フィガーランド・ガーリングの生涯 4章(中編)

フィガーランド・ガーリングの生涯 4章(中編)


モンキー・D・ルフィの出現から世界は急激に動乱の時代を迎えた。彼は正に風雲児だった。反天竜人の筆頭であったガープを祖父に持ち、革命軍のリーダーとして天竜人に攻撃を加えていたドラゴンを父に持つルフィはガーリングにとって存在してはいけない生物以外の何物でもなかった。

ガーリングが初めてルフィについて認知したのは「アラバスタ事件」の時だった。七武海「サー・クロコダイル」がアラバスタ王国の乗っ取りを画策し、アラバスタ王女「ネフェルタリ・D・ビビ」に請われたルフィによって打倒された事件である。この事件は表向き海軍によって解決された様に報道されたが、ガーリングは正確な情報を得ていた。ガーリングはルフィがあの忌々しいガープやドラゴンの息子や孫、子孫では無いか?と疑い、大いに警戒するべきだと予感していた。この先ルフィが起こす事件の数々はガーリングに開戦を決意させる大きなきっかけとなった。

その一つが「エニエスロビー陥落」である。護送されるニコ・ロビンとフランキーの救出の為に、当時の世界政府直轄の裁判所を麦わらの一味が襲撃し海兵や当時のCP9を退けた挙句バスターコールから逃げ切った事件である。ガーリングは当時の海兵やCPの失態に激怒し、すぐさま全員処刑するべきだと咆哮した。そして麦わらの一味に協力した疑惑のあるW7市民やCP9が仕留め損ねた「アイスバーグ市長」の抹殺のため再度バスターコールを仕掛けるべきだと主張した。しかし、これも五老星に抑えられた。護送で疲弊した付近の海軍に余力が無い事とW7を破壊する事は海軍や世界政府にも大きなダメージが加わる事が理由だった。ガーリングは手緩い五老星の手法が麦わらのような強力な海賊を育てていると感じていた。そして、本格的に麦わらのような新進気鋭の海賊達への警戒を深めた。ガーリングはこのままでは彼らはいずれロジャーのような凶悪かつ強力な海賊に成長し、現在の脆い均衡は破壊されると危惧した。

その後ガーリングの怒りを更に激しくさせるような事件があった。「チャルロス聖暴行事件」である。シャボンディ諸島でルフィが天竜人の一人「チャルロス聖」を殴り飛ばした事件である。一海賊が天竜人を殴り飛ばすのはこれまで前例のない衝撃的事件であった。この事件によって麦わらの一味は大将「黄猿」の猛攻によって一時的に壊滅した。だが苦難を乗り越えルフィは生き延びていた。そして海軍と四皇との間で勃発した初の全面戦争である「頂上戦争」にも参戦し、大将「赤犬」に瀕死の重傷を負わされ、心身ともに深く傷つきながらも生き延びた。ガーリングはこれまでに無い程憤っていた。ガーリングは麦わらを取り逃した黄猿と赤犬の処刑を強固に主張した。「ゴミの分際で恐れ多くも我々天竜人を殴打するとは!!!!許せん!!許せんぞ!!!貴様らゴミどもは私が必ず殺す!!海軍も当てに出来ない!海軍は何をやっているのか!!あのゴミ親子を生んだガープは未だにのうのうと海軍に所属し、しかも大将への昇進を蹴っているでは無いか!!何故大至急処刑しない!!黄猿と赤犬もまるで役立たずのゴミだ!!麦わらを仕留められないとは!!!奴らも最早この世界に不要!!ガープ共々すぐさま処刑しなければならない!!海軍は腐敗している!!その腐敗を取り除き、膿を出しきらなければ!!」最早海軍に下界は任せられない。ガーリングは神の騎士団による下界への侵攻こそ天竜人生存の唯一の道だという確信を深めた。

頂上戦争から暫く経った後にルフィは新聞を通じ「3D2Y」という謎のメッセージを発した。

ガーリングは数日間考え込んだ末に騎士団達にこう述べた。

「諸君。我々による我々の為の我々の世界を築くための聖戦『開闢戦争』の時は近づきつつある。それは2年後だ。」

後に「終末戦争」と呼ばれる地獄のような戦役の幕開けをガーリングは見定めた。

2年の間、ガーリングは「最後の仕上げ」ともいうべき神の騎士団内部の風紀の引き締めを行った。これは自分が2年後下界に実行するつもりの「粛清」が本当に有効であるかのテストだった。神の騎士団内部においてガーリングは絶対的な権限の持主であったが、反対する者がいない訳では無かった。ガーリングは彼らを「反天竜人的」であるとして処刑した。実力不足の騎士も見せしめに少数処刑した。ガーリングは弱い者や自分に逆らう者は神の騎士団に不要だと堂々と宣言し、死にたくなければ死ぬ気で鍛錬と勉学に励むようにと説いた。神の騎士団は恐怖に支配され、よりガーリングに忠実かつ強力な組織へと生まれ変わった。ガーリングは「粛清」の有効性に確信を得た。

一方、私生活ではガーリングは一際安らかな時間を得ていた。ガーリングは麦わらの一味に被害を受けたチャルロスやシャルリア達を哀れな被害者だと哀れみ溺愛するようになった。ガーリングにとってチャルロスは「自分の息子も手放していなければこのように育てたかった…」と思わせる(かなり愚鈍である点を除けば)理想の息子であり、模範的天竜人だった。ガーリングは彼らの為にも天竜人の敵を全て抹殺し、希望にあふれた未来を託さなければならないと固く誓った。

ガーリングは愛する息子が生きている事を息子の海賊としての台頭を通して知った。いくら大きくなっても愛する息子の事が分からなくなるはずがなかった。シャンクスは、実父のガーリング譲りの才覚と養父のロジャー仕込みの覇気と剣術で四皇にまで上り詰めた。五老星は四皇の一角とのパイプを作る為ガーリングとシャンクスの血縁を利用した。ガーリングはシャンクスと再会する事が出来た。ガーリングは涙を流して喜んだ。ガーリングが己の理想をシャンクスに話した。「お前は下界で育ったが私の力があればここでずっと暮らせる。お前の仲間達も取り立てよう。そして、一緒に私達天竜人に反抗する者達を倒し天竜人の未来を守り、本来あるべき形の『神の』世界を作ろう!」シャンクスは父を拒絶した。下々民を心底見下す悍ましい思想にシャンクスは我慢ならなかった。下々民に囲まれて育ったシャンクスと天竜人思想の権化にして守護者であるガーリングの間には決して埋められない断絶があった。だが、シャンクスはガーリングに傷一つ付けなかった。「『天竜人ではない』自分が天竜人に危害を加えるのは許されない。」と冷静にシャンクスは言った。

ガーリングは頼もしい息子を仲間に出来なかった事を深く哀しみ、同時に彼を誑かしたロジャー達下々民への悲憤と憎悪を膨れ上がらせた。

そうして2年の歳月は過ぎた。

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