やっぱりそうかな、兄者」


「だって今いる場所は日当たりの良い楽園だよ」

「そうだったね」


燦々と照り付ける陽光が、悲しいを流していく。

悲しいと感じていたことすら、いずれ忘れてしまえるだろう。



【春風の白昼夢】


よう。たしかアンタは……柁と仲良くしてくれてる坊っちゃんじゃなかったか?

元気そうで何よりだな。


俺か? まだまだ六分咲きって所よ。

昔話を聞かせてくれ? 

突然だな。

俺たちはお前ら人間みたいな時間感覚はあまり無いからなー。んー…昔の話ね…。


じゃあ、何もかもを失った人間の話とか?

確かな……


………………

………………

………………

………………


そう、随分前の話でした。


ある時冤罪をきっかけに何もかもを失った私は春の日に何かが完全に切れてしまったんです。

きっとそれは人が人として生きていくために必要な一本の線のようなものだったのでしょう。

その線が切れて……私はもう決して生きていくことなんてできないという確信だけが残りました。


満開の桜。亡き妻が愛した花でした。

いつだったか一緒に花見に行ったことを思い出して、無性に泣きたくなりましたが泣けませんでした。きっと涙なんて枯れ果てていたんでしょう。あの一本の線が切れたのと同時に。涙は生きていくために必要なものですから。


咲き誇る桜の花弁は私には遺体に這い寄る蛆に似た何かに見えました。美しいと感じることも私は出来なくなっていました。

しかしきっと一般的な人なら満開の桜を前にし

美しいと感じるのだろうということは分かっている。


桜の樹の下には死体が眠っている。

そんな話がありましたよね。悍ましい死体が桜の樹の下で養分になるからこそ、美しく咲くという話。

埋まり、美しさの糧となるのは御免だ。樹の下に埋まればきっとそうなる。


だから、私は見苦しく首を括って死ぬことにしたんです。ぶら下がった生々しく醜い死体は、美しさを霧散させる。


そう思って、太い枝に丈夫な縄を縛り、輪に首を通したのでした。


ええ。

これで私の話はおしまいです。

これ以降はもう何もありませんよ。



………………

………………

………………

………………


………っと、さて何のの話をしていたんだっけな?

お坊ちゃん。



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