ブルーバード

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 ※故人をテーマにしている為、閲覧注意です。


――あぁ、それですか? それは私が昔、子どもの頃に買った髪飾りですね。


トレセン学園に入るずうっと前。

実家の神社の石段を登るのにも一苦労していた頃。

まだ私の隣にお姉ちゃんが居た頃のお話。


その頃の私と言えば、今とは違ってとても自信に満ち溢れていたように思います。それが井の中の蛙であったからなのは間違いないんですけれど、子ども心にはそんな事は関係なくて。


広大な敷地を誇る実家の神社が、誇らしくて仕方がなかったんでしょうね。

そんな境内を駆け回るだけで、冒険心を満たされて。

お姉ちゃんが探しに来るまで暗くなった事に気づかなかったなんて事もたくさんありました。


――こら! フク! こんな時間まで何してるの!


って。

大好きなお姉ちゃんと言えども、当時の私は幼かった事もあって、素直には従いませんでした。

いやだいやだ、まだ遊ぶの、と涙ながらに訴えてた気がします。


そんな私にやっぱり手を焼いてたんでしょうね。

当時の写真が纏めてあるアルバム、そこにあるでしょう?

見てもらえれば分かるんですが、小さな頃の私はわんぱくで、わがままで、泣き虫で。

なんでも出来る真面目なお姉ちゃんを困らせてばかりだった。


子供ながら、どこか負い目もあったんだと思います。

何か恩返しが出来ないかなって色々考えて、とある日に思いついたんです。

お姉ちゃんに髪飾りをプレゼントしようって。


思い立ったが吉日。

その日から私は貯金を始めました。

近所の駄菓子屋さんでいつも買っているくじ付きのお菓子を、涙ぐみながら諦めたり。

神社のお手伝いを率先して行って、お小遣いを貰ったり。

自動販売機の下に手を伸ばして小銭を拾うなんてのもやってましたね。

思いつく方法はなんでも試して、財布の中身が小銭でいっぱいになった時。


お姉ちゃんは病院へ運ばれて行きました。


その辺りの記憶はあんまり覚えてないんですよね。

いつも強くて優しくて、なんでも出来るお姉ちゃんが白いベッドで寝ていて。

絵本で見たお姫様にもダブって見えたんでしょうね。なんだかもう目を覚まさないような気がして、病室を飛び出したんでしたっけ。


それから少し時間が経って、何度かお見舞いに行ったのは覚えてます。

私が来ても目を覚まさないお姉ちゃんの顔はとてもキレイで。でも、最初にここで見た姿と変わらない事も確かだったんです。

だからこそ、お姉ちゃんになにかしてあげられることは無いかって思い始めたのがその時でした。


思い立ったが吉日。

こんな悲しい日は終わりにしないといけない。

私が終わらせてあげないと、お姉ちゃんが帰ってこないんだって奮い立ったんですね。

そこからは早かったです。

普段はつまんないからって着いていかない、普段のお買い物に連れて行ってとせがんで。

両親も驚いてました。でも、最近の私がお金を貯めてたことは当然知ってましたので、すんなりと連れて行って貰えて。

両親も気を利かせてくれたんでしょうね。普段は行かないようなおっきなデパートに車を走らせてくれました。



初めて入るデパートは、すっごくキラキラしてました。

でも、ここではしゃいでたらいけないと思って、気合いを入れて一歩を踏み出したような気がします。

お母さんの手を引いて、色んな売り場を駆け回って。

今思えばかなり目立ってたんじゃないですかね。

でも、お父さんもお母さんも文句一つ言わずに着いてきてくれたんです。

そして、ウマ娘用のアクセサリー売り場を見つけまして。

その中から選んだのがこの髪飾りなんです。


なんでこの髪飾りを選んだのかはあんまり覚えてないんですけどね。

お姉ちゃんに似合うかなって、その一心で探していて、これが目に留まったのは確かなんですけども。

今ほどラッキーとか占いとかに興味は無かったと思うんですけど、これがあればお姉ちゃんは良くなるに違いないって、確信にも似たひらめきがあったのは間違いないです。

売り場の綺麗な店員さんに包んでもらって、足りない分はお母さんに払ってもらって。

他の買い物が終わってないのに、早くお姉ちゃんの所に行こうってせがんでたなあ。


お買い物が終わってから、すぐに病院へ向かいました。

走っちゃいけないのも頭では分かってましたけど、抑えられなくて。早歩きというには無理がある速さで、お姉ちゃんの病室まで行きました。


そしたら、寝ているはずのお姉ちゃんが起きてたんです。

後になって聞いた話では、今の今まで昏睡状態だったらしくて、どうして意識が目覚めたのかお医者様も困惑してたみたいでした。

でも、そんなことは当時の私には関係なくて。

買ってきたプレゼントをお姉ちゃんに渡す事しか頭に無かったんです。


はしゃぐ私をよそに、お姉ちゃんがゆっくりとリボンを解いてくれて、中に入ってる髪飾りを見た時、やさしく頭を撫でながらお礼を言ってくれました。



――ありがとう。フクのくれた髪飾り、大切にするね。



うん。って答えた私は久しぶりに笑ってたようで。

お父さんもお母さんもお姉ちゃんに話しかけたかっただろうに、ずっと後ろで見守ってくれてました。

体調の話もそこそこに、お姉ちゃんが眠っていた間の取り留めのないお話しをして。

私が必死で髪飾りを用意した事とかもお姉ちゃんに全部話しちゃって、恥ずかしかったなあ。

そして、いつしか話す事も無くなって。

両親と一緒に病室を後にしました。

これが、私とお姉ちゃんの最後の思い出です。


そして、これがその髪飾り。

お姉ちゃんが付けることは終ぞ無かったんですけど。

それでも大切な私の思い出だから、こうしてしまっておいたんです。

……え? 付けてみないかって?

トレーナーさん、これはお姉ちゃんには似合うかもしれませんけど私なんかにはとてもとても……


でも、確かにこのままずうっとしまっておくのも悪いですよね。

じゃあ付けますので、ちょいとそちらを向いておいてですね。

いや、恥ずかしいものは恥ずかしいんです。

すぐ終わりますから。ほら。

どうです? 似合ってますか? って、頭を撫でないでくださいよ。

え? なにも触ってない? またまたご冗談を……




――よく似合ってるよ。フク。

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