フキヨセジムトレーナーが大砲テストでフウロにラッキースケベする話
「いや、しかし……すっげーなこれ」
あちこちに設置された大砲を見て俺は思わずつぶやく。
フキヨセジム。フキヨセシティにあるひこうタイプのジム施設。
フウロさんがこの街のジムリーダーとなり、それに合わせてこのジムの仕掛けも大幅に改築された。
ジムというのは旅に出たトレーナーの腕試しの施設でもあり、バトルの腕だけでなく知力も試されるということで基本どのジムにも担当タイプに合わせた仕掛けが組み込まれている。
そしてフウロさんが改築の際に希望したのが「トレーナーが大砲で飛ばされる」という仕組みだった。
なんでも「飛んでいるポケモンの気持ちを味わうため」だそうだが……いやしかし。
「このジムの面積だと吹っ飛んだら壁に激突しないか……?」
「一応壁ぶち抜かない程度の威力にはなってるらしいっすよ」
「いや、ぶち抜かないにしてもだ……」
ガイドのお気楽すぎる返事に脱力する。フウロさんは自他ともに認めるぶっとびガールではあるが、流石にこの仕掛けはいくらなんでもぶっ飛びすぎだ。ジムに挑んでくるトレーナーには旅に出たばかりの子供だっているのに怪我したらどうするんだ。というか飛んでくるの待ってるこっち側も怖いだろこれ。ジムトレーナーの前に作業員である俺としては「アウトー!」と両腕でバツ印を作りたいところだ。
お前はどう思う? とモンスターボールからココロモリを出してみる。ココロモリはすっかり様変わりしたジムの様子に興味津々のようだった。ポケモン的には面白いのかねえ大砲、ポケモンの気持ちがわかればなあ。
「どう? いい感じー?」
「うおっ!」
いつの間にやらフウロさんが俺の後ろに立っていた。どうやら他の作業員にも意見を聞いて回っていたらしい。
ぎゅむ、とフウロさんの豊満な胸が俺の腕に当たる。布越しでもしっかり伝わる柔らかさ……ありがとうございます! じゃなくて。
「フウロさん、壁にクッションとか設置できなかったんですか?」
焼け石に水な気もするが。
「空港を模したデザインにしたかったからね……でも一応壁は衝撃を吸収できる素材を使ってるよ?」
「それは俺も聞いてますけど……うーん」
「ジムリーダーならやっぱりぶっ飛んだバトルがしたいもの! 大砲で飛べば気持ちもぶっ飛ぶでしょ?」
「ぶっ飛び……まあ、そうですね」
フウロさんにキラキラした笑顔を向けられてしまい、俺はそれ以上先の言葉を飲み込む。ジムリーダーというのはどこかしらネジが飛んだ人間にしかなれないものなのかもしれんな、うん。
「とりあえず実際にテストしてみないとね!」
フウロさんがごきげんな足取りで近くの大砲に向かっていく。ってちょっと待ったあ!
