フーシャ村にて

フーシャ村にて


鳥の鳴き声がする。

窓の隙間からの光で目が覚めていく。

朝が来たと体を起こそうとするが、腹に巻きついている腕が重い。

「…ルフィ。朝だよ、起きて。」

少し声をかければ、彼も体を起こした。

昨夜の片付けの後に身支度と軽い朝食を済ませ、

一日の仕事に取り掛かり始める。

天気は快晴。夏のフーシャ村は今日も穏やかだ。


私達は今、フーシャ村の外れの土地に暮らしている。

あまり村に行きたがらないルフィに家畜の世話を頼み、

私がよく村との間での仕事を済ませていた。

今日はマキノさんのところへ届け物をするのと、また食材を買ってこなければならない。


「失礼します、マキノさん。」

「あぁ、来たのねウタちゃん。」

流石に昼間の酒場はまだ客もなく静かだった。

一人準備を進めるマキノさんに自家製の乳製品を渡す。

「いつもありがとうね。はい、これ。」

「ううん、ごめんなさい。またこんなに…」

マキノさんは優しい、本来の相場より少し多めの代金をいつもくれた。

おかげで生活に困ることはあまりない。

「いいのよ、二人の作ったの、結構人気あるのよ?」

「そうなんだ、良かった…あれ、これ…。」

カウンターに置いてあった新聞が目に入る。

「あぁ、またエレジアで音楽祭をやるんですって。気になる?」

「少し…、凄いきれいなんだって話だから。」

音楽の国…もし私がまだ船に乗っていたら、いつか行くこともあったのだろうか。

…今の私には関係ない話だが。

「…それで、どう?最近のルフィは…」

「…特に問題ないです。体調も元気ですし…。」

「そう…。でも何かあったら、ちゃんと相談してね?」

「はい…ありがとうございます。」

やはりマキノさんは優しい。

村の中心に一切顔を見せなくなったルフィを誰よりも心配してくれる。

その心遣いが嬉しかった。


その後、魚屋と八百屋で買い物を済ませ、家に戻る。

途中でふと、遠くに見える山を見る。

コルボ山。少し前、女棟梁の率いる山賊の話を聞いたこともあるが、

今はどうなってるのか分からない。

…すぐに家に戻る。

これ以上は嫌なものまで思い出してしまいそうだ。

帰宅して、二人で夕食を取る。

あまり賑やかとは言えないが、その日の家畜のこと、村のこと、覗いた新聞のことなど、

一日で最も会話が弾む時間だろう。

魚屋で少しおまけしてもらえたため、少し豪華な食事にできた。

今度お礼を言わないとだろう。


その後二人で入浴を済ませ、明日の予定を確認し、寝室に行く。

すぐにベッドに倒れ込んだ彼に続いて、私も体を横にする。

既に目の前のルフィは寝息を立て始めている。

それに釣られるように、私も意識を沈めていった。


〜〜


突如目が覚める。

不思議な感覚の中目の前を見ると、一回り大きい酒場の扉がある。

なぜ私はここにいる。それを考える前に手のひらに鈍い痛みが走る。

確認すれば一本の赤い線が走っている。

それだけじゃない。全身を見ればお気に入りの服のあちこちが葉っぱと泥で汚れている。

ー自分は何をしていた?なんのためにここに来た?


"いでェ!いてぇよ!"

"やだ、やめてくれ!やめて…!"

"逃げ…ウタ……"


