フシデバタ先輩の執着の話
※ネリネちゃん以外身内以外どうでもいいか人間嫌いだからさあ!フシデバタ先輩も危機感ちょっとあったんじゃねえかなって!そういう夢というか願望というかまあそういうやつです!
カキツバタは、ときおり執念深い、と言われることがある。
それはテラスタル時の言動のことであったり、緩めのリーグ部の雰囲気を重んじているからであったりと根拠は様々だが、間違っているわけでもないので特に否定はしていない。
祖先であるフシデの血が濃く現れたカキツバタは、その性質もポケモンに近い。人間とは別のカテゴリに自分を放り込んでいるし、どちらも本当の姿ではあるが、気を抜いたときの姿はフシデのものだ。
むし・どくの複合タイプであるフシデはひどく攻撃的で、獲物に対する執着心も大きい。用いる毒は天敵であるとりポケモンの全身が麻痺して動けなくなるほどに強力なものだ。
弛んでいるのも、怠惰であるのも、否定はしない。楽園を気に入っていたのも居心地のいい巣に浸っていたのも、そのせいで3回も留年したのも事実であるので。レベルは足りているのに進化を選んでいないことも含めて。
ああ、でも、決してそれだけではないのだ。
執念深いのは嘘ではないけれど、いつでも正しいわけではない。
場に執着していることは認めるが、それが常に適用されるわけでもない。
むしポケモンは臆病だ。
肉食のフシデだってそれは変わらない。天敵に歯向かいもするが、追っ払いもするが、餌場に敵がいたならそこにはしばらく近寄らない。巣を荒らされたら二度とそこには戻らない。攻撃的であることとそれらは両立する。
執着はしても、手放したものには嘘のように興味を示さない。その性質を、フシデは、カキツバタはよく知っていた。ブルーベリー学園を卒業したと仮定したとき、シミュレーションの中で彼は一度も振り返らなかった。常に、名残惜しい気持ちとは無縁だった。
それでは、駄目だと思ったのだ。
一つ下の新入生にポケモンがいた。それはいい。カキツバタだってフシデだ。
彼女たちは人間が嫌いだった。それもいい。好悪の情はコントロールするようなものではない。
けれど、ブルーベリー学園は人間が通う場所だ。ポケモンも紛れてはいるが、人間の姿で、本性を隠して生活している。そんな場所で、人間嫌いのままではいつか絶対にトラブルを起こす。今はまだ、マリルリに対しては抑えられるし、ヨノワールにだって相性不利でも負けていない。しかしその先は? 負けるつもりなどないが、例えばポケモン勝負で敗れたとき。例えば一つ学年が上のカキツバタが卒業したとき。抑止力たりえた存在が消えたら、そのときどうなる。
必ずしも「ブルーベリー学園で」トラブルを起こすとも限らないが、懸念を抱えたまま卒業しても、昔の巣のことをすっかり忘れて興味もわかなくなってしまうと知っていたから。カキツバタにとっての楽園を維持したまま、在学中に「嫌い」のレベルを下げてしまいたいと思ったのだ。
まあ、そんな思惑と怠惰の結果繰り返した留年で、人間嫌いなくせして人間に憧れている……思春期らしいコンプレックスを抱えたキリキザンが入学してくるとは想定していなかったのだけれども。
「めでたしめでたし、元通り、とはいかないねぃ」
巣の「長」の座も譲り渡したし、どうにかしたいと思っていたことも解消されてきているし、そもそも自分の留年もどうやら歪みの原因であったらしい。本末転倒とはこのことだ。
伝説と呼ばれるポケモンは一般のポケモンとは文字通り視座が違う。
それはつまり、フシデにルギアの気持ちなんてわからないということと同時に、ルギアにもフシデの気持ちなんてわからないということだ。他者の気持ちがわかるなんて傲慢もいいところではあるが。
だが、いつかあの子供に扮するルギアがジョウトに戻るとしても、人間の姿で卒業する程度の猶予はあるだろう。
ポケモンとしては弱い部類に入るフシデだが、一個の命であるのは何であれ変わらない。故に誰についても臆する気持ちなどない。
誰にどんな思惑があるにせよ、カキツバタはカキツバタらしく振舞うだけだ。あと少しで終わる楽園を、名残惜しいと思いながら。巣だったあと、楽園を思い出さない自分を少しばかり寂しく思いながら。
カキツバタはフシデである。
その経歴から「自分が最初から人間であったら」とときおり夢想する、ポケモンとして自分を認識しているヒトになれるフシデである。
ふわんふわんとつかみどころのない言動を重ねる、人間と可愛いと思うフシデである。