「いやいやいや、流石にテスト一発目からジムリーダーにやらせられませんって!」
「工事の時点でテストはされてるし大丈夫でしょ!」
「いやいや、もし何かあったらどうするんですか!」
慌てて追いかけ、なんとかフウロさんを止める。
口をとがらせて不満そうな顔のフウロさん。今にもぶぅ、とでも言い出しそうな表情だ。身長差の関係で俺を見上げる姿勢になっていて、くっかわいい。しかし俺も引き下がるわけにはいかない。ジムリーダーはジムの仕掛けで怪我して入院中ですなんてあまりにもギャグだ。ジムトレーナーに作業員が3人もいて未然に防げなかったのかとバッシングは確実だろう。嫌すぎる。
しかしジム改築お披露目の前に改めてテストは必要だろう。……心底嫌だが仕方ない。
「俺がまずテストしますよ」
犠牲になるなら作業員、さらには言い出しっぺの俺しかあるまい。渋々俺は大砲でまず一発目にふっとばされることとなった。
フウロさんは俺が飛ぶ向こう側にスタンバイしている。
「もし危なそうだったらアタシとスワンナが止めるからね!」だそうだ。
いやーしかし目がキラキラしているな。そんなに好きか、大砲。あたりを見回すとパイロットのソウイチやヨシアキも同じく目を輝かせていた。子供か。まあいい、俺だって男だ。一度やると言った以上、腹を括るしかないのだ。……本当に嫌だけど。
「……それでは、いきますよ」
俺は深く息を吸い込んで吐き出し、精神を落ち着かせる。首が折れたりしませんように、と祈りながら大砲の中に入る。
大砲内の重量センサーが反応し、発射準備と共にものすごいGが体にかかる。うおぉ……と思わず声を出しつつ、体が床から離れるのを感じる。そして一瞬の浮遊感ののち。
ズドォン!! という轟音が響き渡り、俺はとんでもない速度で吹っ飛ばされたのだった。
「テツハルさーん!!」
同僚のクリフが叫ぶ。グッバイ俺の首。風圧に抗いながらもなんとか顔を上げて向かい側のフウロさんへ視線を向ける。
フウロさんはスワンナの背に乗って飛びながら俺をじっと見つめる。普段はその明るさと誰とでも仲良く慣れる性格からフキヨセ空港のアイドルとも呼ばれるフウロさんだが、真剣な眼差しを向けられるとなるほどジムリーダーとしての風格ばっちりだな、と納得する。……などと感慨に耽っている場合ではない。
想像以上にスピードが落ちない。このままだとフウロさんに全力で激突しかねない、それはまずい!
「ふ、フウロさん避けて……!」
フウロさんが不敵に微笑む。一歩たりとも動かず、そのまままっすぐ俺を見据えている。ぐんぐんと俺とフウロさんの距離が縮まって、ああもう無理だと諦めて目を閉じる。どうか明日の新聞の一面を飾りませんように。
しかしいつまで立っても激しい衝撃と痛みは来なかった。むしろ何か、ぽふっという柔らかなものに当たったような……? そしてなんだか落ち着く暖かさを感じる。
恐る恐る目を開く。「大丈夫だよ」と優しい声が聞こえた。顔をあげると、すぐ近くに微笑むフウロさんの顔があった。
「え……?」
なんと、俺はフウロさんの胸に飛び込んでいたのだ。更にはぎゅっと抱きしめられさえもしていて、めちゃくちゃいい匂いがする。フウロさん結構大人な香水つけてるんだな、モコシの花の香りに似てるけどカミツレさんの紹介とかかな、じゃなくて、やっぱおっぱいメチャクチャ柔らけえ……じゃなくて!
「フウロさん!? 何で……」
「あのね、ココロモリがリフレクターをかけてくれたの」
「えっ」
「ぷおぉお~ん!」
横からココロモリの得意げな声がする。褒めて褒めてとでも言いたげにばっさばっさと羽を揺らしてアピールしている。
「あと、サイコキネシスもちょっと使ったのかな。一瞬ふわっとしたでしょ」
「た、多分……」
「リフレクターは今後もジムに張り巡らせましょうか。大砲の威力はもうちょっと調整したほうがいいかもね」
それにしてもアナタとココロモリとっても仲良しなのね、ステキ! とフウロさんが俺を抱きしめる力を強める。大きな胸がより俺の顔に押し当てられてむにっと潰れる。思わず股間に熱が集まりそうになりつつも慌てて腕を引き剥がそうとして、「こら危ない! まだスワンナが飛んでるのよ!」と再度抱きしめられる。スワンナの体はやや小ぶりだから乗るスペースが狭いということなのだろう。だからといってこんな向かい合う体制で、胸を押し付けられて、ああ周りの奴らの視線が痛い!
結局地面に降りるまで俺とフウロさんのハグは続行された上、「やっぱり自分でも試したい!」というフウロさんを今度こそ止めきれず同じくぶっ飛んだフウロさんを受け止めようとしてお尻で顔面に着地されたのはまた別の話。