ブーケトスを受け取ったエース概念

ブーケトスを受け取ったエース概念

トレエスに脳ミソ焼かれまん民


今あたしは、知り合いの結婚式に参加してる。

梅雨時にも関わらず澄み渡った青空の下、純白のウエディングドレスを纏った花嫁は、あたしの知らない人に見えた。

本当に綺麗で、幸せそうで、いつもより少し大人びていて・・・、見ているあたしも幸せな気持ちになる。


──いつか、あたしも。

思わずそう思いたくなる様な、そんな結婚式だった。

その挙式の最後、ブーケトスが行われた。

あたしは一応参加したけど、そこまでの熱量も無かったので、端っこの方で手だけ上に上げて待ってた。

新婦が背を向けてブーケを投げる。

あたしの方に飛んで来る。

他の人が強く押し寄せてきて、少しムッとしてしまう。負けねえぞ。

あたしは他の奴らより高くジャンプして、手を伸ばしてブーケを掴み、握りしめた。

着地して、そのまま戦利品を更に高く掲げる。

どうだ!あたしの勝ちだ!


周りからオ~って歓声と、拍手が起こる。

その中に

「カツラギエースが取った!すげー!」

「そんなに結婚したかったのか…もう相手の人いるのかな?」

って話す声が聞こえた。

自分の手にある物とその意味。そして自分の行動を思い出す。

自覚してしまい、顔が熱くなってきたのを感じる。

──この後、披露宴に移るというアナウンスが流れるまで、あたしはその場から動けなかった。


その後の披露宴も恙無く進行して、あたしは知り合いを祝福した後、二次会には参加しないで帰ることにした。

辺りは既に暗くなり始めている中、式場を後にする。

式場の駐車場で、トレーナーさんが車を待たせてくれていた。


2か月程前、式の招待状をもらったとき、トレーナーさんと予定を相談した際には一人で行く予定だった。

でも少し前トレーナーさんが、

「エースに何かあったら嫌だし。それにできれば、一緒にいたいからな。──ダメか?」

そんな事を言われたら、断れる訳がない。

結局、朝から車で都内にあるこの式場まで送ってもらって、式の間は近くで待機してもらってた訳だ。


「トレーナーさん!ありがとう、待たせたな!」

トレーナーさんの車に乗り込んで、お礼を言う。

「お帰り、エース。どうだった、楽しかったか?」

「ああ!二人とも幸せそうで、なんていうか、素敵な結婚式だったな。」

本当に、そう思う。少し、憧れてしまう。

そしたらトレーナーさんが

「それは良かった」って笑って、

「ところで言い香りだけど、それは?」とあたしが持つブーケを指して聞いてきた。

「これは、その…ブーケトスで貰ったんだ。」

その一幕を思い出した恥ずかしさもある。だけどそれ以上に、その意味について、恋人の隣にいると強く意識してしまい、また顔が赤くなるのを感じる。

「そ、そうか…良かったな!それじゃ、車出すぞ?」

トレーナーさんも、その意味を知ってるのか、少し動揺しながら、車を走らせた。


微妙な沈黙に包まれたまま、車が走る。

車内に入るとブーケに使われた生花の香りを強く感じる。

この花が枯れる前に…なんて、ありもしないことを、つい考えてしまう。

横目でトレーナーさんを見る。

なんだかとても緊張しているみたいだ。

もしかして、あたしがブーケを持ってきたから、変にプレッシャーを感じてるのかな?


確かに、あたしにもそういう願望は有る。

何度かトレーナーさんと、そういう風になることを妄想してしまった経験も。

でも、別に今すぐとかそういうつもりもないし、まだ当分は今の二人のままでも、良いなって、そう思ってる。…まだ、だけど。


そんなことを考えてると、トレーナーさんが

「なあエース!」

突然この距離には似つかわない大きさで切り出した。

「お、おう…どうしたんだ?トレーナーさん。」

あたしは驚きながらも返事をする。

トレーナーさんは、言い出した側なのに、何故かやけに緊張しているように見えて、深呼吸してから

「来週の土曜日なんだけど、その、1日付き合って貰えるか?」

そう聞いてきた。

「? 大丈夫だけど?」

トレーナーさんはそれを聞くと、

「ああ、良かった」って言った後微かに、まずは良し。って言った。ウマ娘には聞こえてるぞ、それ。


それにしてもデートのお誘いなんて、別に今までにも何度もしてるのにどうしたんだろう。やっぱりブーケのせいで、変に考えすぎてるのか?

「じゃあ来週の土曜日、1日お願いな?」

トレーナーさんが安心した様に、確認してきた。

「ああ」

来週か、そう思ったときに、式での新郎新婦の姿をふと、思い出した。

これからずっと、一緒にいる二人。毎日顔を合わせて、幸せな1日を過ごすであろう二人を。

そう思うと、来週というのが凄く、遠く感じてしまった。

──だから

「いや、やっぱ嫌だ。」

え、っとトレーナーさんが絶望したような顔で、声を出す。

「明日が良い。」

今度は──どんな表情だそれ。運転中だから、前を向いて半分しか見えないけれど、それでもその表情は驚いてるのか悲しんでるのか良く分からない表情だ。


「え、明日。明日!?」

パニックになってるみたいだ。運転大丈夫か?

「ああ、明日が良い。別にどこかにお出かけとかじゃなくても良い。ただトレーナーさんと一緒にいたいんだ。」

ワガママなのは分かってる、けどやっぱり、一緒にいたいって、思うから。

「来週のあんたの用事にも付き合うから、…ダメか?」

少し、上目遣いしながら、トレーナーさんを見る。

トレーナーさんは、前を見ながら

「服は…大丈夫。物も…ある。天気も…来週まで大丈夫」

なんて小声で言ってる。なんだ、買い物行きたかったのか?


そしてしばらく悩んでいたみたいだった。

別に嫌なら、仕方ないんだけど──少し悲しさと寂しさを感じながら、そう言おうとしたら、トレーナーは意を決した様に言った。

「分かった。明日!1日付き合ってくれ!」

いや、付き合って欲しいのはあたしなんだけど。

でも、1日一緒にいてくれるって言うのなら、何だっていいな。

さっきまでの悲しさもどこかに吹き飛んだみたいだ。

今はただ、明日が来るのを待ち遠しく感じている。

トレーナーさんは、まだ緊張しているみたいだけど、それでも少し落ち着いてる様だ。


さっきとは違い、心地よい沈黙が流れる。


──あたしはこの時知らなかった。この日トレーナーさんがあたしを待ってる間、どこかに行っていたことを。

この車の荷台に、紙袋が積まれていて、その中に小箱が入っていること、そしてその中身を──


次はあたしの番、手に持ったブーケを抱き寄せる。

いつか、そうなるといいな。

いつか、言ってくれるといいな。

そう願いながら、あたしは隣の恋人を見つめる。

でも今は、早く明日が来て欲しい。

心から、そう思う。

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