ブライト×男トレ パジャマパーティー
「トレーナーさま、よろしいですか〜?」
「ああ、いいよ」
せ〜の〜、と気の抜けた掛け声に合わせて振り向く。そこには自分の着ているものと同じ、薄荷色の生地に白いラインが入ったふわふわのパジャマを着たブライトが立っていた。
「ふむふむ〜」
向き合ったブライトは、ゆったりとした動きで自分の周りを歩き、時折感触を確かめるように体に触れてきた。そして、一周して正面に戻ってきたところで、ぽん、と両手を合わせる。
「お似合いですわ、トレーナーさま〜」
「ブライトもすごく似合ってるよ」
「ありがとうございます〜」
上機嫌な様子のブライトが体と尻尾を揺らす。最初に彼女に「お揃いのパジャマで一緒に寝たい」と誘われた時には色々と懸念したことがあったが、その内の一つの「似合うか否か」は杞憂に過ぎなかったらしい。
ふわふわとした肌触りや着心地の良さに加え、普段の彼女の勝負服によく似た色味やデザイン。それ故か、気分も穏やかになってきそうだった。
「では、お休みいたしましょうか」
「そうだね」
照明を消してから差し出された手に引かれるままに、豪奢なベッドに上がる。パジャマの感触に程良い弾力が相まったそれには、思わず雲や綿菓子を想起した。
「いかがなさいましたか、トレーナーさま」
掛布団の中に共に入り、向かい合って横になった状態で、ブライトが問いかけて来た。心に残り捨て去れずにいた雑念が、繋いだままの手から伝わったのかもしれない。
「いや……少し、余計なことを考えてしまって。覚悟は決めておいたつもりなんだけど、ごめん、優柔……」
不断で、と言う前に、そっと唇に指が触れた。そして、彼女はふるふると首を横に振る。
「トレーナーさまが気に病むことはありませんわ。ただ、わたくしが無理な望みを持ち、トレーナーさまはそれに応えてくださっただけなのですから」
それに、と続けながら、ブライトはゆっくりと体をこちらに寄せ、そっと抱擁を交わしてきた。
「トレーナーさまがどのような行いをしても。どう感じ、どう考えても。またそれが、たとえ万人から非難され、見下げられるようなものであっても、関係ありませんもの。トレーナーさまがわたくしを受け止め、支えてくださったように、わたくしも同じことをするだけですわ」
顔を寄せたブライトの声が、耳だけでなく胸元から、さらに心へと沈み込んでいき、強張った思考と体から緊張が解けていく。
「……ありがとう」
「どういたしまして、ですわ〜」
お腹の横から手を回し、ブライトの体をそっと抱く。厚いパジャマ越しでも、その華奢な肢体から柔らかさが、温もりが、安心感が腕を通して伝わってくる。
「あっ……トレーナーさま……」
すると、ブライトが一瞬何かを言おうとし、口ごもった。
「どうしたの?」
「いえ、その……少し、どきどきとしてしまいまして〜」
サイドランプの淡い光が、やや紅潮したブライトの顔を照らす。背中に回した手からも、若干早くなっているらしい鼓動が微かに伝わって来た。
「ご、ごめん。調子に乗っちゃった」
「いえいえ、嫌ではありませんわ〜。ただ、わたくしの方こそ覚悟が足りていなかったようでございまして。少々驚きはしましたが、今は、とっても嬉しいのです〜」
慌てて手を戻して離れようとしたが、ブライトは照れたように笑いながら首を横に振り、より確かに自分の体を引き寄せてきた。
「ですから、このままでいいのですわ……夜を共にし、互いに触れ合う。それが自然な行いとなるまで、歩んで下さいますわよね、トレーナーさま?」
胸元から上目遣いで訊いてくるブライトへの答えは、一つしかなかった。今までも、これからも、自分はずっと変わらずそうあり続けるだろう。
答えを聞いたブライトは満足げに微笑み、自分もそれにつられて笑みを浮かべる。
夜はゆっくりと更け、明けていった。