フジシャカール
不可思議なことはいつだって何気ない日常から始まる。
「おや?メールだ」
「アクセサリーの懸賞…あぁ、前に送ったものか。意外と当たるものなんだね」
〜〜〜
「…ここのデータは前回より下降したか。今のうちに更新、と…」
「あ?メールか」
どうやら、この前雑誌に付いていた懸賞を何となく送った所、当たっていたらしい。
「もう発送済みなら明日頃には届くか?」
2人のウマ娘が同じ懸賞の同じ商品に当選したことがきっかけだった。
〜〜〜
数日後
フジキセキ「あっ、シャカール!」
シャカール「フジか。お前その耳のヤツ」
フジキセキ「シャカールも懸賞を?」
シャカール「あァ。どうやらお前と俺が当たったみてェだな」キラッ
シャカールはそう言うと、右耳につけたピアスをフジキセキに見せる。金色で丸っこい形をしたそれは、見た目は変哲のないピアスだがどこか不思議な雰囲気があった。
フジキセキ「おや、君は右耳のが来たんだね。私は左耳のが来たよ」
フジキセキのピアスも、シャカールのと同じような形をしていた。
シャカール「左耳用もあったのかよ。オレには片方しか来なかったから誤発送かと思ったのによ」
フジキセキ「あはは。でもこうしているとシャカールとペアルックみたいだ」
シャカール「…変なこと抜かすなキモチ悪ィ」
その時だった。
シャカール「ん?おい、お前のピアス光ってねェか?」
フジ「あれ?本当だね。でもシャカールの方もっうわっ!?」
シャカール「は!?」
二人のピアスが光り合ったかと思うと、二人の体は引き寄せられ…
〜〜〜
トレーナー「…で、こうなったと」
エアシャカール「…あァ。」
フジキセキ「そうなるね」
トレーナーはその後、二人から話を聞いていた。しかしこの場を見た者は不思議に思うだろう。
その場にはトレーナーともう一人のウマ娘の2人しかいないのに、何故3人分の声が聞こえてくるのかを。
そう、今のフジキセキとエアシャカールは合体して一人のウマ娘となっていた。
そのウマ娘は、エアシャカールのような鋭さとフジキセキの優しげな雰囲気が合わさったようなウマ娘だ。
「にしてもまぁ、二人がそんな嘘付くような子じゃないしトレセン学園自体オカルトとか変なことばっかり起こるから本当なんだろうけど…」
トレーナーが少し溜めてから口を開く。
「俺、君らのことなんて呼べばいい?」
「「気にするのはそこじゃない(ねェ)よね?(だろ!?)」」
「取り敢えず2人きり…いや3人きり…?の時は呼びづらいから二人合わせてフジシャカールって呼ぶね」
フジシャカール「呼び名はどうでもいい」
フジシャカール「なるほど、トレーナーさんが普段私達を呼ぶ名前を合わせたのか。シンプルだけどいい名前だね♪」
フジシャカール「お前も乗っかンのかよ…」
シャカールはせめてこの状況でも自分だけはロジカルでいないといけないな…と嘆いた。
トレーナー「で、なんでそうなったかを解明する前に二人が今後どう過ごしていくか考えよう」
フジシャカール「賛成」
エアシャカールとフジキセキは同じ寮ではあるが、部屋も違う。それにフジは寮長としての仕事もあるし、シャカールはプライベートではmonad!としての活動もある。
それに何より、二人は走ることへの目標も違うのだ。シャカールは、己の前に立ちはだかる強大な7cmの壁を乗り越えるため。フジは、自身の走りで皆に感動を与えるため。
一応今の状態でも2人の目標を達成できなくもないが、果たしてそれは彼女自身で目標を達成したと言えるのだろうか?
トレーナー「それに親御さんらにもなんて言うかだ。あまり言いたくないけど、最悪一生このままかもしれない」
(シャカール)「親、か…」
(フジ)「そう、だよね…」
「あなたの娘さんたちは合体して1人のウマ娘になりました。一生このままです。」…果たしてそんなことを2人のご家族に言えるだろうか?
なんて説明できるだろうか。
3人に漂った重い空気を打ち破ったのは、トレーナーだった。
トレーナー「ごめん!自分で言い出してなんだけど、懸念事項はこれくらいにして、次はどうするか考えよう」
(フジ)「そうだね。嘆いていても仕方がないさ」
(シャカール)「オレも別に構わねェが…ただお前ら当てはあるのか?」
〜〜〜
昼休み
トレーナーとフジシャカールは、「当て」のウマ娘を探していた。途中すれ違う生徒らから怪訝な目で見られていたが、早々に目的の生徒は見つかった。
トレーナー「アグネスタキオン」
タキオン「ん?おや、君は…私に何か用かね?」
フジシャカール「実は…」
トレーナー「あ!こ、ここじゃあれなんで別の場所で話そう」
一行はタキオンの研究室に向かった。
〜〜〜
タキオン「ふぅン…なるほど。不思議なアクセサリーを着けた2人のウマ娘の肉体が合体した、と」
タキオン「どうやら君の体を調べたら、身体能力や体型などは、2人のウマ娘の能力を足して割った数値が出たらしいね」
タキオンはフジシャカールの体をジロジロ見回しながら呟く。
(フジ)「見られるのは慣れているけど、なんだか恥ずかしいね」
(シャカール)「おいタキオン、なんか分かったか?」
タキオン「なるほど、確かに2人の精神がそのまま1人の肉体に入っているらしい。ますます興味深いねぇ」
(フジ)「こんな不思議な出来事、博識な君でも何か分からないかい?」
トレーナー「なんでもいいんだ!もしあったら教えてくれ!」
2人の頼みも虚しく──
トレーナー「タキオン?」
タキオン「残念ながら私の知識ではそんな現象は説明できない。せめて言えるなら集団幻覚ぐらいかと思ったさ。しかし、こうして私と話ができていて君が鏡に映る以上は幻覚とは言えないだろうねぇ」
(フジ)「そんな…」
タキオン「だがウマ娘同士の、いや生物の肉体が合体するこの現象には私も興味がある。できるだけこちらでも調べてみようか」
(シャカール)「そうか…悪ィなタキオン。邪魔した。次行くぞ、トレーナー」ガララッ
(フジ)「また何かわかったらよろしく頼むよ」
トレーナー「お邪魔したね。ありがとうタキオン」
タキオン「頑張りたまえ」ヒラヒラ
バタン
タキオン「さてと、厄介なことに巻き込まれたものだねぇ。あの2人…えーと…フ…ジ……あれ?もう1人がエア…グルーヴは違うか。エア…キセキ?…ん?」
タキオン「………あぁそうだ!シャカールくんとフジ寮長だ。そうだった。」
…来訪者がいなくなった研究室で、部屋の主は呟く。
タキオン「…私は何故…
さっきからあの2人の名前が思い出せなかったんだ?」