フェリジットに甘やかされる
みぞれが降っていたことに気が付いたのは、背後から傘を差し出された時だった。
また一人、死んだ。自分が担いでいたときはまだ息があったのに。
もっと早く救援に向かっていれば助かったであろう彼を仲間達で弔った夜。真新しい墓石と花の前から立ち去ることができず、馬鹿みたいに突っ立っていた。
「風邪ひくよ。もう入んなさい。」
やっぱりここにいたのね、とマフラーを巻き付けてきながら、フェリジットは傘の中に入れてくれた。びちゃびちゃになった足元をよたよたと一緒に歩く。
「シュライグのせいじゃないんだからさ。もう今日は休も?」
「…あのとき、空から戦況を見られたのは俺だけだった。もう少し冷静になっていれば…」
「……あなたがあそこにいたから…他のみんなは無事だったのよ」
アジトに辿り着く。タオル持ってくるから、とフェリジットはストーブを付けて奥に消えて行った。
指先が冷えて痛みを訴えていたが、その火に当たる気にはならなかった。冷たい雪とコンクリートの上で、ひとり助けを待っていた姿を思い出す。俺が駆けつけたとき、彼はまた暖かい場所に行けると思ったのだろうか…
「ちょっとちょっと、せっかく付けたんだからあったまんな」
フェリジットが突然頭からタオルを被せ、ストーブ前の椅子まで引っ張ってきた。まったくこんなに冷やして、とワシワシ頭と翼を拭いてくれる優しい手付きが返って心苦しい。
「シュライグ…そうやって一人で抱え込むのはやめて?」
「…抱え込んでいるわけじゃない。でも、俺がもっとしっかりしていれば…」
「それを抱え込んでるっていうの」
そう言ってホットミルクも押し付けてくる。
「私だって悲しいし悔しい。私だけじゃない、みんな同じ気持ちよ」
そこで少し言葉を詰まらせたが、フェリジットは続ける。
「…最期に彼、言ってたじゃない。『シュライグさんが来てくれて安心した』って。あなたはちゃんと、助けられたのよ…」
バスタオルをシュライグの肩に掛け、フェリジットは後ろから包むように軽く抱きしめてくれた。
「自分がもっと強ければ仲間は死ななかったなんてみんな思ってるし、みんなあなたのことも助けたいと思ってるんだから…シュライグももっと周りを頼って、甘えて欲しいの」
「……」
ホットミルクに口を付ける。ほんのり甘くてあたたかい。
「…怖いんだ。仲間が死ぬのが…あんないい奴らが…」
「…うん…」
「俺が弱いから、努力不足だからこうなるんじゃないかっていつも思ってしまう…」
頭をまたワシワシされる。タオル越しではない。拭かれているのではなく、撫でられていた。
「大丈夫…私達みんな頑張ってるじゃない。あんな少ない勢力だったのがこんなに強くなって、あんな大きな敵とここまで戦ってるなんてすごいじゃない。負けないよ。私達がこんなに頑張ってるんだから…大丈夫」
…きっと、これからも誰かが傷付くだろう。また誰かが死んでしまうかもしれない。だけどそんな根拠のない言葉に、シュライグはひどく安心を覚えていた。
「フェリジット…」
「んー?」
「………もう少し、そうしてもらっていいか?」
「…うん」