フェリジットがアルバスに相談されるやつ
大事な話があるなどとアルバスに言われてフェリジットは部屋に上げた。ホットミルクを二つ作って一つをアルバスの前に置く。そんなアルバスが語り始めたのがこんな話である。
フェリジットはアルバスにデコピンした。
「あうっ」
「男の子なんだからそういうのは普通なのよ。普通」
「フェリジット、オレは真剣な話を……」
「だいたい、なじってなによ? 別に私はエクレシアの保護者でも親族でもないのよ。でもエクレシアとは仲良くしているし泣かせたら許さない。それは怒るわよ」
「でも、俺はこのままじゃ本当に無理やりしてしまうかもしれない。彼女を裏切る真似はできない」
はぁ、とフェリジットは大きくため息をついた。
「あのね。女の子にも性欲はあるし、女の子の方が意外と色んなこと知っているの。アルバスはエクレシアに抱いている感情をエクレシアも持っているのよ」
普段の二人の様子を見ればすぐにわかる。エクレシアが彼をどんな顔をして見ているのか。そもそも、エクレシアからも相談されているのだ。
『フェリジットさん、添い寝をしてみたんです』
『あら、良かったわね。どうだった?』
『それが…抱いてくれるどころかキスもしてくれなくて…』
エクレシアは心底落ち込んでいるようだった。それはそうだ。この前まで聖女だったとはいえ一人の女の子。勇気を出して自分をさらけ出そうとしたのに、なにもなかったなんて。
『私は魅力がないんでしょうか? お姉さまやフェリジットさんみたいな魅力が…』
エクレシアはペタペタ自分の胸を触った。
『そんなこと、ないわよ。次はきっとうまく行くわ』
「じゃあ、この話おしまい。私は寝るし、アルバスも自慰でもしたら?」
フェリジットは空になった二つのカップを片付ける。今夜もエクレシアはうまくいかないかもしれない。明日、こっそり相談でもしようかと思った。
「フェリジット、じいってなんだ?」
アルバスは小首を傾げた。純粋にその言葉を知らない反応だった。
「オレは知らない」
(あっ、そういえばアルバスって記憶がないんだっけ?)
フェリジットはどう伝えたらいいか悩み出した。
「アルバス、ちょっと待って。子供はどうやって作るか分かるわよね」
「ああ、フルルドリスに教えて貰った」
アルバスは少し頬を染めた。なぜ、頬を染めるのかとフェリジットは思ったが少し黙った。
「男女が同じ布団に寝てキスをすると子供が出来てしまう。だからエクレシアとはキスすることができない」
「待って、待って…」
フルルドリスに抱かれたぐらいのことを言われるかと思っていたが、フェリジットは笑いをこらえることに必死だった。フルルドリスはエクレシアがアルバスとくっつくことを良しとしない。だからといってこんな子供みたいなことを教えるのはよくない。
「フェリジット、なにがおかしいんだ?」
フェリジットは自分のベッドサイドの引き出しを開けた。
「これ持って行きなさい。それでこれを見せてエクレシアに子供の作り方を教えて貰うといいわ」
「なんだ、これ」
「まっ、すぐに分かると思うわ」
「それじゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
アルバスは何がなんだか分からないといった様子でフェリジットの部屋を出た。エクレシアが照れなければうまく行くだろう。
シュライグはベッドサイドのテーブルを開けた。そして何度も何度も数を数える。
「フェリジット、三つ少なくないか?」
シュライグの目は漆黒に染まっている。いわゆるハイライトオフというやつである。
「ああ、それね。アルバスにあげたわ」
フェリジットは今頃二人はうまくやっているかなーなんて思いながら返事をした。
「そうか」
「シュライグ、どうしたの? そんな怖い顔しちゃって」
「俺の勘違いだ。別に気にするな」
翌朝、フェリジットは寝坊した。
「ふえっ…」
エクレシアはアルバスの言葉が少し信じられなかった。どうも夢を見ているらしい。
「だから子供の作り方を教えてくれないか?」
アルバスの手にあるのは紛れもなくあれである。エクレシアは自分のほっぺたをつねった。
「痛い…ちゃんと痛い…」
エクレシアは自分の頬がヒリヒリするのを感じた。信じられないことにこれは夢でないらしい。
「エクレシア、どうしたんだ?」
アルバスの手がそっとエクレシアの頬を包んだ。キスをされるのかと思って彼女は目を瞑る。
しかしいつまでたっても感触は来ない。
「アルバスくん?」
エクレシアは目を開けると、彼の顔が目の前にあることが分かった。心底心配している表現をしている。
「そんなに嫌なことだったのか? フェリジットの言葉通りにしたのに」
しゅんと落ち込む彼が可愛らしいと思った。
「そうじゃないんです。ちょっとびっくりしただけで…子供の作り方ですよね。服を脱いでくれますか?」
「そうか。分かった」
アルバスは言われた通りに服を脱ぐ。エクレシアの言うことならすべて従ってくれるようだった。
痛かった。とても痛かった。気持ちいいなんて言葉が嘘だ。でもそれ以上にひとつになれたという達成感や幸福感がエクレシアの中に芽生えた。それにこの痛みは嫌いじゃない。痛いけど辛いわけではない。血が内股を流れる。痛みがまた強くなった。
アルバスがすぐ近くにある。そっと片手を頬に添えた。彼がとても喜んでいて、エクレシアはちょっとだけ優越感に浸れた。こんな彼の表情は自分だけのものだったから。
「エクレシア、平気か?」
ふらふらと倒れそうになる彼女をアルバスが支える。
「ご飯が、ご飯が待っています」
「食堂に行くのは無理だ。オレが取ってくるから」
「おかわりもお願いできますか?」
エクレシアは上目でアルバスを見た。その表情で昨夜のことを思い出しかけて、アルバスは首を横に振る。
「そんなぁ、おかわりダメなんですか?」
「あっ、違う。おかわりも持ってくるから。だから部屋に居てくれ」
朝の時間は慌ただしく過ぎていった。