動悸が激しくなる。

息が荒くなるのが止められない。

すぐに酒場に駆け込もうとしたときだった。

視界が突如灰色に覆われる。

昔シャンクスの言っていた映像電伝虫のノイズのようなものが広がる。

ノイズが明けたとき、また景色が一変していた。

眼前に広がる闇と森。月の光がうっすら刺すその先には…


『すまない……ルフィ、すまない……』

『ウグ…ヒ…ヒグ…』

頭を垂れる父と、ひたすらなにかに怯える全裸の幼馴染。

すぐにホンゴウさんやマキノさんが駆けつける中、私の足は一歩も動かない。

ただ静かで暗い世界で、彼の呻き泣く声だけが耳に響いた。


〜〜

…体が重い。

目を覚ますと、そこはまた見慣れた寝室だった。

…自分が寝たはずの同棲人に押し倒されてる点を覗けば。

「…ルフィ?どうしたの?」

問いかけても、目を血走らせ、息を荒くする彼は答えない。

…今日も駄目らしい。

「…分かった。」

そう言って、彼の首に腕を回す。

引き寄せられたルフィの顔がすぐ目の前まで迫る。

彼の呼吸がよく感じられる。

「いいよ、来ても。」

言ったそばから唇を塞がれ、口内を容赦なく喰らわれる。

荒々しく彼の手に寝間着を剥がされていく。

今夜もまた、激しい暗闇になるのだろう。



始まりはいつだっただろうか。

最初はこんなことじゃなかった。

村の人どころか赤髪海賊団にすら怯えるようになってしまったルフィは

酒場のマキノさんか私と共にいることが増えた。

特に私は彼のそばを離れたくなかった。

自分を庇って一生の傷を負った少年を守りたかった。

だから、ふるさとでもある船を降り、やがて父たちの出航を見送った。


最初の異変は次の夏だった。

この時期はルフィが今まで以上にそばにいたがった。

夜に抱きついて泣く彼を少しずつ落ち着かせるのが日課になっていた。

やがて来たルフィのおじいさんも、ルフィをフーシャ村に任せることを決めたらしい。

私はルフィと一緒に暮らし、励ましていた。


やがて年月が立ち、お互い歳を重ねた。

それでもルフィの男への恐怖は拭えることなく、

村の外れでの暮らしは変わらなかった。

私もそれで良かった。

家畜の面倒を見て、村の人達と交流して、

夜には幼馴染と過ごす。

それが当たり前になった。


何かが狂ったのは一年前の夏だった。 

その日、中々寝付けなかった彼を寝かせようとしていたとき、

いきなり組み倒された。

何が起こったのか分からなかったが、目の前の男の子が、何か別のものになった、それだけは分かってしまった。

むりやり貫かれ、痛みと苦しみの中ひたすら行為を行われた。

終わったあと、突然の恐怖と混乱の中で泣いていた私の目に映ったのは、ベッドの反対で震えて泣くルフィだった。


それ以来、夏の夜はルフィに犯されるようになった。

夜になると理性を失ったかのようになる彼の相手をする。

終わったあとは、まるで一人ぼっちの子供のように震える彼を側についてあげる。

それが当たり前の日々だった。

それ以外何ができただろう。こんなこと誰にも言えない。

仮に拒めば、彼がどうなるか分からない。

フーシャ村からルフィの居場所がなくなるくらいなら、私一人で相手していれば被害などないも同然だろう。

…何より、これも一つの償いなのだろう。

あの日、彼の悲鳴を背に逃げ出してしまった自分が、

やっとあの日の罪に向き合うときが来た。

ただそれだけなのだ。



ベッドに倒れ込む。

やっと今日の行為が終わったようだ。

ぼやける視界の中、なんとか意識を保とうとする。

去年、秋になるにつれ彼の衝動は落ち着きを見せ、冬には完全に行為はなくなっていた。

その代わり、彼はもう村に顔を出すこともなくなった。 自分でも、何をするのか分からないのだろう。

だから私が村との繋がりを受け持っていた。

そうして訪れたこの夏、また彼は夜の衝動を抑えられなくなった。

しかも去年よりもさらに悪化している。

去年は手を出されなかった後ろの不純の穴も犯されるようになった。

そちらは未だに慣れないし痛い。

…だが、当時の子供だったルフィはこの痛みと恐怖を受けていたのだ。

そう思えば、このくらい気になど止まらない。

なんとか意識を保ち隣を見る。

行為を終え倒れたルフィは、また隣で震えている。

行為のときは彼の恐怖する凶暴な雄になるというのに、

終えたあとの彼はまるで小さな子供のようだ。


そうだ、子供なのだろう。

あの日から、幼い彼の心の奥底はずっと壊れたままなのだろう。

だからこそ、誰かがついてないといけない。

そしてその誰かを、自分以外に委ねたくはなかった。 

背中から震える彼の体を抱きしめる。

「…大丈夫。私は大丈夫だから。」

そう繰り返しながら、彼の頭をゆっくりなでてあげる。

そうすれば、やがて泣き止んだ子供のようにルフィも眠りについた。

…ほんとは色々と片付けたりしたいのだが、残念ながらそんな余力はない。

また明日の朝片付ければいい。そう思いながら意識を放した。



…いつまでこの日々を続けられるのだろう。

いつまでもは無理だろうと分かっている。いつか瓦解する日常だと理解している。

だがせめていまだけは、今だけは、私だけが彼に寄り添ってあげていたい。

彼がまた進めるようになる、せめてその時まで。


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