フナ釣りの夜

フナ釣りの夜


ページワンの夜釣りの習慣は

すっかり知られるようになった。

-今夜はフナ釣りだ。

鬼ヶ島の小川で

1人釣糸を垂らすと心が落ち着くのが

よく分かる。

…やはり彼は釣りが好きなのだ。

孤独に水面を見つめていると

最近の釣り仲間達の顔ぶれを

思い浮かぶ。

-ここの所は誰かと一緒だったな…

仕事が立て込んでいるようで

馴染みのクイーンは今日は居ない。

…日々の喧騒に疲れて始めた夜釣りだった。

最近はその夜釣りすら騒がしい事が多い。

-暫く、1人で釣るのが良いかもしれない

釣りの良さを教え楽しんでくれる

様子を見るのはとても嬉しい。

一緒に釣りをしてくれる仲間だって

とても有難い。

しかし…1人になりたい時はある。

今がそうだった。

「ページワンか?」

怠そうに視線を向けると

釣具を手に持つフーズ・フー。

「…どうも」

覇気無く挨拶を交わす。

「くたびれてんなぁ」

苦笑いで返すフーズ・フー。

「…一緒に良いか?」

「…どうぞ。よく俺がここにいると

分かりましたね」

「夜目は効くのさ、虎だからな」

それもそうだった。

フーズ・フーは適当な距離を取り

釣糸を垂らし始める。

「今日はくたびれてんなあ…

クイーンか?」

「そういう訳では無いんですけど…」

「…うるティか?」

「いや…」

単に1人になりたいだけです、と

どうオブラートに伝えようか

悩むページワンだったが

「そうか」

とだけフーズ・フーは返すと釣糸に

視線を向けた。

沈黙の時間。

それは朝が来るまで続いた。


朝日が照らす小川でページワンは

釣り上げたフナを見つめる。

上手く釣れるとやはり嬉しい。

「…大漁か?」

ちらりとページワンを見ながら

フーズ・フーは尋ねてくる。

「あんまり釣れないですね」

気を落ち着かせる事が出来たので

ある程度余裕が出来る。

「そうか。俺の方はさっぱりだ」

ふと見ると確かに釣果は芳しく無いようだ。

こんな日もありますよ、

とフォローする。

「なあ」

おもむろに声を掛けられる。

「…うるティは誘わねえのか?」

視線は合わさず聞かれるが

ページワンは少しドキリとした。

答えられずにいるとフーズ・フーは続ける。

「…たまには一緒に釣りしてやれ。

鮪宴会に行く途中で俺に愚痴ってた。

ブラックマリアにもな」

「…そうですね」

「…嫌いでは無ぇんだろ?」

「…はい」

小さな返事をする。

「姉貴は…ガキの頃からよく気に掛けて

くれましたよ」

更に小さな声で答える。

「鬱陶しいのも分かるがな」

あくまでも視線は水面からそむけず

フーズ・フーは続ける。

「…急にうるティが居なくなったりしたら

伝えたい事も伝えられねえからよ」

フーズ・フーは下を見続ける。

ずっと水面に写る自分に話し掛けている

ようだった。

「まあ…大人から…クソガキへの言葉さ」

喉で静かに笑うフーズ・フー。

何か言葉を掛けようと言葉を探すも

ぷるぷるとページワンのタニシが鳴り出す。

出ると、よく知った声に話し掛けられた。

-ぺーたん?どこでありんすか?

「行ってやれ」

タニシに聞こえないように

フーズ・フーは囁く。

「すみません、フーズ・フーさん」

タニシと釣具を手に

ページワンは走り去って行く。

背中を見送りながらポツリと呟きだした。

「…理不尽に立場と仲間を失って

後から大切さに気が付いても…

もう遅いからな。

その前に伝えとけってんだ…」

彼の独白は誰にも聞かれる事は無かった。

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